2022年3月9日に欧州市場で世界初公開されたマツダ「CX-60」。その注目の新型SUVが4月7日に日本プレミアされ、詳細が判明した。
マツダの生き残りをかけた新たなる一手、いわゆる「ラージ商品群」と呼ばれるフロントエンジン後輪駆動車のラインナップの第1弾となるのがCX-60で、「走る歓び」と「環境・安全性能」を大幅に進化させたミドルサイズSUVとなっている。
マツダの新型SUVが日本プレミア!! 「CX-60」最速試乗でわかったPHEV&ディーゼルの痺れる実力
日本発売時にラインナップされるパワートレーンは4種類。
・2.5L 直列4気筒ガソリンエンジン(188ps/25.5kgm)
・2.5L 直列4気筒ガソリンエンジン+モーター(PHEV、327ps/51.0kgm)
・3.3L 直列6気筒ディーゼルターボ(231ps/51.0kgm)
・3.3L 直列6気筒ディーゼルターボ+モーター(マイルドHV、254ps/56.1kgm)
ガソリン、ディーゼルともにマツダ渾身の最新技術が盛りだくさんで、「e-SKYACTIV PHEV」はマツダ初のプラグインハイブリッドシステムとなる。
日本での販売開始は、2022年初秋を予定。価格については、英国マツダで4万3950~4万8050(約712万~778万円 ※1ポンド:162円で計算)となっているが、日本仕様の価格については現時点では未発表だ(試乗レポート後半で気になる価格情報もあり!)。
今回は、日本プレミアされたCX-60の開発試作車に最速試乗することができたので、注目の走りと技術を徹底解剖していきたい! 試乗したのは、クリーンディーゼルとPHEVの両モデルで、試乗ステージは山口県の美祢試験場(元MINEサーキット)だ。
文/西村直人
写真/MAZDA
■力強さだけじゃない! 官能性の高さも特筆すべき新開発ディーゼルターボ
まずはターボディーゼルモデル(のAWD)に試乗。マツダにとって新型CX-60は相当の自信作のようで、事前の細かな説明なし。コース走行時の注意事項のみ伝えられ、早々に運転席へと誘われる。
プッシュ式スターターでエンジン始動。8速ATのセレクターは「MX-30」で採用されたものと同タイプ。正しいシフト操作を促すために考えられた独特なシフトパターンだ。
シフト位置を自分に寄せる側(停止側)と、自分から遠い側(走行側)に分け、その走行側では上から後退R/ニュートラルN/前進Dと並ぶから直感的に扱える。
新規開発の3.3L 直列6気筒ディーゼルを搭載したCX-60。「e-SKYACTIV D」を名乗る新エンジンは、踏み込むと「L20ET型」を想起させるエンジンサウンドを奏でる
人間工学を駆使したというCX-60のインテリア。今回の試乗車は内装にも擬装が施されていた
パワーユニットはマツダが満を持して送り込んだ「第2世代SKYACTIV D」。そのトップバッターである3.3L 直列6気筒ディーゼルは、「e-SKYACTIV D」を名乗る。冠に「e」が付くのは48V系のマイルドハイブリッドシステムを採用しているから。つまり立派な電動化車両だ。
新規開発の直列6気筒ディーゼルは総排気量3283ccでシングルVGターボにより過給する(径は2.2Lディーゼルのセカンダリータービンよりも大きく、過給圧は同等)。最高出力187kW(254ps)/3750rpm、最大トルクは550Nm(56.1kgm)/1500~2400rpm。マツダといえばソフトウェアアップデートだが、直6についても必要に応じて検討するという。
早速コースイン……、力強い! 加速力を左右する最大トルク550Nm(56.1kgm)は1500rpmで発揮され2400rpmまで続く。
最高出力は3750rpmで発揮するが、そこを越えてもパワーカーブのダウンは少なく、ドライブセレクターである「Mi-Drive」をスポーツモードにすれば4200rpmあたりまでDレンジのままひっぱれる。レッドゾーンは5250rpmから。
発進、加速、伸びと称される1速、2速、3速ギヤのつながりは抜群にいい。トルク抜けを感じない素早いシフトアップを繰り返すから254psながら速さをずっと感じていられる。シフトダウンも同じく素早い。
その際、骨格から新開発したシートによって腰で連続する加速度である躍度が味わえる。腰で感じるなんてバイクみたいだ。
新開発の3.3L 直列6気筒ディーゼルエンジン。その力強さとエンジンサウンドには驚かされた。大排気量ということで燃費が気になるが、数値は未発表
直6エンジンだけにエンジンサウンドも最高。2500rpmあたりから徐々に高まる重厚な和音は3500rpmをピークに高まっていく。人が音に快感を覚えるためには、[1]低い周波数の割合、[2]ピーク周波数の数、[3]大きさ、この3つが人間工学の上で重要。
今回の直6エンジンでは、[1]重厚な音をしっかり聴かせながら、[2]を基本次数(ピーク)の間にハーフ次数という音の干渉領域をきめ細かく発生させた。同時に、スピーカーからはエンジン音を際立たせる疑似サウンドを小音量で出力する。
疑似サウンドの考え方はBEV「MX-30 EV」から継承されたもので、クルマとの一体感を強調する狙いがある。「音は身体拡張能力に不可欠です」とは、マツダの執行役員で、車両開発・商品企画担当、商品本部長を兼務される松本浩幸氏。
こうして得られたゾクゾクするような直6サウンドに筆者(西村直人)はハマった。正直、加速中は武者震いしっぱなし。
音質が似ているのだろうか、40年以上前、実家で乗っていた430グロリアの日本初ターボエンジン「L20ET型」を思い出した。お聴きになりたい方はYouTubeチャンネル「西村直人の乗り物見聞録」で検索してください。
絶え間なく連続する加速には、第7世代ラージ商品群向けに新規開発された8速ATも大きく貢献する。流体方式のトルクコンバーターを廃したマツダ初の1モーター2クラッチ方式である。
トランスミッションはマツダ内製の新開発8速AT。省燃費とMTのようなダイレクト感を目指し、トルクコンバーターを廃してクラッチを採用している
「日産フーガとかスカイライン・ハイブリッドのアレね」と思った方は鋭いです。違いは2つ目のクラッチ位置。日産方式は、エンジン/クラッチ前/電動モーター/トランスミッション/クラッチ後/後輪という並びだ。
対してマツダ方式の新1モーター2クラッチは、エンジン/クラッチ前/電動モーター/クラッチ後/トランスミッション/後輪となる。電動モーターをクラッチで挟み込むと、できることがうんと増える。
まず、2つのクラッチを連動させた緻密な発進/変速制御が可能になる。ここは1モーター2クラッチ方式の弱点だった。さらに、トランスミッションからPTO(パワーテイクオフ)を経由して前輪へ駆動力を伝えることができるから、後輪モーターを持たずしてAWD化が実現する。そして、電動モーターの出力と2次バッテリー容量を大きくすると後述するPHEVになる。
最大の利点は、トランスミッションからのアウトプット(駆動力)が常にシステムの合算出力であること。だから伝達ロスが非常に少なく、ロバスト性も高い。また、前後の駆動力配分機構もこれまでマツダが培ってきた「i-ACTIV AWD」がそのまま使える。賢く無駄なく、汎用性高く使えるあたり、これぞマツダの生きる道。CX-60のラージアーキテクチャーはマツダの伝統「からくり」の連続だ。
■マツダ初のPHEVはまるでロードスターのような走り!!
続いてPHEVモデルのAWDに試乗。141kW(191ps)/6000rpm、261Nm(26.6kgm)/4000rpmを発揮するレギュラーガソリン仕様の2.5L 直列4気筒ガソリンエンジンに、水冷式の薄型高出力モーター129kW(175ps)/270Nm(27.6kgm)を組み合わせた。8速ATはギヤ比こそ異なるもののディーゼルと同じ1モーター2クラッチだ。
美祢試験場内を走行する「e-SKYACTIV PHEV」搭載モデル。ディーゼルモデルと同じく”聴かせる音”へのこだわり、そしてシャシーの進化を感じることができる
エンジン+モーターシステムの最大出力は241kW(327ps)/6000rpm、最大トルクは500Nm(51.0kgm)/4000rpm。2次バッテリー容量は17.8kWh。マツダのBEVである「MX-30 EV」のハーフ容量版を用いた。注目の0~100km/h加速は5.8秒(ディーゼルは7.3秒)と劇速SUVのトヨタ「RAV4 PHV」を0.2秒上回るパフォーマンスを披露する。
ちなみに三菱「アウトランダーPHEV」は前後モーター合算値で185kW(252ps)/450Nm(45.9kgm)、RAV4 PHVは225kW(306ps)/391Nm(39.9kgm)だ(RAV4 PHVのシステム最大トルクは未発表のため前後モーターの合算値で概算)。
全開加速はこの上なく速い。とくに2000rpmあたりまでの体感加速力はディーゼルモデルを大きく上回る。車両重量は2005kgとディーゼルよりも大人2名分重いが、電動モーターの強みを活かしググッと4つのタイヤで車体が押し出されるからだ。
音もいい! PHEVでもディーゼルモデルと同じく”聴かせる音”の作り込みがなされた。
2.5Lガソリンエンジンは現状のSKYACTIV-Gをベースに大幅に手を加え縦置き化したもの。4000rpmあたりからの甲高く澄んだ音域は横置きタイプにはなかった。作り込みの素晴らしさとともに、最初に活用/流用方法を考えてビス1本の設計から入るマツダが得意とする「MBD/モデルベース開発」の深淵をみた。
マツダ初のプラグインハイブリッドシステム「e-SKYACTIV PHEV」。駆動用バッテリーはリチウムイオンで容量は17.8kWh。水冷式モーターを採用し、EV走行可能距離は61~63kmとなっている
試乗は、市街地を模したゆっくりコースと、サーキットでの激走コースの緩急2種類。サーキットでは、大小パイロンで走行ラインを指定して、カーブ途中からあえてステアリングを大きく切り込むといった、実際の交通環境ではよくあるシーンが設けられた。目的は、「エンジン縦置き方式」と「後輪駆動ベースAWD」の共演を深く体感するためだ。
サスペンション形式はディーゼル/PHEVともに、前/ダブルウイッシュボーン式、後/5本のリンクを使用するフルマルチリンク式。乗り心地に角がなくしっかり減衰し、コーナリング時の限界性能も高く、切り足すステアリング操作にも反応し続ける。
限界性能がつかみやすく、ハーフウエット路面でもタイヤとの対話が成り立つのでかなりの無理が利く。ロードスターから搭載が始まったKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール/運動学に基づいた車両姿勢の制御技術)の効果も高い。
そして無理の先にはオーバーステア傾向をやんわり示すあたり、FRベースだな~と実感。そこからじんわりアクセルを踏み足せば、前輪でグッと引っ張りあげる。この冬、女神湖の氷上コースで乗ったGT-R のアテーサE-TSみたいだ。
CX-60専用コンパウンド配合のブリヂストン「アレンザ001(235/50R20)」による縦横方向の恵まれたグリップ力にもよるが、やはりサスペンションに対する考え方がこれまでのマツダから一歩進んでいる。同じAWDでもCX-5にはなかった挙動だ。大きくて重いけど、小さくて軽いクルマみたいに素直で楽しい。
試乗後、開発陣(お馴染み・虫谷泰典氏)にサスジオメトリーの考え方を伺って納得。いわく、「ND型ロードスターと考え方は同じです」。わずかな運転操作であっても、重さや軽さ、動かしやすさや、にくさなどを、挙動でドライバーにフィードバックしてくれる。2トンのCX-60が1トンのロードスターと同じとは、にわかには信じられないだろうが、乗ってみると手の内感みたいなものは明らかに同一。ND型を愛車にする筆者が言うのだから間違いない。
日本市場には、今回のディーゼル/PHEVのほかに、ディーゼルではマイルドハイブリッドシステムのないモデルが、ガソリンではプラグインハイブリッドシステムのないモデルが、それぞれ純粋な内燃機関モデルとして用意される。また追加のバリエーションとして、直列6気筒3.0LのSKYACTIV-Xと、直6ガソリンターボ&NAもあるようだ。
直6ターボは残念ながら(CX-60としては)日本に導入されないか? 価格は噂ほど高価ではなく、CX-5とオーバーラップするらしい。最もトップモデルはそれなりだろうが、マツダ各モデルは中間グレードのお買い得感が半端ない。今から発売が待ち遠しい!
■CX-60 主要諸元
【e-SKYACTIV PHEV】
・全長×全幅×全高:4742×1890×1691mm
・ホイールベース:2870mm
・エンジン:直4 2488cc + モーター
・エンジン出力:191ps/6000rpm
・エンジントルク:26.6kgm/4000rpm
・モーター出力:175ps/27.5kgm
・システム出力:327ps/51.0kgm
・トランスミッション:8速AT
・バッテリー容量:17.8kWh
【e-SKYACTIV D】
・全長×全幅×全高:4742×1890×1691mm
・ホイールベース:2870mm
・エンジン:直6 3283ccディーゼルターボ + モーター
・エンジン出力:254ps/3750rpm
・エンジントルク:56.1kgm/1500~2400rpm
・モーター出力:17ps/15.6kgm
・トランスミッション:8速AT
・バッテリー容量:0.33kWh
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みんなのコメント
早く試乗したいですね。