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ブランド存続の危機に瀕するランチア。日本未導入のミニバン「ボイジャー」を見かけて

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ブランド存続の危機に瀕するランチア。日本未導入のミニバン「ボイジャー」を見かけて

日中の最高気温が5度にも届かないベルリンですが、ずっと部屋で仕事をしていたり勉強していたりで空気が悪くなってくると、「空気を入れ替えよう!部屋の空気が悪い!」と言って窓を全開にするのがドイツ人の流儀。「寒い寒い」と言いながら室内の空気が入れ替わるのを待って、5分もしないうちに再び窓を閉めて部屋を暖めます。またはもっとシンプルに「外の空気を吸ってくる!」という人もいて、ドイツ人にとって新鮮な空気というのは、いい仕事(または勉強)をするための大事な要素と考えているようです。

僕もそれにならって、仕事に煮詰まった際には少し散歩をすることにしているのですが、その際に日本のミニバンを思わせるフォルムのクルマに出会いました。フロントとリアにはランチアのバッジ。車名はボイジャー。今回は、クライスラーとフィアットの関係から生まれた「ランチア・ボイジャー」をご紹介します。

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ベースモデルは「クライスラー・グランドボイジャー」

ランチア・ボイジャーのベースになったクルマは、クライスラー・ボイジャー(グランドボイジャー)です。ヨーロッパではロングホールベースモデルのみがラインナップされたため、実質グランドボイジャーが「ランチア・ボイジャー」として販売されていました。ヨーロッパでは、クライスラーとランチアの販売網が統合されたことによって、バッジをランチアに付け替えて2011年から販売を開始。ドイツにおいては2015年まで販売が続けられました。兄弟車としては、他にもフォルクスワーゲン・ルータンやダッジ・グランドキャラバンなどが存在します。

ラルフ・ジルの手によるデザインはクリーンかつシンプルなもので、ランチアのバッジがついたフロントマスクも良く言えば控えめ、悪く言えば主張の少ない造形となっています。あまり大きくは見えないエクステリアですが、実際は全長5,218mm、全幅1,998mm、全高1,750mmとかなり大柄なボディサイズとなっています。ホイールベースは3,078mmに達し、車重も2トン超ということもあって、その大きすぎる車体と決して良くはない燃費はヨーロッパではあまり受け入れられませんでした。

エンジンはディーゼルとガソリンの2種類

搭載されるエンジンは、3.6リッターのV6ガソリンエンジンと2.8リッターの直4ディーゼルエンジンです。ガソリンエンジンは最高出力283馬力、最大トルク344Nmと思いの外パワフルで、6速ATとの組み合わせでこの大きな車体を最高速度209km/hまで引っ張りました。0-100km/h加速も8.5秒と、大柄なバンとしては優秀な性能の持ち主と言えるでしょう。多彩なシートアレンジも、アウトドア派のユーザーにとって嬉しい装備ですね。

ところが、ランチア・ボイジャーのクルマとしての評価はあまり芳しくないものでした。クライスラー・グランドボイジャーとの差別化がほとんど見られなかったこのクルマは、「バッジを付け替えただけのクルマ」として評価され、とくにドイツでの販売は伸びませんでした。2011年から2015年までにドイツで販売されたらランチア・ボイジャーの数は、3,443台とされています。ドイツの中古車市場では50台前後が流通していて、価格もかなり下がっていることから、あまり人気のないクルマとみなされているのでしょう。

ブランド存続の危機に瀕するランチア

あるドイツのメディアでは「今までに販売された10の残念なイタリア車」にランクインしてしまうほど酷評されているランチア・ボイジャー。クルマの出来そのものが悪くなくても、かつてのランチアの名車たちをよく知る人々にとって、クライスラーのバッジを付け替えただけのランチア・ボイジャーはなかなか認められない存在なのかもしれません。ランチア・ボイジャーの生産が終了して以降、ランチアのブランド自体が危機にさらされているのは、こうした販売戦略の失敗も原因の一つと言われています。

新車の開発計画などが一切存在しないランチアですが、「かつてのランチアに戻ってきてほしい」と思っているファンは、きっと世界中にたくさんいるはずです。人々が煮詰まった時にやるように、大きく窓を開けて、新鮮な空気に入れ替えて、ブランドを再建する。そうしたことは、今のランチアには望めないのでしょうか?今後のランチアがどうなっていくのか、じっくりと見守っていきたいですね。

[ライター・カメラ/守屋健]

文:外車王SOKEN 守屋 健
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