悪路などの走破性を目的に開発された4WDは、駆動力は高いものの曲がりにくいといった欠点があった。しかし電子制御など技術の進化によって、前後の駆動力配分が変えられるようになり、安定して速く走れるようになっていった。今回はランエボなど4WDターボとともに飛躍した三菱の4WD技術の進化を追う!!
文/斎藤聡、写真/池之平昌信、三菱自動車、ベストカー編集部
マニアもうなるアウトランダーPHEVの走り!! ランエボ開発によって進化した究極の4WD技術の結晶だ!!
■ジープの生産から始まった三菱4WD
ラリーに勝つためにコンパクトなボディに4WDターボを搭載して開発された初代三菱ランサーエボリューション
今ある市販車の中でもっとも進んだ4WD制御システムはS-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)だろう。現在ではアウトランダーPHEVとエクリプスクロスPHEVに搭載されている。
三菱の4WDの歴史は古く、掘り下げていくと1953年から始まったウイリスジープのノックダウン生産から始まっている。もちろんこの当時オール・ホイール・コントロール(AWC)なんてことは考えていなかったかもしれないが、4WDを作り続けた結果として得られた知見は、その後の三菱の4WD開発に大きく影響している。
AWCというコトバが登場するのは1980年代に登場した6代目ギャラン(1987年)から。“インディビデュアル(Individual)4ドア”というキャッチコピーで登場したギャランは、4WDモデルのVR-4に4バルブ、4WS(4輪操舵)、4IS(4輪独立サス)、4ABSを搭載しアクティブ4と呼んで、その先進性を前面に押し出していた。
中でも4WSは三菱の提唱するオールホイールコントロール思想へのステップだったように思う。
ギャラン自体1989~1992年の間WRCに参戦しており、篠塚健次郎氏の2勝を含むWRC6勝をマーク。1993年のWRCレギュレーションの変更に合わせて、コンパクトなボディのランサーエボリューションにWRC用マシンをチェンジする。
市販車におけるエボIは、 “速いけれど曲がらない”と評された。リヤサス回りの安定性を高めた結果、グリップ限界付近での曲がりにくさが現れたのだった。FFや4WDはリヤの安定性を高めすぎるとグリップバランスがリヤ寄りになってしまい限界域で曲がりにくくなってしまうのだ。
それを踏まえてサスペンションセッティングに手直しが行われたエボIIは、リヤに1.5ウエイLSDも装備。こんなにリヤが滑って大丈夫? と思えるくらいクルマの向きを変えやすい “曲がるランエボ”になって登場した。エボIIIは安定性と旋回性を整えてバランスよく曲がるランエボに仕上がった。
エボ1~3は、センターデフ+ビスカスカップリングLSDを用いて曲がる性能を主にセッティングとLSDによって作り出そうとしていた。
エボIVでAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)が登場する。このメカニズムの優れた点は旋回時にアウト側の車輪を必要に応じて増速させる仕組みになっており、平たくいえば左右輪に回転差を与えることでヨーモーメントをコントロール(アシスト)するというシステムなのだ。
例えば右旋回であれば、左車輪(後輪)を増させることで曲がりにくい4WDに曲げる力を与えている。
また、リヤが不安定になる場面では、左右輪の回転差をつけることで安定性を高める働きも持っていた。
エボIVに搭載され曲がりやすさに驚かされたが、エボV、エボVIとアップデートするたびに曲がりやすさも進化し、システムの熟成が図られていたことが分かる。
■ランエボVIIで前後トルク配分も電子制御化された
さらに高度な制御が可能となったランサーエボリューションVII
エボVIIになるとAYCに加えセンターデフの前後トルク配分(正確には差動制限量)を電子制御で細かく制御するACD(アクティブ・センター・デフ)が導入される。ACDはトランスファとセンターデフの間に設けた多板クラッチを油圧ポンプによって締結割合をコントロールするというメカニズム。加えてAYCと統合制御することで安定性と旋回性をより高いレベルまで押し上げた。
ランエボIV、V、VIでは、うんと大雑把に言うと、リヤに駆動配分されるパワー(駆動トルク)をAYCで左右に分配することで曲がる性能をアシストしてくれるイメージ。
これがエボVIIになると、前後のタイヤにバランスよくトルクが分配されるようになった。さらにボVIIIでAYCがスーパーAYCとなって、より伝達可能トルクが大きくなった。
これによって姿勢制御が容易になり、安定性と曲がりやすさがアップしてドライバーの意図を組んでくれるようになった。クルマが自在に走ってくれる感覚も増している。
もうちょっと詳しく説明すると、走行シーンに応じてセンターデフの締結をきつくして、安定性やトラクションを高めたり、緩めることによって軽快な旋回性を作り出したりするACDの働きと、AYCによってヨーの発生をアシストしたり逆に抑えたりすることで、走行シーンによってバランスよく前後+後輪左右のタイヤに駆動トルクが分配されるといったイメージだ。
ACD+AYCによって、アナログな4WDコントロールでは引き出しきれないタイヤの性能を発揮しているという感覚がより強くなった。
そして2007年に登場したエボXで三菱はAWC(オール・ホイール)をS-AWC(スーパー・オール・ホイール・コントロール)に進化させる。このシステムはAYCにABS(ブレーキ)とASC(横滑り防止装置)を統合制御したもの。
従来であれば、ASCはアンダーステア/オーバーステアを抑えるために自動的にブレーキをかけ減速するよう作動するが、S-AWCではその手前で旋回をアシストするための(≒速く走るための)ブレーキ制御が行われているのだ。
ランエボXの登場でメカニカルに作動するS-AWCシステムは一応の完成を見る。
■新技術で進化したアウトランダーPHEVの4WD
さらに4WD制御が進んだ現行型のアウトランダーPHEV
その後、S-AWCは複雑なメカニズムを使わない形でも進化を見せることになる。それが2012年に登場した2代目アウトランダー/アウトランダーPHEV(初登場)への搭載だ。
ガソリンモデルは、電子制御カップリングを用いたシンプルな4WDシステムだが、電子制御カップリングの断続による前後駆動配分とブレーキを使ったヨーコントロールを行うことで、4輪の駆動力制御を行うというもの。
一見すると、普通のオンデマンド4WDの前後駆動制御と変わらないように思えるかもしれないが、重要なのは様々なセンサーがクルマの動きを読み取ってシームレスに適切な駆動力を配分するロジック。
それがもっと顕著に現れているのがツインモーターのS-AWCだ。聞くところによると、アウトランダーPHEVの開発に当たって、4輪の駆動力を自由にコントロールできるので、思い通りの操縦性を作り出せると考えていた。
ところが、いざ後輪モーター駆動の4WDを走らせてみるとまったく安定性がなく、思い通りに走らなかったのだという。リヤモーター4WDに取り組んだことで、改めてメカニカルに前輪と後輪がつながった4WDの良さがあることに気付いたという。
その結果S-AWCのドライブモードにはエコ、ノーマル、スポーツ、ロック、スノーを設定した。あえてロックモードを謳ったのは、前後輪の回転が、あたかもプロペラシャフトでつながっているかのように制御させていることへの自信の表れでもある。
3代目となる現行型アウトランダーPHEVは、前後のモーター出力をアップするとともに、これまで左右のトルク配分を前輪(のブレーキ制御)のみで行っていたものを後輪のトルク配分(ブレーキ制御)も加えAYCの性能を高めている。
ちなみに前後輪にブレーキAYC制御を盛り込んだのは、同じヨーを作り出すのに後輪も加えたほうが1輪に加える力を小さくできるから。4つのタイヤをいかに効率よく使って曲がる性能と安定性を高いレベルで両立させるかという三菱の4WDに対する考え方がうかがえる。
三菱がWRCから撤退したとき、これで三菱の4WDの進化は止まってしまうのではないかと思われた。ところが現在、ハイブリッドやPHEVの普及でリヤモーター駆動が容易になったことで、後輪モーター駆動に注目が集まるようになっている。
各メーカー操縦安定性の難しさに直面しているように見えが、三菱がリヤモーター駆動の難しさを比較的楽々(と見える)クリアして見せたのは、ここまでオールホイールコントロールという考え方を4WD制御のコアに据えて開発を続けてきたからだろう。
それは間違いなくランサーエボリューションが進化させた4WDのオールホイールコントロールという考え方や制御技術が現代の三菱車に引き継がれているということに違いない。
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みんなのコメント
数年前のゲリラ豪雨の高速道路で乗用車がまっすぐ走れない濁流の中を安定して踏破できたし、オールマイティに使えるAWDだと思う。
豪華さが取り柄のナンチャテSUV乗りからしたら、硬めの乗り心地が嫌われるだろうけど。