日々の移動のアシは1970年式フィアット500L
1957~77年の20年で400万台が作られたイタリアの「国民車」が、フィアットの2代目「500」、通称「ヌォーヴァ500」です。小さくて非力ながらも世界中で愛され、現代のフィアットにもデザインが引き継がれている名車を、自動車ライターの嶋田智之氏が日々のアシとして長期レポート。クラシックカーのある暮らしの酸いも甘いもセキララにお届けしていきます。
【過去最高】ルパン三世のフィアット「500」を完全再現! カップ麺も灰皿も『カリオストロの城』のまんまなのには理由がありました
クセの強いクルマばかり乗ってきて、今の相棒は可愛い「チンク」
「はじめまして」の方もいらっしゃるでしょうし、「あー、あんたのこと知ってるよ」な方もいらっしゃるかもしれません。僕は嶋田智之といいまして、フリーランスの自動車ライター/エディターをやってます。クルマ関連のイベントでトークをしてたりもします。2010年いっぱいまではネコ・パブリッシングという出版社に在籍して、Tipo、Car Magazine、ROSSOといった、ちょっとクセのある自動車雑誌の編集者をやらせていただいてました。Tipo時代には編集長なんていう大層な肩書きをいただいてたりもしましたが、それは代謝の激しい業界ながら年功序列の風潮が色濃く残ってた時代だったから。まぁ、ぶっちゃけ、楽しいことしかやらない&できない、自分でも認めざるを得ないくらいのダメ人間です。それでもギリギリ見放されずに生きてこられたのは、読者さんや周囲の人に恵まれていたからです。ほんと、それに尽きますね。
そしてもうひとり……というか、もう1台。いや、こっちの方がはるかに重要です。1970年式のフィアット500L。最初にジェノヴァの街で登録されてから50年の間ずっとイタリアの地をコマネズミのように走り回り、2020年にレストアと呼べるくらい細かく手が入れられて、その年の暮れに船に乗って日本へ向かい、翌2021年の2月に名古屋港に到着。3月に晴れて日本のライセンスプレートを身につけて、以来、日本全国津々浦々──今のところ北は宇都宮から西は神戸までだけど──を走ったり止まったりしています。
日本では「ルパンのクルマ」、イタリアでは誰もがおなじみのアシ車
フィアット500と聞けば、とくにお若い方だと現在ステランティスのラインナップにある「500」と「500C」、そしてEVの「500e」を思い浮かべることが多いのかもしれませんが、そのルーツというべきはこのモデル。クルマにそれほど詳しくはないという人にも、ルパン三世が愛車にしてることで「あっ、これ! 名前なんだっけ?」くらいには知られてる存在です。
世界的には「500」をイタリア語読みして「チンクエチェント」と呼ばれることが多く、日本ではそのまま「ゴヒャク」と呼ばれたりもするこのクルマは、1957年に誕生し、1977年に生産が終わるまでの間におよそ400万台が作られました。
このクルマが登場するまでイタリアの裕福ではないフツーの人はスクーターをアシにしてたのですが、ほかのクルマよりもはっきりと安い価格設定で、しかもスクーターを高価で下取りするキャンペーンを行うなど、フィアットがより購入しやすいやり方で販売してくれたおかげで、チンクエチェントはあれよあれよという間に増殖し、イタリアの国民車のような存在になりました。イタリア人であれば誰もがチンクエチェントにまつわる想い出をひとつぐらいは持ってるといわれるほどで、今では歴史的名車と世界的に認められてもいます。
18馬力の500で東西南北・過去未来を行ったり来たり
このターコイズブルーの愛らしいヤツは、世界的にもいくつかしかないフィアット500の私設ミュージアム、名古屋の「チンクエチェント博物館」が所有する1台。そしてそれを日常的に、僕が走らせています。自動車ライターという仕事柄、レポート用の試乗車を預かるときも多々あって、そのときはそっちを優先させざるを得ないし、雨が降ってるときにはサビるのが心配だから極力外には出したくないのだけど、基本、このクルマでどこにだって走っていきます。たった18馬力しかないからやたらと時間はかかるし、古いクルマだから運転はめんどくさい。もちろん予定や予想にこれぽっちもない事態に足を踏み入れちゃう可能性もないわけじゃないです。っていうか、あります。間違いなく。経験上。
この「週刊チンクエチェント」という連載は、このちっぽけなクラシックカーがある暮らしはどんなモノなのか、嬉しいのか、楽しいのか、つらいのか、苦しいのか、疲れるのか、いったいどうすりゃいいのか……などなどを、素直に正直に伝えていくためのモノです。いいことばかり書くつもりはありません。こうしたクルマと暮らすことが素敵なことなのか、それとも厄介なことなのか。それは皆さんが判断してくださればいいんじゃないか? と思うからです。
このターコイズブルーのクルマ自体の今と過去を行きつ戻りつしながら、チンクエチェントやフィアットというクルマやブランドそのものの世界をも行きつ戻りつしながら、静々と地味ぃーに続けていくつもりです。どんな展開になるのか著者である僕自身まったく想像がつかないし、皆さんにとって有益なものになるかどうかもわかりませんが、どうかよろしくおつきあいのほど御願い申し立て奉る、です。
* * *
この連載をスタートさせていただくにあたって、最初にちゃんと皆さんに御挨拶をさせていただきたいと思ったのでした。だから、今回は「第0回」とカウントするべき予告編。コラムを執筆させていただいた『FIAT & ABARTH fan-BOOK vol.7』の発売日である4月24日の午後5:00に配信させていただきました。今後も、毎週月曜日の夕方5:00に公開というカタチで進めさせていただきます。週の始まりの「5:00pm」配信って覚えやすいでしょ。ナニゴトもないことを僕自身はもちろん祈ってますが、よかったら皆さんも一緒に祈ってくださいねー!
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