この記事をまとめると
■一時期、HIDのヘッドライトが大人気であった
「ハイビーム推奨」だけどローに切り替えないと罰則もアリ! 悩ましい切り替えタイミングとは?
■いまではLEDのヘッドライトが多く採用されており、HIDはほとんど見かけなくなった
■明るさではLEDを凌ぐが、寿命や発光の遅さ、取り付けの煩わしさなどデメリットも多い
一世を風靡したHID、最近どうして見かけない?
みなさんはヘッドライトのバルブを気にしてますか? いまは新しく発売されるクルマのほとんどが明るい「LED」タイプになっていて、ヘッドライトの性能に不満を感じることがほとんどなくなっていますので、ちょっと個性をアピールしたくて、あるいは気分を変えたくて、といった理由でもなければ、ヘッドライトをモディファイしようとすることもないでしょう。
しかし、ちょっと昔を振り返ると、「お、おまえHIDに換えたのか!」という会話がクルマ好き同士の間で普通に飛び交っていた時代(平成初期ぐらいでしょうか?)もありました。「HID」ヘッドライトが登場した当時は、「明るい」「白い」「高級」という要素が好評を得て、少し上のレベルになるアイテムという存在で、しばらくもてはやされていたのを覚えています。
しかし、それから20年以上経ったいまでは、新車に装着されることはほぼなくなり、アフターマーケットのパーツとしても探すのが難しい状況となっています。
あれほど一世を風靡した高性能アイテムが、なぜ廃れてしまったのか? ここではそのことを少し掘り下げてみましょう。
■「HID」ヘッドライトとは?
「HID」とは「High Intensity Discharge lamp」の略で、直訳すると「高輝度放電灯」となります。通称はいくつかあって、「HID」以外に、「ディスチャージランプ」、「キセノンランプ」とも呼ばれています。「バイキセノン」という名称もありましたが、これはハイビームとロービームの両方が「キセノン」仕様のランプという意味で、わりとレアケースです。
発光の原理を簡単に解説しておきます。「ハロゲンランプ」などの“白熱灯”が、“フィラメント”という、通電することで熱と光を発する極細線を光源に持つ方式であるのに対して、「HID」は電極間の“放電”を元にして発光を生み出す方式です。発光方式の違いから、「HID」のバルブを「バーナー」と呼ぶこともあります。
少し詳しく解説しましょう。高温・高圧に耐えるガラス管の両端に電極が設置されています。電極に高い電圧を掛けることでガラス管内に“放電”がおこなわれます。この段階ではまだ淡い発光の状態です。放電が始まって温度が高くなると、電極の金属がガス化してガラス管内に放たれ、封入されている「キセノン」ガスと化学変化がおこなわれ、そのガスの原子が放電によって発光現象を起こすのです。
最初に放電させるために、実際の製品で2万ボルトほどの電圧が必要で、そのために「イグナイター」と呼ばれる昇圧装置が必要になります。また、アーク放電が始まって安定してくるとどんどん電気が流れるようになり、放っておくと発熱がバルブのキャパを越えてしまいますし、最悪の場合はバッテリーや配線が許容電流を越えて発火してしまう恐れがあります。
そのため、一定の電流以上にならないようにワット数を制限する装置が必要になります。それが「HID」の「バラスト」です。「バラスト」とは船の安定用の重りを由来とする装置のことで、バルブに流れる電流を安定・制限する装置です。
よって、「HID」は発光するバルブと、「イグナイター」と「バラスト」が必ずセットになっています(後期のものは「イグナイター」と「バラスト」が一体になったものもあるようです)。
■「HID」の良いところは?
「HID」のいちばんのメリットは明るさです。「LED」のヘッドライトが登場したばかりの頃は同じワット数で1.5倍の差があったとも言われていました。
しかし今は昔、LEDランプもどんどん改良によって進歩してきた結果、いまでは「HID」の明るさを越える「LED」も登場しており、「HID」がいちばん明るいと断言できない状況になっているようです。しかも、「LED」はまだ進歩の途中なので、今後は明るさでも「LED」が1番となるのは必須だと思われます。
いまでも通用するメリットとして“視認性”を挙げる人もいます。これについてはドライバーの感覚によるところもあるので一概には言えませんが、色温度を表すケルビン数が同じでも、光源の光の成分が異なるために照射される対象の見え方が違うようです。その見え方が「HID」のほうが「好ましい」と評価している人が少なからずいるというのを耳にします。
また、見え方と共通するポイントかもしれませんが、色温度=色味のバリエーションはいまでもまだ「HID」のほうが多いようです。最近では「LED」特有のパキッとした真っ白な光がニガテという人に向けて、自然光に近いやや黄色みがかったバルブも選べるようになりましたが、微妙な違いのバリエーションの登場は今後に期待という感じでしょうか。
LEDが普及したいまではメリットがあまりない……
■「HID」の良くない(劣っている)ところは?
「HID」が「LED」より劣っているところを見ていきましょう。
・電力消費量
どれだけ電気を使うかを表すワット数で比べると、「HID」が35Wと55Wの2種なのに対して、「LED」は20~45Wとなっていて、実用照度で見るとLEDの方がワット数を抑えることが出来ます。「ハロゲン球」の2倍と謳われた「HID」ですが、同じくらいの明るさで比べると「LED」の省電力性にはかなわないようです。
・寿命
「ハロゲン球」の600~800時間に対して2倍の2000時間以上という長寿命を誇っていた「HID」ですが、「LED」はその20倍以上の4万~5万時間と言われており、使用状況の違いや製品の誤差はあるものの、比較するのもナンセンスというレベルになっています。
・装着のしづらさ
「HID」は前述のように「イグナイター」と「バラスト」を必要としますので、設計段階でその設置スペースを確保しなくてはなりませんし、部品が増えるということは故障の原因が増えることになりますので、信頼性の確保にコストがかかります。ユーザーとしても故障原因の候補が3つあるのは煩わしいですね。これが「LED」なら「バルブ」のみ、あるいは小さい「コントローラー」があるだけなのでだいぶ管理が楽になります。
ちなみに「HID」で球切れが起きたとき、社外品に交換する場合に注意しなくてはならないのが、「バラスト」とワット数を合わせる必要があるという点です。先述のように「バラスト」には消費電力を一定値に制御する役割があるので、異なるワット数のバルブと組み合わせると、過電流などのトラブルが発生する恐れがあります。
・起動(発光)の遅さ
「HID」はその発光の仕組み上、光量が安定するまでに少し時間がかかるのが欠点です。実際に経験した人はわかると思いますが、体感で1~2秒といった感じでイラつくほど遅くはありません。ただ、パッシングなどの一瞬作動させたい場合には向いていません。それもあってハイビーム側は「ハロゲン球」を組み合わせたヘッドライトが多かったわけですが、なかには特別感を高めるために、冒頭で触れたハイビームも「HID」にした「バイキセノン」という仕様もありました。
■結論:「HID」が使われなくなった理由とは?
まず、上の良い点と悪い点の項目数の違いを見てください。これだけ見てもデメリットの方が多い印象は確定なので、「これでは使われなくなって仕方ないか……」と納得できると思いますが、現行のクルマに乗っていて実感するのは、「HID」ライトがいまの自動運転に向けた進化に合致できないのではないかということです。
とくにわかりやすいのは、ヘッドライトの自動制御機能です。明るいときはオフで、トンネルや暗い場所では自動でオンにしてくれるシーンに出くわした場合を考えてみます。ピーカンのときはトンネルに入った瞬間に視界が一瞬奪われる感じがするくらいに暗さを感じます。「LED」なら瞬間にパッと照らしてくれるので便利だと感じられますが、「HID」に置き換えてみると1~2秒のタイムラグでも不満に感じるでしょう。
また、夜間のハイ/ロー自動切り替え機能でも同様です。一瞬で光量が立ち上がる「LED」または「ハロゲン」は切り替えても暗い時間がほとんどありませんが、「HID」は切り替えるたびに暗い時間が1~2秒生じることになります。これでは使いものにならないでしょう。
少し寂しい感じではありますが、いずれは「エイチアイディー? ああ、そんなライトもあったなぁ」と言われることになってしまうでしょう。技術の進化は留まりも逆行もしないのですから。
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みんなのコメント
事故などで水銀が飛び散るなどの危険性があったり
長い間使っているとそこから放たれる紫外線によって灯体が変色して
古ぼけた印象に見えてしまうのも一理ありますね。
半導体なんで記事の通り半永久的です
実際は基板側が先にガタ来ますが、だとしてもハロゲンとかHIDとじゃ比較にならんことに変わりはない
喫緊じゃないにしてもEVシフトが前提の今、消費電力的にもLED以外を選択しようとはならんでしょう