アストン・マーティン初のSUV「DBX」が日本に上陸した。今尾直樹が試乗した印象はいかに?
パッと見はコンパクトだけど……長大なホイールベースに驚き!
イギリスの名門アストン・マーティンが2019年11月に中国・北京で発表した同ブランド106年の歴史における初のSUV、DBXの量産モデルが日本にやってきた。
都内の路上で見るDBXは、その外装色が凝縮感を感じさせるガンメタリックということもあっただろうけれど、SUVとしては適度にコンパクトに思えた。具体的には、ポルシェ「マカン」程度に。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiもっとも、それは前後オーバーハングが短くて、曲面の多いデザインによる錯覚で、実際は全長×全幅×全高は5039×1998×1680mmと、マカンどころか、「カイエン」よりも114mm長くて、13mm幅広く、5mm高い。つまり、カイエンとほぼ同サイズといっていい巨体なのだ。
ところが、走り出してビックリ。まるで、「DB11」か「ヴァンテージ」の、ちょっと車高の高いバージョンに乗っているぐらいの感覚で運転できる。
Hiromitsu Yasuiホイールベースはカイエンより165mmも長い3060mmもある。3mを超えているなんて、いまもって筆者には信じがたい。同クラスのライバル、たとえば全長が5125mmのベントレー「ベンテイガ」は2995mm、5112mmのランボルギーニ「ウルス」は3003mm。ランドローバーの新型「ディフェンダー110」だって、全長は4945mm、ホイールベースは3020mmである。
サー・アレック・イシゴニスが開発した革命的小型車のミニは全長3050mm。ミニがすっぽり入るのはDBXだけなのだ。
Hiromitsu Yasuiま、だからなんだ? と、問われれば、ミニがホイールベースに入るかどうかというのはショーファー・ドリブンのひとつの目安である、と、筆者は思っておりまして、実際、あとで後席に乗ってみて、たまげた。
長大なホイールベースと、標準装備の巨大なガラス・パノラマ・サンルーフのおかげで、後席からの眺めはきわめてモダンで、後述するレザーとウッドとウールの世界が広がっている。この席に座るひとびとが見ている世界は金ピカに輝いている。
Hiromitsu Yasuiスポーツカーとは別種の“開放感”
時間を青山一丁目の交差点の角にあるアストン・マーティン東京のショウルームの前で、マカンぐらいのサイズだと思いながら筆者がDBXに乗り込んだところに巻き戻します。
運転席に座っても、コンパクトに感じた理由として、ひとつには190mmというSUVとしては低めの最低地上高があげられる。ステップ不要で運転席に乗り込めるし、乗り込んだ後も、高い着座位置に違和感がない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiコクピットはアストン・マーティンのスポーツカーの流儀にのっとって仕立てられていて、それはドライバーが感じるボディのコンパクト感にもつながっているのだと思う。
センターコンソールのウッドは見目麗しく、レザーで覆われたスポーツ・シートは座面も背面も、クッションが薄くて硬い。ドアの内張の一部に使われた80%ウールのファブリックからは、ウールならではの温かみが伝わってくる。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiメーターとインフォテインメント用、ふたつのスクリーンがドライバーの眼前にあり、ダッシュボードにはアストン・マーティン共通のエンジンのスタート&ストップとギアをセレクトするための丸型スイッチが全部で5つ、センターコンソールの左右にはドライブ・モードの切り替えスイッチが多数、整然と並んでいる。
ルーム・ミラーの視界は上下に狭い。リアのガラスがクーペみたいに寝ているせいだ。
着座位置と天井がやや高いことが、イギリスのスポーツカーの伝統を踏まえたコクピットに広々感をもたらしていて、スポーツカーとは別種の“開放感”をもたらしていることも事実である。緊張と緩和。スポーツカーとSUV の折衷様式、といってもいいかもしれない。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasui乗り心地のよさにも驚いた
ダッシュボードのひときわ大きな丸型のスイッチを押してエンジンをスタートさせる。ヴォッと、アストン・マーティンならではの野太い爆裂音を発してV8が目覚める。スタート・ボタンからふたつ右隣のDボタンを押してブレーキ・ペダルを緩めると、大きなボディがスッと動き始める。
軽い。車重はカタログ上で2245kgある。絶対的には重いけれど、大型SUVとしては比較的軽い。アストン・マーティンお得意のアルミ押し出し材を接着剤でくっつけたボディ構造の賜物である。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiたとえば、おなじ4.0リッターV8ツイン・ターボを搭載するメルセデスAMG 「G63」は車重が2530kgもある。それとの比較でいえば、300kg近く軽いボディは、AMGユニットにとって楽チンというものだろう。まるでフツウのクーペのように発進させる。SUVという形態から想像される、停止状態からスタートする際のためらいはいっさいない。
アストン・マーティンのスポーツカー、DB11とヴァンテージにも使われているメルセデスAMG製V8は、新型SUVへの搭載にあたって、ターボチャージャーと圧縮比を変えることで、さらなる高性能化が図られている。DB11用が最高出力510ps、最大トルク675Nmなのに対して、DBXでは550psと700Nmに強化されているのだ。
組み合わされるギアボックスはメルセデスの9速オートマチックで、DB11などのスポーツカー系のZFの8速ATとは異なり、トランスアクスルではなくて、エンジンの後ろにマウントされている。
走り始めて、乗り心地のよさにも驚いた。硬いことは硬い。いかにもスポーツカーっぽい硬さはある。その硬さを、ふわふわのマシュマロが覆っている。路面のいい一般道を走っている限り、芯はほとんど姿を現さない。
Hiromitsu Yasui首都高速にあがっても、なんの問題もない。小田原厚木道路の一部の箇所のようにうねった路面だと、ボディがふわ~と伸びあがるような感覚がある。
オンロード用のドライブ・モードはアストン・マーティンのスポーツカー、DB11等と同様、GT、スポーツ(S)、スポーツ・プラス(S+)の3種類があり、GTがデフォルトになっている。ということもあって、筆者はもっぱらGTモードで走った。
Hiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiHiromitsu YasuiS、S+にすると、乗り心地が当然ひきしまる。快適な乗り心地の底というか芯のところに、いかにもスポーツカーっぽい硬さを感じる要因のひとつはタイヤだ。前285/40、後ろ325/35というスーパーカー・サイズで、直径は22インチもある。たまさか、先日試乗したベントレー・ベンテイガV8は前後共に285/40ZR22だったけれど、リアはそれよりもぶっとくて、タイヤの側面には最高速300km/hを意味するYRとある。おまけに試乗車は、ピレリのスコーピオン・ゼロを履いている。このオール・シーズン・タイヤはランフラットなのだ。
ということもあって、筆者の記憶のなかのベンテイガV8よりも確実に乗り心地は硬い。でも、もっと路面からのショックを伝えても、不思議ではないスペックなのに、硬いことは硬いけれど、いかにもスポーツカーっぽい硬さであると感じる硬さにとどまっている。そこがスゴい。と筆者は驚いたわけである。
Hiromitsu Yasui技術上の事実として決定的なのは、3チャンバー式エア・サスペンションにある。大容量のエア・サスが懐深くショックを受け止めているのだ。
48V(ボルト)のエレクトリック・アンチ・ロール・システム(eARS)も大書されるべきデバイスである。eARSが最低地上高190mm、全高1680mmの、もうちょっとで170cmじゃん、女子だったらバレーボール部に勧誘されるかもしれない背の高さじゃん、ともいえるトール・ボディを、コーナリング時によろめかせない。その動きを完璧にコントロールしている。
Hiromitsu YasuiHiromitsu Yasuiこれは本当に見事で、山道での人馬一体感ときたら、名門アストン・マーティンの名に恥じない。とイギリス人なら書くであろうハンドリングを実現している。
今回はあいにく雨で、山の上の方は霧が出ていたという条件下ではあったけれど、S+にすると、エグゾーストのフラップが開いて、4.0リッターV8ツイン・ターボが低回転域からいきなり雷鳴のようなサウンドを発し、3000rpmからさらなる咆哮をあげて怒涛の加速を披露する。パドルでダウンシフトすると、ブリッピングしてからギアが落ちる、というレーシーな演出も施してある。
けれど、車両取扱い書に、「Sport+モードは、乾燥した道路の走行専用です」とあることを山頂で知るや、筆者はあわててGTモードに切り替えて山を降った。
Hiromitsu Yasui007ジェームズ・ボンドの秘密兵器にふさわしい性能
まるでミドル級スポーツカーのようなハンドリング。それがDBXの最大の魅力だ、と、筆者は断じたい。ベントレー・ベンテイガV8がグランド・ツアラーだとしたら、アストン・マーティンDBXはスポーツカーである。前後重量配分は54:46と、SUVにしてはフロントが重すぎない、というアストン・マーティンの主張もうなずける。
重量配分だけではなくて、前後トルク配分を最大で47:53、ほとんど100%後輪駆動で走ることもあるという電子制御の4WDシステムも、俊敏なハンドリングに貢献しているに違いない。
Hiromitsu Yasui高速道路での100km/h巡航は、Dレインジに任せていると8速で1500rpm弱、パドルで9速を選ぶと1200rpm程度になる。ここからだと、アクセルを踏み込んでも加速しない。GTモードだと3000rpm以下ではエキゾースト音は控えめで、ロード・ノイズも風切音も低い。もしあの魅力的な爆裂音が聴きたければ、個別にエキゾーストをS+に切り替えればよい。
ボディの剛性感はイギリス車然としたもので、ドイツ車みたいにカチンコチンではない。ちょっとユルい。それによって路面からの入力をいなしているのかもしれない。というのは筆者の想像に過ぎないけれど、適度なユルさが適度なリラックス感を生んでいることは確かである。
ブレーキもまたしかりで、ドイツ車ほどフィールがカッチリしていない。“ぬったり”と効く。慣れれば、これも味わい深い。
Hiromitsu YasuiDBXは、オンロード用のGT、S、S+の3種類に加えて、テレイン、テレイン+(プラス)の2種類のオフロード用のドライブ・モードを備えてもいる。独立メーカーでここまでやるのか、と、筆者はこの点にも驚いた。オンロード用SUVに徹してもよいではないか。
ところがDBXでは、テレインを選ぶと最低地上高を20mm、テレイン・プラスではさらに25mm高くすることができる。前者は72km/h以下、後者は48km/h以下という速度制限がそれぞれついており、水深500mmの渡河能力も持っている。007ジェームズ・ボンドの秘密兵器にふさわしい性能が与えられている。
邦貨2299万5000円のDBXで、積極的に川を渡ろうとする御仁もいらっしゃらないとは思うけれど、それだけ高級SUVマーケットは競争激甚で、他にはない魅力を模索した結果であろうと想像する。
DBXを世に送り出した功績
忘れてはならないのは、アストン・マーティンがメルセデス・ベンツとの技術提携はあるにしても、同社の106年の歴史上、初のSUVであるDBXを白紙から独力でつくりあげた点だ。
ポルシェ・カイエンはフォルクスワーゲン「トゥアレグ」との共同開発なくして誕生しなかったし、ベンテイガもウルスもVWグループのプラットフォームなかりせば、存在しなかったかもしれない。
Hiromitsu Yasuiグローバルの年間販売台数6000台程度の、現代の自動車産業から見ればアリのようにちっぽけなアストン・マーティンがこのSUVのスポーツカーを生み出した。
DBXのためにウェールズに新工場を建てるなど、過度の投資が響いて、新CEOを迎えることになったかもしれないが、その代わり、ミドシップをはじめ、作品は残った。サラブレッド・スポーツカーの仕事が自動車芸術をつくることだとしたら、アストン・マーティンのアンディ・パーマー前CEOは見事にそれを成し遂げた。
イギリスのGQは、ベスト・ラグジュアリーSUV賞をDBXに与えている。筆者は個人的にDBXに「SUVのサラブレッド・スポーツカー賞」を差し上げたい。賞状もなんにもないですけど。
Hiromitsu Yasui文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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