F1チームには多数の人々が関わり、さまざまな職種が存在する。この連載では、普段は注目を浴びる機会が少ないチームメンバーに焦点を当て、その人物の果たす役割と人となりを紹介していく。今回は、アストンマーティンのパフォーマンス最適化部門責任者、ベン・ミッシェルに焦点を当てた。
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【F1チームを支える人々/RB】全部署の連絡役としてチームを回す。アシスタントチームコーディネーターのヒューエット
ランス・ストロールは扱いにくい部分のあるドライバーだ。公の場では発言が少なく、メディアインタビューにおいて、短い言葉しか返ってこないことがある。また、走行中、チームに対する無線で時々辛辣な言葉を発する。
アストンマーティンにおいて、長い間、ストロールのコメントを受け止め続けたのが、元レースエンジニアのベン・ミッシェルだ。彼は今年のオーストラリアGPまでストロールを担当、昇進のためにそのポジションを離れた。
ストロールは時に扱いが難しい相手ではあるが、常に一緒に仕事をするのが難しいとか、いつでもぞんざいな態度を取っているわけではない。たとえば、ミッシェルがレースエンジニアを務めた最後のグランプリでは、ストロールは心のこもった別れのメッセージを送った。
「ベン、無線で君の素敵な声を聞けなくなるのは寂しいよ!」とストロールはメルボルンのクールダウンラップで語りかけた。
ミッシェルはパンデミックの真っただ中である2020年夏にアストンマーティンに加入した。彼のそれまでの経歴を振り返ってみよう。
ミッシェルはバーミンガム大学で機械工学の学位を取得して卒業。モータースポーツに特化した教育を受けたわけではなく、当時、フォーミュラ・スチューデントに参加したものの、卒業後には、イングランド南西部のアグスタウェストランド・ヘリコプター社に就職した。
海軍のヘリコプターと船舶間の飛行制御システムインターフェースにおける、数学モデリングエンジニアとして働いた後、ミッシェルは1年未満でレースの世界に転向した。バーミンガムに戻ったミッシェルは、ダンロップのレースおよび開発エンジニアとなり、モータースポーツ部門でLMP1、LMP2、GTE Proなどの車両やMotoGPのバイクを含む幅広いシリーズでトラックサイドの業務に従事した。
仕事がさまざまなカテゴリーにわたる多角的なものだったこともあり、ミッシェルはダンロップで長く勤め続け、最初にF1の世界に進出するまでの8年以上、その会社に在籍した。
F1への転身を熱望したミッシェルは、モータースポーツ産業協会 (MIA) のレースエンジニアリング冬季学校でディプロマを取得し、以前受けた教育を基にして、それをレースに特化させる形で活用した。
タイヤに関して深い知識を持っていたミッシェルは、わずか数カ月後にはケータハムF1チームにトラックサイド・タイヤエンジニアとして参加、チームの最終シーズンの終盤までその役割を果たし、パフォーマンスエンジニアとしての仕事も担った。ケータハムでの時期は厳しく、小さなチームは破綻してしまったが、2014年シーズンを乗り切った後、ミッシェルは、イタリアのスクーデリア・トロロッソ(現RB)に加入することが決まった。
ファエンツァのチームでトラックサイド・タイヤエンジニアとして働き始めた後、ミッシェルは昇進の道をたどり、2016年にパフォーマンスエンジニアに任命された。その後すぐにレースエンジニアとしての役割も担うようになり、2017年にはピエール・ガスリーのマシンを担当し、テストの仕事も受け持った。
その後、ミッシェルは、新しいオーナーの下で将来に向けた体制を整えていたアストンマーティンに移籍。再びパフォーマンスエンジニアとして働くところからスタートし、1カ月以内にシニアパフォーマンスエンジニアに昇進した。
急速な昇進はその後も続き、2021年シーズンの9月にストロールのレースエンジニアの役割を任された。2023年のオーストラリアGPでは、彼にとって同年ベストの4位を共に達成。2023年から、ミッシェルが今年オーストラリアGP後にパフォーマンス最適化部門責任者に昇進するまでの間に、ストロールはトップ6を6回獲得している。
彼の昇進は、チームの全体的なパフォーマンス向上に大きな影響をおよぼすことが期待されてのものだ。一方で、現在幼い家族を持つミッシェルは、新たなポジションに就くことにより、それまでよりも移動の回数が減ることになった。
ストロールの無線を通してミッシェルの声を聞く機会はなくなったが、彼は今、アストンマーティンがその装備を最大限に活用できるようにするための、重要な役割を担っている。今年のアストンマーティンのマシンは、毎戦ポイント争いに加わるのが精一杯な状態だが、チームはいずれタイトル争いに挑戦することを目標としており、ミッシェルは、その野望の下で力を尽くしている。
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