3.0L直列6気筒ディーゼル+48VのISG
text:Steve Cropley(スティーブ・クロップリー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
50年に及ぶ歴史を持つ、ランドローバー・レンジローバー。これまで、燃費を気にするべきではないと考えてきたオーナーも多いはず。
確かにこのクラスのSUVを新車で買える人なら、必要なガソリン代くらいは払えるだろう。初期のレンジローバーの燃費は、4.2km/L前後。むしろ昔は、ガソリン代を心配しなくていい財力を持つ、という自慢のような雰囲気もあった。
しかし近年は違う。大型高級SUVであっても、エネルギー効率とCO2の排出量を配慮する必要がある。そして、メーカーは努力と成果を大きな声で主張する。世界の環境基準は厳しくなる一方だ。
ジャガー・ランドローバー(JLR)も、蚊帳の外にはいられない。レンジローバーのモデルチェンジが2021年へと控える中で、マイルド・ハイブリッド(MHEV)版が追加された。たとえ1週間でも、無駄にはできないと考えているのだろう。
3.0Lの直列6気筒ディーゼルエンジンに、2種類のマイルド・ハイブリッドが設定される。D300とD350だ。レンジローバーには、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)版も存在し、発売から1年近くが経つ。でも、このマイルド・ハイブリッド版とは別物。
エンジンは、モジュラー設計によるオールアルミ製のインジニウム・ユニット。4気筒と6気筒を、英国ウォルヴァーハンプトン郊外の近代的な工場で作り分けている。ランドローバーだけでなく、ジャガー・ブランドのモデル用としても。
従来までの、フォード由来のV6とV8エンジンが置き換えられる。ランドローバーにとっては、生産効率でのメリットも大きいはず。
50年の歴史で最も洗練されたエンジン
今回試乗したのは、D350。WLTP値での燃費は10.9km/Lで、CO2の排出量は241g/kmとなる。最高出力は350ps、最大トルクは71.2kg-mと充分にたくましい。0-100km/h加速は、先代のV8エンジン版より0.7秒短く、7.1秒でこなす。
試乗車はオートバイオグラフィーと呼ばれるグレードで、21インチのホイールを履く。最高速度は225km/hだ。
JLRによれば、直列6気筒ディーゼルのマイルド・ハイブリッドでは、CO2の排出量を13%ダウン。パフォーマンスを向上させつつ、NOxの排出量も削減しているという。
大雑把にいうと、先代のV8エンジンに匹敵する動的性能を得つつ、先代のV6エンジン相当の車重に留めている。そうはいっても、2275kgある。
V8エンジンと比較すると、フロント周りが主に軽くなっている。前後の重量配分が改善されることで、走りも良くなるはず。実際コーナーを曲がってみたが、印象は特に従来と変わらなかった。
試乗車で一番印象深く感じたのが、直6エンジンの滑らかさと静かさ。ランドローバーも強調する部分だ。エンジン始動時やアイドリング時のあまりの静かさには、驚かされる。
走行中は、不足ないパワーとトルクがリニアに湧き出る。レンジローバーに積まれたユニットとして、最も洗練されたものだといっていい。ガソリンエンジン版を凌駕している。
エンジンのオートストップ・スタート機能も付く。でも、ほとんど感知させないほど、動作は目立たない。
長距離でも一切の苦労知らずという特長
トランスミッションをスポーティなモードに変え、アクセルペダルを深く踏み込み、キックダウンさせて全力加速を試みる。そうしてやっと、ガラガラしないエンジンサウンドが、遠くから聞こえてくる。アクセルペダルの操作に対する振動も、ゼロといっていい。
パワートレインからのノイズはほぼなく、独立懸架式のサスペンションはとてもしなやか。長距離でも一切の苦労知らずといえるレンジローバーの長所を、さらに高めている。
エンジンが静かだとしても、風切り音やロードノイズ、トランスミッション・ノイズなど、余計な音が引き立つこともない。ランドローバー本社からロンドン郊外に向けて、積極的に運転してみたが、筆者が経験した中で最も静かで落ち着いた走りの1つだった。
新しいパワートレインは、次期レンジローバーに搭載されてもおかしくない仕事をしている。イチオシのユニットといえそうだ。
試乗では、レンジローバーのコーナリング能力を見極められるだけのペースでは走れなかった。だが、電動のパワーステアリングは、改善の余地があるだろう。適度に反応は良いものの、軽すぎる。
ブレーキは素晴らしい。強力で制動力の調整もしやすい。大きなペダルの踏みごたえも、しっかりしている。以前のレンジローバーは、強いブレーキングで自重にうろたえることがあった。しかし、そんな悪癖も昔の話だ。
動的性能と経済性の両面で魅力を増した
今回の試乗では200kmほどの距離を、交通の許す範囲でハイペースに走行したが、得られた燃費は11.7km/L。少し甘めに出る傾向があるから、実際は11.0km/Lくらいかもしれない。それでも、悪くない数字だといえる。
正面面積が大きい大型SUVだから、高速なほど燃費も悪くなるが、パフォーマンスを考えれば評価できる。日常的な運転環境なら、カタログ値の10.9km/Lの燃費を出すことも、英国なら難しくないだろう。
新しいパワートレインを搭載したレンジローバー D350は、動的性能と経済性の両面で、大きく魅力を増したといえる。最高出力300ps、最大トルク66.2kg-mに8速ATが組み合わされた、より安価なD300も、訴求力は高いはず。
両者の違いの差を感じるには、直接乗り比べて確かめるしかない。D300も、基本的にはD350並みに優秀なのだろう。
ランドローバー・レンジローバー D350 MHEV オートバイオグラフィー(英国仕様)のスペック
価格:8万5995ポンド(1160万円)
全長:5000mm
全幅:1990mm
全高:1836mm
最高速度:225km/h
0-100km/h加速:7.1秒
燃費:10.9km/L
CO2排出量:241g/km
乾燥重量:2275kg
パワートレイン:直列6気筒2997ccツイン・ターボチャージャー+ISG
使用燃料:軽油
最高出力:350ps/4000rpm
最大トルク:71.2kg-m/1500-3000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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みんなのコメント
次はV8もBMWのV8を自社設定にセッティングして出して来る話だから、前回BMWの傘下にランドローバーが入ってた時にランドローバーへの評価が上がったから、今回も二匹目のドジョウの狙いかな?