実運送体制管理簿が形骸化
最近、X(旧ツイッター)で「実運送体制管理簿の作成義務を回避する裏技がある」と話題になっている。詳細は後述するが、簡単にいえば、下請けの運送会社との契約書に少し工夫を加えるだけで、実運送体制管理簿の作成を避けられる――という抜け道だ。
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このうわさを聞いたとき、筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は
「何かの間違いだろう」
と思った。正直にいえば「間違いであってほしい」とも願った。貨物自動車運送事業法の改正でいよいよ物流革新が本格始動するというタイミングだ。その重要な制度のひとつである管理簿の作成義務が形骸化(本来の意味や機能を失い、形だけのものになること)するのは、不愉快だった。
そこで、自ら国土交通省に問い合わせた。その結果、抜け道が実在することが判明したのだ。XなどのSNSでは、次のような声が上がっている。
「国は何をしたいのか」
「だから大手元請事業者は、実運送体制管理簿作成に取り組んでいなかったのか」
「結局、政府は本気で物流業界を良くしようとは考えていない」
この手法は、すべての下請け契約に適用できるわけではない。しかし、適用できないケースのほうが少ない。そのため、実運送体制管理簿を骨抜きにする抜け道が発見されたといえるだろう。
25年施行の改革、多重下請けにメス
運送業界では、以前から多重下請構造が問題視されてきた。全日本トラック協会も「トラック運送業界の大きな課題である多重下請構造は、実運送事業者に支払われる運賃の低下につながる」と警鐘を鳴らしている。その理由として、次の点を指摘している。
・標準的な運賃は、実運送事業者が収受すべきものであるが、令和4年度の国土交通省の調査では、全体の2割しか希望額を収受できていないことが明らかになっており、下請の立場にある事業者の運賃は更に低い水準に抑えられている実態がある。
・いわゆる水屋は、全てではないものの、輸送に関しての無責任さ、明確な運行指示のない単なる横流しを行う実態があるため、何らかの規制をすべきである。
※以上は「多重下請構造のあり方に関する提言」(全日本トラック協会、2024年3月)より抜粋。
多重下請構造は、業界の99%を中小企業が占めるという業界特性から自然発生的に生まれたものでもある。筆者は以前、当媒体に「率直に言う 運送業界の「多重下請け」は必要悪である」(2023年9月3日配信)という記事を書き、この状況を“必要悪”として論じた。
しかし、下請けの立場にある運送会社の経営状況や、そこで働くトラックドライバーの待遇には深刻な課題がある。だからこそ、多重下請構造の解消は業界の健全化に不可欠だ。ひいては、日本が直面する物流クライシスの回避にもつながる。
その切り札として、2025年4月1日から施行されるのが実運送体制管理簿だった。運送業界からも大きな期待が寄せられていたのだが……。
「罰則なし」で進まぬ管理簿作成
先日、中堅3PL事業者(荷主企業に代わって物流業務全般を請け負う専門企業)の役員と雑談していたときのことだ。
「実運送体制管理簿作成の準備、進んでますか」
そう尋ねると、役員はあっさりといい放った。
「やってないよ、だってあれ、罰則ないじゃん」
国土交通省の「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」に掲載された「改正貨物自動車運送事業法Q&A(※令和7年1月31日時点)」には、こう記されている。
・問:実運送体制管理簿の作成・保存義務に違反した場合、罰則や行政処分の対象となりますか。
・答:罰則はありませんが、トラック法(※貨物自動車運送事業法のこと)第33条に基づく行政処分の対象となる可能性があります。
国土交通省自身が、作成しなくても罰則はないと明言しているのだ。ちなみに、第33条は、違反事業者に対し事業停止や許可取り消しを示唆する条文だ。しかし、実際に行政処分が下るのは、よほど悪質なケースに限られる。
各SNSでは、運輸局に問い合わせたら、管理簿作成の抜け道を示唆されたというような投稿がいくつも見られる。「やってないよ」と平然と答えた運送会社役員の言葉に驚いたが、国土交通省の姿勢を見る限り、むしろ筆者の感覚のほうがズレているのかもしれない。
運送業界の“抜け道”活用術
2025年4月1日施行の改正貨物自動車運送事業法では、「運送契約締結時等の書面交付義務」が課される。
実運送体制管理簿の作成義務は、運送契約の形態によって変わる。貨物“自動車”運送事業者として契約を結ぶ場合は作成が必須。一方、貨物“利用”運送事業者であれば作成義務はない。この点は、Q&Aにも明記されている。
「前提として、契約を結ぶ時点で、自身がどういった者(貨物自動車運送事業者なのか貨物利用運送事業者なのか)として運送を引き受けるかを明確にしていただくことが基本であると考えており、貨物自動車運送事業者として引き受けた場合は作成義務の対象になり、貨物利用運送事業者として引き受けた場合は作成義務の対象にはなりません」
改正法では、貨物“利用”運送事業者は実運送体制管理簿の作成義務はないとしている。作成義務があるのは、多重下請構造において、一番上位にいる貨物“自動車”運送事業者である。
多くの運送会社は「ぶら下がり許可」とも呼ばれる貨物自動車利用運送(第一種貨物利用運送事業)の認可を受けている。そのため、貨物“利用”運送事業者として契約すれば、管理簿の作成義務を回避できる。この抜け道を利用できないのは、ある運送案件について、「自社トラックおよび下請運送会社の両方を利用せざるを得ない運送会社」で、かつ「実運送を担う運送会社と直接契約ができない場合」に限られる。
筆者の肌感覚では、多重下請運送の多くはこの抜け道を利用できるだろう。
改正法再改正の急務と課題
物流関係者(政府関係者も含む)のなかには、わざわざ法の抜け道を公表するなと怒る人もいるだろう。だが、臭いものには蓋をせよといった考え方は、真実が明らかになったときに不信感を招き、最終的には政府の推進する物流革新政策に障害を生む。
筆者の肌感覚では、政府が多重下請構造の解消を政策として打ち出したとき、運送業界の多くは歓迎ムードだった。しかし、実際に実運送体制管理簿の作成を考え始めると、「面倒だ」と感じる運送会社、特にバックオフィス担当者が増えたのではないか。
前述したように、「だってあれ、罰則ないじゃん」といった運送会社役員も、最初は実運送体制管理簿作成に前向きだった。しかし、システム導入の見積もりを取った際、その金額に驚き、モチベーションが下がった。
この抜け道が広まれば、実運送体制管理簿作成を回避しようとする運送会社が増えるだろう。そうなれば、多重下請構造の是正という本来の目的が達成されなくなる。この状況で政府がすべきことはひとつだ。早急に改正貨物自動車運送事業法を再改正し、この抜け道を潰すことだ。
なぜこの抜け道が存在するのか――その理由はわからない。しかし、筆者は法律立案時の検討不足、つまり人的ミスだと信じたい。なかには、
「実運送体制管理簿作成に反対する勢力からの圧力に負けて、政府があえて抜け道を用意していた」
と勘ぐる人もいるが、それはありえないと信じたい。物流革新のモチベーションを下げないためにも、今こそ政府は慎重かつ迅速に対応する必要がある。
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