もくじ
前編
ー 高速ワゴン今昔
ー RS4のエンジン形式は先祖返り
ー C63Sの速さは容赦なし
ー スムースでバランスに優れるRS4
ー 勝敗の決め手は「楽しさ」の有無
お手頃ドライバーズカー選手権(1) アウディRS3 vs AMG A45
後編
ー RS6の優位性を脅かすE63S
ー E63SはまるでGT-R
ー 客観的にはAMGの勝利 ただし……
ー おすすめ中古車 AMG編
ー おすすめ中古車 RS編
高速ワゴン今昔
多くの人は、世界初のハイパフォーマンスワゴンは315psの激辛なアウディRS2だと思っている。もちろん、RS2は荷物をたくさん積めるワゴンの実用性とスーパーカーのような直線スピードを結び付けた最初のクルマである。1990年代半ばに本誌のロード・テスターが見出したように、クワトロ四輪駆動システムとパンチのあるターボ・エンジンのおかげで、48km/hまでは全能のマクラーレンF1よりも速かったのだ。
しかしながら、最初の高速ワゴンはこのクルマではない。それより2年早い1992年に、BMWのE34 M5が登場している。ただし、左ハンドルだけだった。さらにその2年前、日本ではスバルが必要ないほどのパワーを持ったワゴン、200psのレガシィを発売している。
最初の高速ワゴンがアウディなのか、BMWか、はたまたスバルなのかは議論の分かれるところだが、2018年における最高の高速ワゴンがどのメーカーなのかについては、明確に回答できるはずだ。
高速ワゴンの王者ならば、アウディ・スポーツとメルセデス-AMGの一騎打ちだ。まずはアウディの最新型RS4とメルセデスのC63Sを対決させよう。その次はRS6とE63Sの対戦だ。この戦いに勝利して初めて、超高速ワゴンの栄冠を勝ち得ることができるのだ。
RS4のエンジン形式は先祖返り
RS4のミサノ・レッドのペイントは、少なくとも直射日光のもとでは損をしている。ボディ全体が平板に見えてしまい、写真に写っているような隆々とした逞しさがなくなってしまうのだ。実際、そういう場所で見ると、グリルに付いている控えめなバッジにもかかわらず、これがトップレンジのRSモデルだとはにわかには信じがたい。そこへ行くとRS4の横に並んだメルセデス-AMG C63Sは、混乱させる名前ながら上品なブリリアント・ブルーのカラーにもかかわらず、仰々しくて立派に見える。
しかし、あくまで光の加減かボディカラーのせいに違いない。デイトナ・グレーやナバラ・ブルーのRS4であれば、他のミッドサイズのワゴンと同様、タフで筋肉質に見えるはずだ。しかし、RS4で不可解なのはボディの色合いだけではない。このアウディ最新の高速ワゴンには、どうにも納得できない感じが付きまとう。説明しよう。
RS4のエンジンは一周してまた元に戻ってきた。2006年から2015年までの第2世代と第3世代のRS4は、高回転型の自然吸気V8エンジンを搭載していた。加速するためだけでなく、鋭敏なスロットル・レスポンスやドラマチックなサウンドを楽しむためにスロットルペダルを踏み込みたくなるようなエンジンだった。今回の第4世代RS4ではこの4.2ℓV8を捨て去り、ツインターボV6に宗旨替えした。1999年の初代RS4のエンジン形式に先祖返りしたわけだ。
C63Sの速さは容赦なし
RS4より2気筒と1ℓ多いAMG C63Sは、RS4よりも明らかに有利だ。ただし、アウディよりも8000ポンド(120万円)以上も高価だが。メルセデスの4.0ℓV8エンジンはアウディのV6を楽々と上回る。具体的にはアウディの450psに対して510psと明らかに上だし、運転した感じもその通りだ。
RS4が単にとても速いだけなのに対して、C63Sにはまるで直線を加速する新幹線のような、助手席の友人をパニックにさせるような、容赦のない速さがある。四輪駆動のRS4の方がコーナーで速いのは確かだ。しかしそれ以外ではメルセデスのほうが断然速い。
しかし動力性能の絶対値よりも大事なことは、AMGエンジンのパワー・デリバリー特性である。
狂気じみた途方もないトルクが波のように押し寄せ、4つのエグゾーストの先からは火炎と憤怒がほとばしるようで、トラクションコントロールはふたつの駆動輪のゴムを焼かないように悪戦苦闘する。まったく、足をしっかりと踏みしめて馬鹿笑いするしかないような感じである。
スムースでバランスに優れるRS4
RS4はどうか。エンジンはもう少しレスポンシブだが、ドライバーの背中を蹴飛ばしたりはしない。AMGと同じくオプションのスポーツエグゾーストを付けているにもかかわらず、サウンドは不自然で面白みがない。フルパワーをかけると、鼻先にはまるでターボの代わりにスーパーチャージャーがついているように、時折すすり泣くような奇妙なノイズが聞こえる。
スムースなV6をリミットまで回しても、四輪駆動で各タイヤの負荷が減っているためドラマチックなことは何も起こらない。確かに効率的ではあるが、ほとんど印象に残らない。RS4はまったく面白みに欠けるクルマなのだ。
それでも見方によっては、RS4は最高のクルマでもある。ひとつには、先代のV8より30kgも軽いエンジンをより後方に搭載しているため、バランスが良いのだ。カーブにオーバースピードで入った場合でも、リアが緩やかに回り込んでアンダーを打ち消してくれるような感覚だ。アウディのワゴンでは滅多にない、素晴らしいフィーリングである。
限界まで攻めたときでも先代よりリラックスできるクルマだ。カーブを脱出するときのフィーリングも俊敏で素晴らしい。リアの外輪に駆動力を配分するRSスポーツデフが大きな威力を発揮している。
もうひとつ、先代のRS4から大きく進化したのは乗り心地だ。RSスポーツサスペンション(2000ポンド=30万円のオプション)を履いたこの最新モデルは、ガチガチに固かった先代と違い、荒れた道でもビロードのような乗り心地を提供してくれる。
勝敗の決め手は「楽しさ」の有無
このようにRS4には素晴らしい点もあるのだが、やはりより優れているのはC63Sの方である。ステアリングもより正確で、運転して楽しいクルマだ。俊敏でバランスにも優れている。
カーブでのボディの動きやロールが予測しやすいので、限界付近でもリラックスして操縦できる。スタビリティ・コントロールをオフにすれば、素晴らしいAMGの伝統通り、やんちゃ振りを遺憾なく発揮する。単純に、メルセデスのほうが楽しいのだ。
高性能ワゴンに運転の楽しさは必要なのか。有能で速ければ十分ではないのか。おそらく後者だろう。それならこの新型RS4は本当に素晴らしいクルマだ。しかしボディタイプにかかわらず、6万ポンド(900万円)を超える高性能車なら運転が楽しくてもいいのでは、とお思いなら、明らかにメルセデス-AMGの勝ちである。われわれはそう思う。
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