5月4日に富士スピードウェイで決勝レースが行われた2018年のスーパーGT第2戦。今回は不得意とされる富士の予選で2番手を獲得、決勝でもリタイアするまで上位を走っていたSUBARU BRZ R&D SPORTや、今なお進化を続けるARTA BMW M6 GT3高木真一の技など、GT300クラスにまつわるトピックスをお届け。
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スーパーGT:第2スティント全ラップで続いた石浦宏明と関口雄飛の攻防/GT500トピックス
■昨年から10km/hアップ。SUBARU BRZが手にした最高速と負わざるを得なかったリスク
ロングストレートを有する富士では、最高速がラップタイムに大きく影響する。大排気量エンジンを搭載するGT3勢に対し、ターボエンジンとはいえ2リッターの最小排気量であるSUBARU BRZ R&D SPORTは、これまで富士で苦闘してきた。
最高速はいつも最下位を争い、単独で走れる予選で上位につけても、決勝ではストレートで抜かれ、離されてしまう。そのBRZが、昨年の第2戦富士から最高速を10km/h近く伸ばし、予選での計測で9番手につけた。予選結果も2番手。「タイヤもドライバーもすべてがうまくハマった。誰よりも自分たちが驚いている」と澤田稔テクニカルコーディネーターは笑顔で語った。
今季のBRZは、リヤフェンダーをボックス形状から流麗なラインに変更するなど、低ドラッグ仕様のカウルを基本としている。さらに、エンジン出力は過給圧で制御されるようになった。その融合が果たした10km/h増。
予選でステアリングを握った井口卓人は、「もちろん、エンジン面でも頑張ってもらっているけど、低ドラッグ化によってエンドスピードが伸びるようになった印象が強い」と話す。
ただし、最高速を得るためのリスクも当然ある。低ドラッグ化はダウンフォースが減る傾向にあり、「ボトムスピードは今年の方が少し遅いかもしれない」と井口。ダウンフォースが減れば、タイヤも摩耗しやすくなる。
それでも最高速が伸びた恩恵は決勝でも大きく、GT3勢から2番手のポジションを守り続けた。しかし、リスクはもうひとつあった。55周目、BRZはエンジンから白煙をあげてランオフエリアにクルマを止めた。原因究明はこれからだが、エンジンへの負荷が増したことが関係しているのかもしれない。
ちなみに、ポルシェは昨年から大きく最高速を落とした。これは今季導入したEVOパッケージにより、フロントのダウンフォースが増したから。結果は、最高速で23番手だったDステーション ポルシェが、決勝では6位。昨年の第2戦富士では3位だったことを考えると、最高速を落とした影響もあったのだろう。
そしてBRZは開発が認められた特権を活かし、最高速とボトムスピードの両立を目指している。今回はリタイアに終わったが、その片鱗は充分に見せつけたといえよう。
■目指すはF1、ライバルは同い年のランド・ノリス!? “超吸収”で学ぶ「F1に活かせるGT300」
今季、18歳のルーキーとしてGT300にデビューした宮田莉朋が、初めて担当した予選で6番手を獲得。その結果に「うれしい」と18歳らしくはにかむが、「それ以上に、公式練習から予選にかけてタイムアップするのが一番の課題だと思っているので、それをできたことがよかった」とストイックさを滲ませた。
宮田が目標とするのはあくまでF1であり、同じ1999年生まれで今年F2を戦っているランド・ノリスを意識している。「本当は16年のFIA-F4でチャンピオンを獲って、昨年からGT300に乗りたかった」と話す。
日本での自動車免許取得は18歳からであり、年齢制限により宮田は昨年GT300に乗ることができなかった。それに対し、ヨーロッパでは18歳になる前から、テストも含めてハコ車に乗っているドライバーが多い。「1年遅れている」と宮田は悔しさを口にした。
F1を目指すドライバーにとっては、フォーミュラでの経験が最優先だ。もちろん、それは宮田も同じだが「GT3はF1の勉強になる」という。ハコ車特有の重さ、大きなロールはフォーミュラで学べないことであり、GT500とGT300の混走となるスーパーGTでは、「視野を広げて走らないといけないレースなので、今後F1に行って、自分が周回遅れになっていようが、トップ争いをしているときのアウトラップの攻略とか、学べる部分は多い」と宮田。
初めてのハコ車では、重さやロール量、ABSを装備したブレーキングなどフォーミュラとの違いに戸惑うドライバーも多い。SYNTIUM LMcorsa RC F GT3のセッティングは経験ある吉本大樹が担当しており、その部分では「まだこれから」というが、RC F GT3の扱いはすでに手中に収めているようだ。1年の遅れを取り戻すべく、宮田は多くのことを吸収し、2戦目にして早くもスピードセンスの高さを見せつけた。かつて、GT300を経てF1にまで上り詰めたドライバーは、トヨタの先輩である中嶋一貴しかいない。宮田も続けるか、その成長と成功を見守りたい。
■成長しているのはウォーキンショーだけじゃない!? 変則予選に向けたタイヤ作りと高木の“技”が活きた完勝
5月3日の予選日は、朝からの濃霧により予定されていたおよそ1時間30分の公式練習が中止となった。予選はQ1、Q2のノックアウト方式ではなく20分間の1本勝負となり、その前に30分間の公式練習という変則的なスケジュールに改められている。また、予選ではタイヤを2セット使用することも認められた。
タイヤには“おいしいポイント”が存在し、予選ではグリップ力を最大限に発揮できるその1~2ラップでアタックするのがセオリーだ。2セット使えれば“おいしいラップ”は倍増することになる。しかし、マザーシャシーのような軽いクルマはタイヤのウォームアップが遅く、1セットしか使えないチームも見られた。
重量級のGT3はタイヤを温めやすいといえるが、20分間の予選で2セット使えるかどうかは絶対ではない。そこでARTA BMW M6 GT3は予選で2セット使うことを見据え、30分間の公式練習で予選用タイヤを作っていたという。
ARTA BMWが今回持ち込んでいたタイヤは、3~4周目が“おいしいポイント”。いつもはアウトラップに時間をかけてゆっくりとタイヤを温めているが、20分間で2セットのタイヤを使おうとするとアウトラップに時間をかけられない。路面コンディションも一定ではないため、アタックラップが前後する可能性もある。それを見越して、公式練習ではスクラブ2周と1周のタイヤを作った。
予選を担当した高木真一は、アウトラップをいつも以上のハイペースで走り、1セット目となった2周スクラブのタイヤでピークがどこに来るかをチェック。そして1周スクラブの2セット目で1分36秒573を叩き出し、最多タイとなる13回目のポールポジションを獲得した。
高木のポールポジションには、ベテランの“技”も大いに影響していた。昨年からの相棒となるショーン・ウォーキンショーは、ブレーキングレベルが高いという。「ショーンは若いからブレーキ踏力が違う」と冗談交じりに話していた高木は、昨年の第5戦富士、「ABSの入りを感じながらブレーキングすることで、1コーナーのブレーキングポイントが怖いぐらい奥になった」と、ポールポジション獲得の理由を明かしていた。
そして今回の予選ではアタックラップのなかで、コーナーごとに異なる路面ミューに応じて、ABSの効き具合を調整していたという。「ざっくり言うと、ABSはドライ用とウエット用をダイヤルで調整できるんだけど、それを場所によっていじっていただけ。経験からくるひらめきでやっているので、まだ開発段階」と高木はいうが、その使い分けが単純ではないのは言うまでもない。また、「開発段階」ということは、さらなる伸びしろを秘めていることにもなる。
決勝は、危なげない走りでそのまま逃げ切り優勝。昨年の第2戦富士は9番手からスタートし、決勝では接触もあって入賞を逃していた。今回はポールポジションからスタートし、中段グループで多い接触のリスクを回避できたのも優勝できた要因だという。
今回のポール・トゥ・ウインは、スケジュール変更に即座に対応して予選に向けたタイヤを作った公式練習から、すでに流れをつかんでいたのだ。そのタイヤを作ったチーム力、いまだ進化を続ける高木の技、GT300参戦2年目を迎えたウォーキンショーの成長──。通算19勝目で単独最多勝となった高木は、「今年は優勝よりもチャンピオンを獲りにいく」という。その確率が高いことを知らしめる一戦となった。
■ピット時間短縮のための奇策。王者の右側タイヤは102周無交換
2回のドライバー交代が義務づけられた500kmレース。「マザーシャシー(MC)勢は、おそらく1回をタイヤ無交換でくる」と、GT3勢のほとんどが予想していた。MCは予選で下位に沈んでも、ピット作業の早さで必ず上がってくる。GT3勢もピット時間を短縮しないと勝負にならない状況にあった。
しかし、重いGT3にとってタイヤ無交換は難しい。とくに富士はタイヤに厳しいサーキットで、昨年の第2戦富士、グッドスマイル 初音ミク AMGは2回、左フロントタイヤがパンクしている。
その王者が今回、2回のピットでいずれも左側のみの2輪交換を敢行。つまり、右側は無交換で102周を走りきったことになる。今回は構造的に壊れる(パンクする)ようなことはなかったが、当然摩耗によるグリップダウンはあったようだ。
結果は4番手からのスタートで5位。順位をひとつ落としてしまったが、「やり切った結果。もちろん優勝したかったけど、この戦略は正解だったと思う」という。今後もこのような戦略を採る可能性について、チームは否定せず。コース外での勝負も見逃せなくなりそうだ。
■“元GT500ドライバー”が見せつけた実力
開幕戦岡山ではUPGARAGE 86 MCの小林崇志が優勝。そして第2戦富士、表彰台には平手晃平(31号車/TOYOTA PRIUS apr GT)と安田裕信(11号車/GAINER TANAX GT-R)の姿があった。
3人に共通するのは、昨季GT500を戦っていたこと。いまのGT300は、かつてないほどにハイレベルだと言われている。そのなかで、平手は王者・グッドスマイル 初音ミク AMGとのバトルを制しての2位。
11号車はオープニングラップのヘアピン、他車に追突されてほぼ最後尾まで順位を落とすが、そこから平中克幸と安田の怒濤の追い上げで3位に。3人の存在が、GT300のレベルをさらに引き上げている。
なお、安田、平手、小林が語る『GT300のいま』は、5月24日発売のautosport No.1482で掲載予定。そちらもお楽しみに。
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