最近、ヒットしているクルマといえば、かなりの確率で丸目のクルマが多いことに気付く。スズキはハスラー、ジムニー、スペーシア、アルトラパン、そして9月10日に発売されたワゴンRスマイルも楕円に近いが丸目のヘッドランプを採用している。
ホンダもN-WGNやN-ONE、N-VAN、ホンダe、そしてベストセラー車のN-BOXもヘッドライトカバーは四角いが点灯するLEDヘッドランプ部分は丸目だ。
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写真の右手前から、2020年11月に発売開始した「新型N-ONE」、「初代N-ONE」、「N360」。ヘッドランプ、フロントグリル、テールランプの形状が少し変わったものの、新旧の見分けがほとんど付かない
世界的に人気のSUVにおいてもベンツGクラス、ジープラングラーも丸目だし、最近フルモデルチェンジしたランドローバーディフェンダーも円形の上の部分がカットされてはいるものの、丸目。歴史の長いポルシェ911やMINI、フィアット500もそうだ。
ということで、丸目のクルマは大ヒットする、という法則があるのか、モータージャーナリストの清水草一氏が斬る!
文/清水草一
写真/スズキ、ダイハツ、ベストカー編集部、ベストカーweb編集部
【画像ギャラリー】世界中の個性際立つ丸目のクルマを写真でチェック!!
■丸目の軽自動車
ワゴンRに、まさかのスライドドアモデルが追加された。それがワゴンRスマイルだ。まさかの、と書いたが、実はこれは必然だった。なぜなら、ライバルであるダイハツのムーヴキャンバスの売れ行きが地道に伸びていたからだ。
2021年8月27日に発表されたスズキ『ワゴンRスマイル』は、ガソリン車とマイルドハイブリッド車を用意する。ガソリン車の乗りだし価格は129万6900円で発売開始予定は9月10日
軽自動車業界では、ヒットしたコンセプトは必ず「ほぼそのまんま」のライバルが登場する。スズキが放っておくはずがなかったのだ。
ワゴンRスマイルのデザインテイストは、ムーヴキャンバスに近い、癒し系のホンワカトールワゴン。ヘッドライトは楕円形で、ハスラーのようなメッキ製の縁がぐるりと囲むレトロなイメージだ。
ダイハツ ムーヴキャンバスはどこかレトロな雰囲気があり、スタイルとカラーリングがVWのワーゲンバスを彷彿させる
つまり、ハスラーのスライドドア付きトールワゴンとも言うべき存在。ヘッドライト形状は楕円だが、「丸目」の一種だといえる。
ムーヴキャンバスのヘッドライトは、内側だけが丸い「靴べら型」だが、内側のライト部分は円形。つまりこれも「丸目」の仲間だ。
クルマを丸目にするだけで、レトロでホンワカした印象になる。それはチョーチンとかぼんぼりのように、ダイレクトに「なんとなく昔」を想起させるし、たくらみのない、素朴で純情っぽいデザインに見える。
私は以前から、ムーヴキャンバスのデザインに惹かれていた。キャンバスはもともと、女性向けに企画されたクルマだが、キャンバスには、性別を超えたどうにもならないかわいさがある。
ワーゲンバスに似た雰囲気は、ただかわいいだけではない機能性も感じさせる。ムーヴより25ミリしか高くない全高は見た目のバランスがよく、真後ろから見るとほとんど真四角なので、意外と低重心に見える。安定感が高そうなプロポーションが、クルマ好きのココロに刺さる面もある。
一方のワゴンRスマイルは、キャンバスよりは40ミリ全高が高く、ハイトワゴンに近いトールワゴンだが、スペーシアに比べれば明らかに重心が低い。そして見た目は、キャンバスよりユニセックス寄りで、より幅広い層に受け入れられそうだ。
個人的な感想としては、抱きしめたくなるようなかわいさでは、依然キャンバスの圧勝だ。スマイルの丸目は、太いメッキ縁に囲まれて、牛乳瓶の底のような秀才メガネに見えるのが弱点だろう。
しかし秀才メガネも、カトチャン(加藤茶)みたいなヒョーキンさはあり、「スマイルもなかなかいいな」と思っている。このクルマ、本家ワゴンRを超えるヒットになる可能性が高い。
チョーチンやぼんぼり型の照明器具は、今でも一定のシェアを保っている。それに比べると、クルマの丸目は非常に少数派だ。あまりにも少ないがゆえに、素朴ながら印象は強烈。そのせいか、近年、増加傾向が見えてきた。
スズキの軽を見ると、丸目率の高さに驚かされる。ハスラー、ジムニー、スペーシアギア、アルトラパン、そしてワゴンRスマイルと、5車種もある。
このうち最初に登場したのは、2014年のハスラーだった(ラパンは初代から一部が丸目で、2015年登場の現行モデルから本格的な丸目)。わずか7年間で5台にまで増えたのだから、ある意味スゴイ。
逆に丸目じゃないスズキの軽は、アルト、エブリィワゴン、スペーシア、ワゴンR、ワゴンRスティングレーと、同じく5車種。スズキの軽の半分が丸目になったわけだ。
現在、ヘッドライト形状の主流は異形のツリ目系。丸目はかなりの少数派だが、丸目のクルマは、それだけで存在感があり、平均すると売れ行きもいい。
■丸目のSUV
丸目が最も目につくカテゴリーはSUV系だ。前述のジムニー、スペーシアギア、ハスラーに加えて、ダイハツのキャストもSUV系。登録車ではクロスビーもクロスオーバーSUVだ。
現行の4代目がデビューしてはやくも3年が経つが、いまだ納期は1年待ちと大人気の『ジムニー』。このクルマの丸目はもはやジムニーのアイコンとなっている
輸入車では、本格的なオフロード4WDモデルの丸目が、強烈な存在感を発揮している。ジープラングラー/レネゲード、メルセデスGクラスが見事な丸目なのだ。
最近ここに、ランドローバーの新型ディフェンダーが加わった。正確には四角い目の中に上部が欠けた丸が入っている形だが、これも丸目の仲間に入れていいだろう。
欧州ではDRL(デイタイムランニングライト)が義務化されておりこれを点灯することでクルマのデザインが完成される。また昨今のLED化でデザインの自由度が広がったのも丸目が増えた要因(写真はランドローバーディフェンダー)
ディフェンダーの存在感と人気ぶりを見ると、近い将来、レンローバー系にも、ディフェンダーのような隠れ丸目が登場する予感がする。
また、ラングラーとGクラスは、言うまでもなくオフロード界の偉大なるアイコンであり、世界中で人気となっている。丸目人気は全世界的なものなのだ。
これらのモデルは、フォムルそのものがレトロな真四角タイプなので、丸目が非常によく似合う。四角いクルマは、フォルムが幾何学的なので、同じく幾何学的な丸目が似合いやすい。
■スポーツカーデザインのトレンドは丸目の兆しあり!?
四角いボディといえば、N-BOXのヘッドライトも、四角の中に丸目だ。N-BOXは、ここ数年来、国内販売トップの座に君臨し続けている。実は日本の自動車業界は、丸目に支配されていた……と言えなくもない。
だんだん、丸目こそがヒットの秘訣という、「丸目陰謀論」が、現実味を帯びてきた。
歴史の長いクルマや、リバイバルカーは、SUVならずとも丸目が主流。ポルシェ911、MINI、フィアット500、ホンダeがそれに当たる。
ポルシェ911といえばカエル顔(カエル目ヘッドライト)に馴染みが深い。エンジン水冷化の996で1度だけ丸目を涙目に変更したが997で丸目に戻り、以後ポルシェは伝統のアイデンティティを守り続けている(写真は992型)
今後丸目が広がりそうなのは、スポーツカーの分野だろう。なにしろ、懐古的なデザインが主流になりつつあるのだから。先日北米で発表された新型フェアレディZも、瞳型のヘッドライトで、丸目と言えなくもない。
1960年代のクルマはほぼ丸目だった。1969年にデビューした初代S30型Zはフロントフェンダー前方上部奥に配置された丸目ライトだったので、新型Zはデイライトでそれをアイコンとして表現
その他現行モデルでは、正規輸入はされていないが、ダッジチャレンジャーが丸目4灯だ。かつて一般的だった丸目4灯だが、今や世界中見渡しても、チャレンジャーだけかもしれない。
丸目4灯は、かつての117クーペをはじめとして、中高年世代にとっては見るだけで涙が出る存在だが、このチャレンジャー、2008年の登場ながら、本国アメリカでは、マスタングとともに年間約6万台も売れている。
映画『ワイルドスピード』シリーズで大活躍している影響もあるだろう。丸目はカワイイだけじゃない。超武闘派にもなりうるのだ! 現行カマロやマスタングは、小さめの異形ヘッドライトだが、どちらもレトロ系のデザインだけに、次期モデルは丸目で登場する確率が高いと見る。
アルピーヌA110も、元祖は丸目。それに倣って、かなりの異形だが丸っこい目をしているし、鼻の孔(フォグランプ)は完全な丸だ。
1970年代にWRCで活躍したA110をオマージュして2017年に開発された新生アルピーヌA110。当時のデザインを丸目4灯ヘッドライトで再現
マツダロードスターも、次期型は丸目になる気がしないでもない。初代のリトラクタブル丸目をほうふつとさせるような、デザイン上の工夫に期待したい。ひょっとして次期ロードスターはEVになっているかもしれないが、EVだからこそ、懐かしい裸電球っぽさに期待! なんつって。
今後も丸目はあくまで少数派だろうが、その存在感は、今後も徐々に増していくだろう。なにしろ丸目は隠れヒットの秘訣なのだから。
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