ホンダが運転免許教習所向けに販売する安全運転教育用ドライビングシミュレーターが2021年4月にマイナーチェンジを実施した。そもそも、ホンダがなぜ、ドライビングシミュレーターの開発をしているのか。
前回は、ホンダがいち早く安全運転普及活動を行うことにした経緯が、まさに創業者である本田宗一郎の人に寄り添う企業姿勢を具現化したものであることをお伝えした。今回は、ホンダのドライビングシミュレーターについて歴代モデルから進化の過程を見ていこう。
ドライビングシミュレーターは2輪向けの開発から
ホンダが安全運転教育用シミュレーターを手がけたのも、2輪用が最初だ。
狙いは「KYT」と呼ばれる危険予測トレーニング。KYTは1970年代にドイツで始まり、日本では74年に長山泰久・大阪大学名誉教授が初めて安全運転教育に導入した。
安全運転普及本部もその重要性を認識し、研究開発活動を強化。その取り組みの一つとして開発されたのが、96(平成8)年に完成した世界初の教育用ライディングシミュレーターだ。この年から大型2輪免許が自動車教習所で取得できるようになり、その教習制度施行に合わせてシミュレーター教習が採り入れられるようになった。
2輪シミュレーターは教習所から高い評価を受け、98年には4輪シミュレーターの開発プロジェクトがスタート。2001(平成13)年に初代の4輪ドライビングシミュレーターが発売された。
こだわりすぎの初代4輪シミュレーターは高価だった
開発を手がける安全運転普及本部デジタル推進課があるのは、半世紀以上の歴史を重ねた埼玉製作所・狭山工場の一角だ。じつは筆者は狭山工場と同じ歳。2021年度内の閉鎖を前に思いがけず初訪問することができた。
歴代モデルの変遷にも簡単に触れておくと、初代「DA型」は初心運転者教育用として初めて6軸モーションベースや振動機能付きシートを採用。加減速・ブレーキング・コーナリング時の実車に近い運転感覚を再現した超本格派だ。本体価格も980万円(税別)とそれなりで、危険回避体験編や高速道路体験編(各125万円)などのソフトは別途オプションだった。
2代目は簡素化されるも大幅進化。導入コストもダウン
2010年にフルモデルチェンジされ、第2世代の「DB型」が登場した。画面はシネマスコープ方式の投影装置から、3画面の大型液晶モニターを使った現行の方式に一新。従来の6軸に加えて、低価格の2軸モーションタイプも設定された。また、運転中の危険場面での注意点や安全運転のアドバイスを画像や文字で解説する危険場面解説機能などを新たに追加。高速道路体験編や夜モード・霧モードのソフトは標準になり、価格は2軸式で590万円(税別)と一気に半額近くに。6軸式も900万円(同)と求めやすくなったのだ。
現行モデルは、今どき仕様にアップデート
そして、2021年4月に今回の新型「DB型モデルS」が登場。マイナーチェンジだから2.5世代と言っていいだろう。PCや3画面のモニターはもちろんアップデートされ、シート・ステアリング・ATレバーなどには最新のホンダ車で使用しているものを採用。ソフトは、これまでオプションの第一種免許大型・中型用、第二種免許普通・大型用も標準装備になっている。
最大の違いは、モーションタイプが姿を消した点だ。価格は税抜きで285万円(消費税10%込みで315万5000円)と、先代2軸式の半額以下というさらに大幅な低価格設定を実現している。実践型KYTのコンセプトはこれまでどおりだが、より多くの教習所が導入しやすくする“選択と集中”の進化。従来以上の普及を図ることで一校でも多くの教習所に導入されれば、それだけ安全運転普及活動の貢献につながるのだ。
10年ごとの更新の何故
開発陣によると、モデルチェンジがほぼ10年ごとに行われているのは、ソフトウェアのアップデート以外に、ハードウェアの寿命を考慮してのこと。PCやディスプレイなどには市販品が使われている。メーカーや製品に決まったものは特になく、スペックや価格などその時々で最適なものが採用されている。
システムは初代が6台、2代目は2台のPCを必要としたが、新型は1台で動かすというから、ハードウェアの進化はやはり著しい。3画面の液晶モニターも42型から43型に大きくなり、画質もいっそう鮮明になっているのだ。
〈文=戸田治宏 写真=山内潤也〉
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