創設4年目を迎えたワンメイク電動オフロード選手権、エクストリームEを引き継ぐ存在として、新たに“水素燃料電池スタックを搭載したレーシングシリーズ”として産声を上げるエクストリームHに向け、新型レース車両が世界初公開に。
バッテリーEVとして戦ってきた『ODYSSEY 21(オデッセイ21)』に対し『Pioneer 25(パイオニア25)』と名付けられたモデルが、来季からチャンピオンシップの主役を張ることとなった。
ロズベルグ率いる王者RXRとサインツのASXEが勝利。新時代の“2強”形成へ/エクストリームE開幕戦
今季の第3-4戦としてスコットランドに回帰し、7月中旬に旧グレンマックロック露天掘り炭鉱跡地でシーズン再始動を迎えるエクストリームEは、ロンドンのタワーブリッジを前にシリーズの洋上パドックを務める元貨客船セントヘレナ号のキャビン上にて、2025年4月に始まる新たなシリーズの新型ワンメイク車両をお披露目した。
チャンピオンシップの公式エナジードリンクパートナーに就任したことを記念し、公式発表会ではレッドブルの特別カラーに彩られたパイオニア25は、2022年に世界初の水素シリーズとなる構想がアナウンスされて以降、開発が続けられてきた「まったく新しいモデル」だと謳われる。
現時点では、北米大陸のエクストリーム系ラリークロス選手権のナイトロクロスが、最高峰グループEクラスにて水素燃料電池スタック搭載の1080PS(800kW)、0-100km/h加速約1.4秒というフル電動ワンメイクEV『FC1-X』を導入済み。ここ日本でも、トヨタの主導により水素燃料を使用した内燃機関のレーシングカーを走らせるなど、世界的に水素を動力源としたモータースポーツ分野での研究開発が続いている。
今回、シリーズではオデッセイ21に引き続きスパーク・レーシング・テクノロジーによって設計および製造された車体に、公式燃料電池プロバイダーであるシンビオ社製の水素燃料電池が搭載され、来季デビューを前に3年間のシーズン走行距離に相当する集中的なテストプログラムを実施するという。
従来のリチウムイオンバッテリーに代わり、出力75kWの水素燃料電池スタックを主なエネルギー源としたパイオニア25は、複合エネルギー吸収衝撃構造を備えたチューブラースペースフレームにFOX製ダンパーを備えた前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションを持ち、従来モデルに対しジオメトリーの改善を施すと同時にセンターシートレイアウトを採用する。
前後各200kWのモーターは450~850Vの電圧でシステム最高出力400kw(550hp)を誇り、325kW、850V、36kWhのバッテリーを用いて、重量2200kg、幅2.4mのレースカーを0-100km/h加速わずか4.5秒で走らせることが可能となる。
■7月のハイドロX Prixにて『パイオニア25』の公開テストを実施へ
「今回の発表は、単に新しい車両に関するものではない。持続可能なモータースポーツの未来を切り開くことでもある」と語るのは、おなじみABB FIAフォーミュラE世界選手権や、エクストリームE、そしてエクストリームHの創設者兼CEOであるアレハンドロ・アガグ。
「水素燃料電池は、二酸化炭素排出量を削減しクリーンエネルギー・ソリューションを推進する素晴らしい機会を提供する。我々はエクストリームHでこの取り組みをリードできることを誇りに思っている」と続けたアガグ。
「そんなエクストリームHへの進化は、我々のチャンピオンシップにとって記念すべき瞬間だ。すべてのモータースポーツ・シリーズが独自のセールスポイントを持つことが重要であり、なかでも水素は非常に重要な要素を占める。我々は間違いなく水素のパイオニアであり、この分野では最初の存在となる。そして、大部分が未開発の資源である要素の可能性を紹介できることをうれしく思う」
レースに出場する各パイオニア25は、標準パーツの共通パッケージで構成されながらも、先代のワンメイク車両と同様にチームにとってのオープン領域として、量産モデルの外観を再現するために前後のボディワークとライトを再設計することが許される。
「我々はオデッセイ21から多くのことを学び、それをさらに発展させていますが、これはまったく新しいシャシーであり、水素燃料電池専用に作られたレーシングカーなんです」と説明するのは、シリーズのテクニカルディレクターを務めるマーク・グレイン。
「我々はレースをより激しくし、クルマをより速くしたいと考えていました。このパイオニア25はオデッセイ21の大幅なアップグレード版で、全体的なパフォーマンスは大きく前進しています。FOX製のドライバー調整式ショックアブソーバーを備えたまったく新しいサスペンション・ジオメトリーは、ドライバーが利用できるパワーとトルクの優れたプラットフォームを提供し、水素燃料電池車がエキサイティングで、頑丈で、非常に堅牢であることを世界に実証したいと考えています」
公式発表では、チャンピオンシップ初のレースカレンダーも公開され、過去4年間の蓄積同様にサウジアラビアで開幕し、イギリスでヨーロッパ・ラウンドが開幕。ドイツへの初訪問を経てイタリアに戻り、最終戦で北米デビューを飾るスケジュールとなっている。その新年度を前に、まずは7月13~14日に開催されるエクストリームEの第3-4戦『ハイドロX Prix』の現地にて、このパイオニア25の初公開テストが実施される。
「水素の大規模な導入は、モータースポーツと自動車業界全体に多大な利益をもたらすだけでなく、地球の未来に多くのプラスの利益をもたらす可能性があるんだ」と続けたCEOのアガグ。
「我々はモータースポーツで水素技術の初のテストベッドとなり、それはレーシングカーだけでなく、輸送、インフラ、燃料補給プロセス、安全規制にも適用される。これは画期的な取り組みで、将来は間違いなくレースの新たなフロンティアとなるだろう」
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