現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 日本育ちの新星ラッツェンバーガーの事故死から30年。遅咲きの逸材が歩んだF1までの道のりと悲劇

ここから本文です

日本育ちの新星ラッツェンバーガーの事故死から30年。遅咲きの逸材が歩んだF1までの道のりと悲劇

掲載 7
日本育ちの新星ラッツェンバーガーの事故死から30年。遅咲きの逸材が歩んだF1までの道のりと悲劇

 F1の歴史におけるローランド・ラッツェンバーガーの名前は脚注にすぎないのかもしれない。オーストリア人の彼は、他の多くのドライバーと同様にグランプリに数回出走したペイドライバーのひとりであり、本来なら5レースを戦ったのちにシムテックとの短期契約を終了し、すでに名を馳せていたスポーツカーでのレースに戻っていったはずだった。

 12年ぶりにグランプリの週末に死亡したドライバーとなったことで、モータースポーツの歴史におけるラッツェンバーガーの存在は大きく変わった。しかしその24時間後、同地イモラでアイルトン・セナも帰らぬ人となってしまった。あっという間にラッツェンバーガーの名前はほぼ匿名に戻り、熱心なファンと、彼が非常に短いグランプリキャリアのなかでF1パドックで作った数少ない友人たちに記憶されるにとどまった。

今年のF1エミリア・ロマーニャGPで没後30年のセナとラッツェンバーガーを追悼する取り組みを実施へ

 それでも、運命の1994年のサンマリノGPで、イモラにいた我々全員に大きな影響を与えたのはアイルトン・セナの死だったことは否定できないが、ラッツェンバーガーの致命的なクラッシュは、現場にいた多くの人々にとって初めて目撃したものであり、当然のことながら全員に大きな印象を残した。

 悲劇的なイモラの週末から数日も、何週間も、何カ月も、アイルトン・セナの人生についての話ばかりだけでなく、彼の死に至る事故の原因についても語り継がれていた状況のなか、ラッツェンバーガーの生涯と悲劇的な結末についても振り返る時間も少なくなかった。

 オーストリア人は、夢を実現するにいたった屈することのない決意の大きな証となった。称賛されるべき彼のF1への道のりは、決して簡単なものではなく、大人になってからの人生すべてをF1に捧げていなければ達成できなかったはずだからだ。

 ラッツェンバーガーには、彼の夢を支えられる家族のお金はなかった。彼は22歳のときにフォーミュラ・フォードで遅いスタートを切ったが、当時から才能があることは明白だった。彼は4年後にフォーミュラ・フォード・フェスティバルで優勝したが、それはジョニー・ハーバートが優勝した年の翌年であり、エディ・アーバインが優勝する前年のことだった。

 しかし、ハーバートとアーバインが昇格のための支援を受けることができた一方で、ラッツェンバーガーはBMWからのツーリングカーへの移行のオファーを受け入れなければならなかった。そのなかでも彼は十分な資金を稼ぎ、イギリスのフォーミュラ3を戦うための資金を調達することができた。

 その後の観客も少なかったイギリスのフォーミュラ3000シリーズ参戦は、小さいながらも確かな一歩になった。その後の参戦へ向け、ふたたび資金が必要となったラッツェンバーガーは日本へ行き、スポーツカーやツーリングカー、フォーミュラカテゴリーへの出走を重ねながら4シーズンを戦った。日本に居ながらも、彼の目標は変わっていなかった。それはできるだけ多くの資金を稼ぎ、F1に参戦するのに充分なスポンサーを見つけることだ。

 彼の親友であり、日本でも活動していた元F1ドライバーのミカ・サロは、かつてこのように語った。

「ローランド(・ラッツェンバーガー)は本当にお金を節約していたので、ボロボロの服を着ていた。新しい服にお金を使いたくなかったみたいなんだ。だからある時、彼に私の古いジャケット、シャツ、ズボンをあげた。古い服を着続けている彼と、東京で一緒に出かけるのは耐えらなかったからね(笑)。とくに彼は気にしなかったみたいで、気分を害したわけでもなく服を受け取って着て、それに満足していたよ」

 最終的に、モナコを拠点とするスポンサーの支援により十分な資金を得て、1994年シーズン最初の5戦のグランプリに向けてシムテックと契約を結ぶことができた。フル参戦を夢見る彼の一歩目が結実した。そして彼は、5戦を終えた後もF1にとどまるために、より多くのスポンサーを集めることができると確信していた。パドックでの彼の笑顔は、心安らかな男の笑顔だった。自分が目指していたこと、つまりグランプリドライバーになることを達成したことを喜んでいた。

 悲しいことに、フロントウイングがマシンの下に入り込んだことが原因か、その幸せのすべてと、意欲、決意、集中力を祝福する人生に終止符が打たれた。少なくともラッツェンバーガーは、なにかに心と魂を注ぎ込めば、成功するチャンスはいくらでも訪れるという努力の証として、ファンに記憶されるに値するドライバーのひとりであった。

こんな記事も読まれています

海外ライターF1コラム:チームプレイヤーとして最高のマグヌッセンと最低のオコンが直面する運命の岐路
海外ライターF1コラム:チームプレイヤーとして最高のマグヌッセンと最低のオコンが直面する運命の岐路
AUTOSPORT web
【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第9戦】契約延長はめでたいが、ここからが正念場
【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:第9戦】契約延長はめでたいが、ここからが正念場
AUTOSPORT web
ドライビング能力だけではない影響力。サインツ獲得の可否がアウディF1の分水嶺となる可能性
ドライビング能力だけではない影響力。サインツ獲得の可否がアウディF1の分水嶺となる可能性
AUTOSPORT web
F1デビュー間近と噂のアントネッリ。今季ウイリアムズでサージェントのシートを得る可能性も
F1デビュー間近と噂のアントネッリ。今季ウイリアムズでサージェントのシートを得る可能性も
AUTOSPORT web
エイドリアン・ニューウェイがアストンマーティンのファクトリーを訪問。フェラーリ陣営に交渉のプレッシャーか
エイドリアン・ニューウェイがアストンマーティンのファクトリーを訪問。フェラーリ陣営に交渉のプレッシャーか
AUTOSPORT web
RB20の縁石問題を解決するためフェルスタッペンがイモラでテスト。旧型マシンを“参考資料”に弱点を探る
RB20の縁石問題を解決するためフェルスタッペンがイモラでテスト。旧型マシンを“参考資料”に弱点を探る
AUTOSPORT web
早期スタートに終盤遅延。雨対策で6時間超のウエットタイヤ戦をトヨタのベルが制覇/NASCAR第18戦
早期スタートに終盤遅延。雨対策で6時間超のウエットタイヤ戦をトヨタのベルが制覇/NASCAR第18戦
AUTOSPORT web
マグヌッセン、F1シート喪失の可能性を認めるも「そういうことは脇に置いて、マシンに乗ってベストを尽くせる」
マグヌッセン、F1シート喪失の可能性を認めるも「そういうことは脇に置いて、マシンに乗ってベストを尽くせる」
AUTOSPORT web
次世代王者候補ブロック・フィーニーが逆襲。僚友ウィル・ブラウンを降し連勝を達成/RSC第5戦
次世代王者候補ブロック・フィーニーが逆襲。僚友ウィル・ブラウンを降し連勝を達成/RSC第5戦
AUTOSPORT web
プルシェールがシート喪失。アロウ・マクラーレンがノーラン・シーゲルと複数年契約/インディカー
プルシェールがシート喪失。アロウ・マクラーレンがノーラン・シーゲルと複数年契約/インディカー
AUTOSPORT web
F1第10戦木曜会見:ドライバー市場は“サインツの動向次第”に。決断すべき時期を迎えるも「まだ決めかねている」
F1第10戦木曜会見:ドライバー市場は“サインツの動向次第”に。決断すべき時期を迎えるも「まだ決めかねている」
AUTOSPORT web
ホモロゲーション延長でマクラーレンに「余裕」。LMDhプログラムは2027年参戦開始を目指す?
ホモロゲーション延長でマクラーレンに「余裕」。LMDhプログラムは2027年参戦開始を目指す?
AUTOSPORT web
アルピーヌF1代表、ジャック・ドゥーハンが2025年の「候補リストに入っている」と認める
アルピーヌF1代表、ジャック・ドゥーハンが2025年の「候補リストに入っている」と認める
AUTOSPORT web
フェラーリ2台が接触。ルクレール、強引な追い越しを批判「事前の取り決めに背いた」サインツ「彼は文句が多すぎる」
フェラーリ2台が接触。ルクレール、強引な追い越しを批判「事前の取り決めに背いた」サインツ「彼は文句が多すぎる」
AUTOSPORT web
WorldRX“6冠”の絶対王者が電動での王座防衛を捨て、持続可能燃料採用の“内燃機関”モデルに回帰
WorldRX“6冠”の絶対王者が電動での王座防衛を捨て、持続可能燃料採用の“内燃機関”モデルに回帰
AUTOSPORT web
2024年F1第10戦スペインGP決勝トップ10ドライバーコメント(2)
2024年F1第10戦スペインGP決勝トップ10ドライバーコメント(2)
AUTOSPORT web
雨のなか、同一箇所で計4台がコースオフ。太田格之進「死の恐怖を感じるくらいでした」/SF第3戦SUGO
雨のなか、同一箇所で計4台がコースオフ。太田格之進「死の恐怖を感じるくらいでした」/SF第3戦SUGO
AUTOSPORT web
40歳になっても大丈夫。フェラーリF1代表、来季加入のハミルトンに全幅の信頼「チャンピオン経験者のノウハウが、我々には重要」
40歳になっても大丈夫。フェラーリF1代表、来季加入のハミルトンに全幅の信頼「チャンピオン経験者のノウハウが、我々には重要」
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

7件
  • fro********
    1994年、二人の死で解ったこと。日本ではF1ファンは増えたけど、モータースポーツファンは増えていなかったということ。
  • mhs********
    アイルトンセナの死にコメントを求められた星野一義が、セナよりも一緒に国内で戦ってきたラッツェンバーガーの死を悲しんだコメントをしていた...
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村