いすゞエルフという小型トラックをご存知だろうか。なかには仕事で乗っている方や、キャンピングカーとして愛用中の方もおられるハズ。このいすゞエルフ、なんと2023年3月に16年ぶりの新型が登場したのである。新型エルフの特徴と走りを徹底チェック!!
※本稿は2023年11月のものです
文、写真/フルロード編集部
初出:『ベストカー』2023年12月26日号
小型トラックのベストセラーにEV追加……標準キャブは30年ぶり一新!! いすゞ新型「エルフ」徹底試乗!!
■小型トラックとは?
2023年3月7日に発表された新型いすゞ エルフ。フルモデルチェンジと同時にEVモデルもラインナップされた
そもそも小型トラックとはどういうクルマだろうか? トラック業界では「2トン車」とも呼ばれるが、これは積載量(2t積)に由来した俗称だ。
確かに2t積は主流だが、実際は3t積もポピュラーで、上には3.5t積、4t積、下には1.5t積(一部は1t積)がある。そして車両総重量(GVW)が3.5t~8tに及ぶため、同じ車名・キャブ(運転台)でも中身は異なる。
シャシーは、はしご型のセパレートフレームで、そのフレームの長さ・高さ・組幅・板厚にはいくつか種類があり、同じ車名で全長・全幅・全高・ホイールベースがまったく違うものが存在する。
加えて、キャブ、アクスル、サスペンション、パワートレーンなどのバリエーションもある。現実には、すべての組み合わせが存在するわけではないが、設定シャシー数は膨大である。
そこでシャシー仕様を便宜的に表現するために、メーカーではホイールベースの長さ(荷台長に比例)を「標準ボディ」「ロングボディ」などと表記し、同じくシャシフレーム上面の地上高(荷台高さ)も「高床」「全低床(エルフではフルフラットロー)」「超低床(フラットロー)」などと表記している。
エルフの例を挙げれば、「ワイドキャブ・3t積・ロングボディ・フルフラットロー」といった調子だ。
なおバン型車やダンプ、ごみ収集車などには、基本的にシャシー改造なしで、その上モノが架装できるようフレームを設計した「特装専用シャシー」が用意されている。
■エルフはトップセラー
現在小トラを開発・生産している国産メーカーは、いすゞ、三菱ふそう、日野の3社。
以前は、トヨタ、日産(生産と一部開発は旧・日産ディーゼルが担当)、マツダ、ダイハツも手掛けていたが、いまやOEM受給車の販売にとどまり、UDトラックス(旧・日デ)も同様。ダイハツは販売からも撤退した。
その小トラ新車市場で、販売トップシェアを保ってきたのがエルフである。コロナ禍では半導体不足から生産不順に陥ったが、1970~2020年の51年間でトップシェアを譲ったのは、2002年のただ1回だけ(三菱ふそう・キャンターが首位を奪取)。
近年は2位の日野 デュトロが、年々差を縮めているが、やはりエルフには及ばない。
■そして7代目誕生!
エルフ・ハイキャブをベースとしたEカーゴ。売れ筋のドライバン完成車だ
新型エルフは、2023年3月7日に発表された。基本設計は、先代(6代目)で新開発したものを継承する部分も多いが、シャシーはディーゼル車とEVで共通化すべく、フレーム構成とE/Eアーキテクチャー(電気・電子システムの構造)を改めた「I-MACS」プラットフォームへ進化した。
伴せて、小トラ初を含むADAS(先進ドライバー支援システム)の装備が一挙に進められ、また30年ぶりに標準キャブを一新、ドライバーの居住性と安全性を高めたことも、大きなニュースである。
歴代エルフが支えてきた「日本の働くクルマ」を、これから担っていく新型エルフには、見どころが満載だ。
■限られた寸法で大きく進化したキャブ
エルフ・GVW5t・標準キャブ・標準ボディ・フルフラットロー2t積(右)と、エルフEV・GVW5t・ハイキャブ・標準ボディ・フルフラットロー1.7t積(左)
藤沢のいすゞプレミアムクラブで、標準キャブの実車(ホイールベース2500mm・フルフラットロー・平ボディの4ナンバー車)に接すると、やはり目を引くのが新しい顔だ。
シャープなラインのシグネチャーLEDランプ(車幅灯)、大面積フロントグリルに組み込まれたいすゞ新ブランドアイデンティティ「ワールドクロスフロー」と、その下の開口部で構成された顔は、「タフで華やかな働くクルマ」を目指したもの。確かに今までのいすゞ車とは違った趣きがある。
4ナンバー登録ニーズも多い標準キャブは、外寸の余裕がないにもかかわらず、室内はドライバー着座時の室内高を22mm拡大して、より多様な体格に対応。
また、インパネ奥行き寸法を減らしてヒザ回り空間を拡大し、インパネ内部構造も変更して前面衝突時の傷害リスクを低減させた。この限られた空間の地道な進化も、標準キャブの見所だ。
インパネは、2眼メーターの間に7インチカラーLCDが組み込まれ、ADASの作動や車両コンディションが見やすくなった。
また、スイッチ類は、小径化した新ステアリングホイール上と、インパネの左右に整然と配置するとともに、運転操作に関わるものをドライバーの近くに寄せ、かつ目的ごとにまとめてレイアウトしている。
■エンジンは同じでもISIMで走りが変貌!
試乗車は、現在の免許制度でいうと準中型免許以上が必要となる車両総重量5tクラスのISIM車で、装備グレードは「SG」仕様。
ISIMは2ペダル自動変速式なので、AT車と同じように運転でき、SG仕様には電動パーキングブレーキやアイドリングストップ&スタート機能などを標準装備する。
荷台に最大積載量の半分となる約1tのウエイトを積み、クルマの重量は約4tに達するが、クリーピングの転がりだしは普通のAT車そのもので、アクセルを軽く踏むと軽快に加速していく。
しかもISIMは変速時のショックをほぼ感じさせることなく、いつの間にかもう8速までシフトアップしていて、60km/hを超えるところだった。エンジンは従来と同じ3.0L直噴ディーゼルなのに、先代エルフの6速AMTとはまるで違う。
また、ISIMは次段をプリセレクトしているうえにクロスレシオなので、減速からの再加速もスマート。エルフが実際に出せる速度自体はあまり変わらないと思うが、新型はとても足の速いクルマに感じられる。
■ついに登場したエルフEV
4ナンバー登録に対応する標準キャブ。前後左右高さとも寸法の制約を受けるが、衝突安全性を高めながら、ドライバー着座空間を拡大した。インパネは親しみやすい造形を追求
新型エルフの大きな話題がEVラインナップの新設だ。
シャシーと、電子制御・電装システム構造(E/Eアーキテクチャー)をディーゼル車と共有する「I-MACS」プラットフォームによって、シャシーバリエーションの拡張と架装物への対応がしやすい、という特徴をもつエルフEVだが、現時点では4車型の設定にとどめ、販売もリースのみとなっている。
EV試乗車は、その4車型の一つとなるハイキャブ・車両総重量5t・バン専用シャシー(ホイールベース2500mm・フルフラットロー)にバンボディを架装。
高電圧バッテリーは、容量20kWhのリチウムイオン電池を3基搭載する。航続距離は不明だが、120~150kmの間ではないかと推測する。
ハイキャブとワイドキャブは先代からのキャリーオーバーとなるものの、フロントフェイスとインパネのデザインを一新しており、特に試乗車のハイキャブは新標準キャブとそっくりだ。
しかしキャブ幅は1770mmと大きく、室内もより広い。1ナンバー(普通貨物車)登録前提かつワイドキャブ(キャブ幅1995mm)よりコンパクト……という先代が生んだイノベーションの一つで、いまではすっかり定着している。
■ディーゼルトラックと違和感ない仕事場
そのエルフEVの走りは、いうまでもなく静粛にしてトルクフル、そして快速だが、意外にも強烈な印象を与えるものではなく、ディーゼルISIM車をもっとスムーズにした感じである。
これは、モーターの動力性能と出力特性がディーゼル車と同等になるよう、いすゞによって躾けられているからだ。
開発エンジニアに狙いをうかがうと、「ディーゼル車に慣れた人が、EVに乗り換えても違和感なく運転できること」が目的という。
ドライバーにとって『積荷を傷めない運転』は基本中の基本、EVならではのドラビリより、大切に積荷を運ぶことの優先度が高いという判断である。
同様のことは、排気ブレーキのかわりに装備する回生ブレーキにもあてはまり、あえて排気ブレーキを大きく上回る制動力はもたせていない。
ただし、ディーゼル車なら1段のみの排気ブレーキは、エルフEVでは弱め・強めの2段となり、アクセルオフ時および回生ブレーキ操作時の「減速の効き方」が4パターンから選べるという新機能も実装されている。
これは電動パワートレーンの制御の自由度の高さゆえに実現したもので、「ドライバーにとって、より運転しやすくなる機能」として提案したいという。
■目が離せない新時代のベスト・イン・クラス!
新型エルフは別項にまとめたADASの大量採用とともに、さすが長年にわたりベスト・イン・クラスの地位を占めてきた、その名を継ぐにふさわしい内容を持つ小型トラックである。
今後は、ハイブリッドモデル、FCV(燃料電池車)モデル、そして普免で運転できる新型車「エルフmio」のデビューを控えている。これからも目が離せないトラックだ。
■新型フォワードも堂々デビュー!
フォワード・GVW8t標準幅フルキャブベースの完成車Fカーゴ・ウイング
新型エルフと同時にフルチェンジを発表していた中型トラック「フォワード」が、2023年8月29日から発売された。
GVWは8t~14.5tと一回り以上大きく、シャシーとパワートレーンは別物だが、キャブプラットフォームはエルフと共用。しかし、ボリュームと骨太感のあるスタイリングに仕上げられており、その風格はまさしく中型だ。
ADASの大量採用も特徴で、レーンキープアシスト、ドライバー異常時対応システム、可変配光型LEDヘッドライト、ブラインドスポットモニター、ドライバーステータスモニター、標識認識機能、標識連動型スピードリミッター、電動パーキングブレーキを新たに設定した。
エンジンは5.2L直4SOHC16バルブの4HK1で、VGSターボの190PS仕様と210PS仕様、2ステージターボの240PS仕様があり、6速MTまたは6速スムーサーFx(AMT)と組み合わせるのは2022年型と同じだが、キャブ空気抵抗の低減により、一部モデルは2025年重量車燃費基準(JH25モード)の達成車となっている。
なお、今後もフォワード最上級モデル(GVW16t~22t)が一新の予定だ。
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