メルセデス・ベンツファミリーの中にあって、最も多くの人を対象としたモデルと言えるAクラスが新しくなった。今回のAクラスのトピックは、人工知能を搭載し、クルマと対話しながら各種の操作を行うことのできるインフォテイメントシステム「MBUX(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)」や部分自動運転を実現する先進安全装備など、Sクラスと同レベルの機能が搭載されたことだろう。もちろんこれらの機能は利便性と安全性を高める優れた装備だが、新型Aクラスはメルセデスらしく、クルマとしての基本的性能も高められていた。
ビークルダイナミクスと安全システムが刷新! 328万円から体験できるメルセデスの世界
ボルボV60 × メルセデス・ベンツCクラス × アウディA4「ライバル比較インプレッション」
Sクラスと同レベルの先進安全が盛り込まれたと話題の新型Aクラス。そんなメルセデス渾身の新型に試乗できる機会を得たので、レポートしたい。
前述の通り“ハイ! メルセデス”と声を掛けて、クルマと会話をするだけで各種の操作が行えるMBUXという飛び道具的先進装備につい目を奪われがちになるが、新型Aクラスはクルマとしての性能も確実に高められていた。
メルセデス・ベンツにとって「安全」は最重要項目。件のMBUXにしても、エンターテイメント機能ではなく、より安全にクルマを走らせるためのツールであると考えられる。
そのほかにも、インパネのデザインやサスペンションセッティングなど、随所にメルセデスの安全に対する哲学を感じるものだった。
以下、各パートに分けて新型の特徴をお伝えしよう。
よりカッコ良く、快適になった新ボディ
エクステリアのデザインについては先代のイメージを残しつつ、よりスタイリッシュになった印象を受ける。
さらに、フロントスポイラーなどのボディパーツやスポーツホイール、マルチビームLEDヘッドライトなど多岐に渡るアイテムがセットになった超お買い得オプションの「AMGライン(25万5000円)」を装着すれば、よりスポーティなイメージを付加できる。このオプションはぜひ付けたい。
新型Aクラスのボディは、デザイン性だけではく空力性能が向上され、こちらも空気抵抗低減による静粛性や燃費の向上に貢献している。また、ボディとサブフレームが完全新設計され操縦安定性のみならず、振動や騒音も低減されて快適性の面でも進化を果たした。
実際、静粛性については空力効果によって高速走行時でも風切り音は感じることはない。ロードノイズや追い越し加速の際のエンジン音はそれなりに入ってくるが、普通の大きさの声で前後席間でも会話でき、十分に静粛と言えるレベルだろう。後席の居住空間は先代よりも拡大さている。
シンプルモダンで上質感漂うインテリア
室内に目を移すと、すっきりとモダンなデザインで上質感が増した。注目点はドライバーの目前に幅広く鎮座する横長なタッチスクリーン式のセンターディスプレイだ。目前の速度計やタコメーター等を表示するメーターエリアから途切れることなくつながるディスプレイ左側のエリアで、ナビやオーディオほか各種機能の操作を行える。
これらの操作はディスプレイを直接タッチしてもできるが。センターコンソールに設置されたタッチパッドでも行なうことができる。
その画面はクッキリと見やすいし、何しろカッコいい。
そして、ここで強くお伝えしたいのがタッチパッド操作性の良さ。手前のパームレストの存在と大きさと形が良いのだろうが、今まで体験したこの手の装備の中で一番操作がしやすいと感じた。
クルマによってはカーソルが動き過ぎたり、保持安定しなかったりするが、このクルマに関してはそういったストレスは一切感じなかった。
ディスプレイの下に位置する空調系のスイッチもシンプルで使いやす。すっと手を伸ばした先。“あるべきものが適正な位置にある”といった感覚。もっとも、後述するMBUXを装備すれば、このスイッチは使わなくなってしまうのだが……。
内装の見た目については、外装の「AMGライン」に追加する形で発注可能な「AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(20万4000円)」を装着すると、その様相は小さな高級車へと変貌する。本革ツートンシートと、64色に調整可能なアンビエントライト、アルミニウムインテリアトリムがセットになっている。
ジェットエンジンのタービンがモチーフというエアコンの吹き出し口もピアノブラックからアルミ基調となりグッと高級感が高まる上に、そこにアンビエントライトの光が反射することで妖艶な美しさが演出される。
これは脱Cセグメントのキラーアイテム。予算に余裕があれば選択したい。
さらに、ここでもうひとつ強調しておきたい美点が、ハンドル調整のチルト(上下調整)機構とテレスコピック(前後調整)機構の調整幅が圧倒的に広いこと。欧州車は全般に調整幅が広いが、新型Aクラスも同様。
特にテレスコピックの調整量は、国産車ではもっとハンドル位置を手前にしたいと思ってもできないことが多いのだが、そんな問題はまったくない。小柄なドライバーでも不足なく好みのポジションをとることができるはずだ。
安全運転は的確な操作ができる、的確な運転姿勢があってこそのもの。ペダルやハンドルの位置に妥協しなくても良いのは本当にありがたい。
新開発のM282型 1.4ℓ4気筒直噴ターボエンジン
エンジンは新開発の1.4ℓの直列4気筒 DOHC直噴ターボ。先代よりも11%出力向上が図られている。
136ps/20.4kg-mのパワー&トルクは、特別パワフルとか高級感があるといったものではないが、7速DCTと組み合わせられ不満のない加速を披露してくれる。
だが、不満ではないがターボエンジン+DCTというイメージからすると、個人的にはもう少し俊敏な加速をしてくれるとうれしいとは感じた。トップエンドのパワーが足りないといった感じではなく、そこに到達するまでの過渡特性が穏やかに感じたのだ。
まあこれもハンドリングと同様で、誰が乗っても不安を感じることのない穏当な制御と考えれば納得できる。
乗り心地はファミリーカーと言えども、路面の凹凸を感じさせない乗り心地ではなく、路面の状況を把握できるよう段差を乗り越えた衝撃は適度に伝えつつ、減衰させるタイプの王道的な乗り味になっている。
ハンドリングについても、いわゆる弱アンダーで安定性の高い挙動を示してくれる。
スポーツカーのようにハンドルを“切った分だけ曲がる”ようなセッティングではなく、“切った分より少しだけ曲がらない”弱アンダーは安定性が高く、どんなドライバーが運転しても安心感を感じるだろう。
スキルのあるドライバーでも、それくらいの味付けの方が長時間のドライブでは疲労も少なくて済むので、家族とハンドルをシェアする使い方の多いAクラスのキャラクターがハンドリングでも表現されている。
ハンドルの手応え(≒重さ)についても然りで、個人的にはもっと明確手応え(なガッシリ感)を感じる方が好みではあるが、腕力のない女性ドライバーが乗っても、違和感を感じない重さだろう。
Sクラスと同等の安全装備に偽りなし
新型Aクラスには、現在メルセデスが持つ安全性能のすべてが注ぎ込まれている。
法規さえ許せばもう自動運転として運用できそうなレベルの「インテリジェントドライブ」はウインカーを作動させるだけで車線変更できる「アクティブレーンチェンジアシスト」も装備された。
「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」の制御も秀逸で、ステアリングに手を添えているだけで、ほぼ自動運転と言えるレベルで不安も違和感もなく走行してくれる。
車線逸脱を抑制する「アクティブレーンキーピングアシスト」の制御も含め、国産車の同機能と違い、ハッキリとステアリング切って車線を維持するので、運転をクルマに任せているという実感を感じる。
逆に、先行車への追従による加減速は自然で、必要以上に加速したり、減速が足りなかったりといった違和感がない、とても快適な自動運転感覚を味わえる。
高速道路に上がった際にはすぐにスイッチを入れたくなるほどの出来栄えだった。
注目のMBUXは慣れたら、もう手放せない
クルマとしてのデキがよかったので、鳴り物入りで登場したような目玉機能であるMBUXの紹介が最後になってしまった。
昨今スマホのSiriやOK Google、スマートスピーカーのAlexaなど、Ai流行りである。
MBUXも“ハイ! メルセデス”と呼びかけることで、新型Aクラスのさまざまな機能を活用することができる。しかも、“エアコン温度下げる”など、直接的な指示だけでなく“ちょっと暑いなあ”と、会話として話しかけた言葉を理解して対応してくれるのがウリだ。
これは後席からも操作できるので、ドライバーの手を煩わせることなくパッセンジャーが操作することもできる。さらに、運転席と助手席も認識するので、左右独立の温度調整も可能となっている。
機能によってはこちらの要望を理解させるのにコツがいるような印象も受けたが、それを探るも楽しい行為かもしれない。
このあたりの機能紹介はメルセデスのwebサイト新型Aクラスのページに具体例の動画がアップされている。百聞は一見にしかずなので、ご覧いただきたい。
視線も手も離さずにエアコンやオーディオの操作ができるという事実が、安全性を重んじるメルセデス・らしさという所だろうと思う。
さらに、自車の事故を検知したりSOSボタンを押すことでコールセンターに自動でつながる「24時間緊急通報サービス」や、クルマが走行不能になったなどのトラブル時にメルセデスのツーリングサポートに連絡のできる「24時間故障通報サービス」の機能が使える「メルセデス・ミー・コネクト」も搭載し、安全に対する準備も万全だ。
新型Aクラスは、選んで後悔することのない一台
新型Aクラスとのカーライフは、違和感のない自然体で居られる乗り味と、メルセデスの哲学に守られた安全性が魅力のクルマであった。
憧れのスリーポインテッドスターのエンブレムに満足感を感じる人も多いとは思うが、自分のためにメルセデスを選ぶ人はもちろん、大切な人のために安全性の高いクルマが欲しいと考えてメルセデスを選ぶ人にも打ってつけのクルマだと言える。
エントリーモデルであるだけに、装備を抑えれば382万円からこのメルセデスの安全哲学に触れることができる。ファーストカーとしてもセカンドカーとしても、選んで後悔することがない一台と評価できる。
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