離れていても気分を高揚させるヴァンテージ
英国では、フェラーリ・ローマの広報車両を手配するのが難しい。試乗できる1台を、時間をかけて探した。予定日まで1週間を切った頃、英国編集部へ待望の電話が入った。
【画像】乗り手を覚醒させる傑作 アストン・ヴァンテージ フェラーリ・ローマ ポルシェ911 全108枚
届けられたのは、アブダビ・ブルーに塗られた真新しい車両。純正仕様のミシュラン・タイヤを履いている。協力していただいた、ロブ・バーネット氏へ感謝したい。
今回の比較で、ローマは不可欠だった。公道での楽しさや安楽さと、アウトバーンでの300km/h超の能力を兼ね備えている。812スーパーファスト以上の称賛は得ていなくても、2024年で最も完成度の高いフェラーリだ。
ナイフのようにスリークなフォルムのローマへ立ち向かうのは、最新のアストン マーティン・ヴァンテージ。2024年にアップデートを受け、665psの最高出力を得ている。
シルバーのボディにゴールドのホイール、グリーンの内装というコーディネートは、見事に妖艶。30m離れていても、気分を高揚させる。誇張されたマフラーが見えない角度でも、引き締まった筋肉質なスタイリングと、巧妙なディテールへ惹き込まれる。
ポルシェ911 ターボSは、アメリカ・カリフォルニア州の景色が似合う。目的地までの移動を、悪魔的に高速でこなせる。今回の3台では最も実用性に長け、維持費も少ない。インフォテインメント・システムも段違いに有能だ。
操縦性も出色。アストン マーティンびいきの英国人を虜にすることはなくても、格上の相手を冷酷に打ち負かしてきた過去を持つ。
歴代最強となるAMG由来の665ps V8エンジン
グラマラスなフェンダーを眺めつつ、斜め上へスイングするヴァンテージのドアを開く。2017年に登場した4代目は、大幅に刷新された。ボディシェルは変わらないから、前方視界に目立った違いはないけれど。
やや煩雑なセンターコンソールはそのまま。メルセデス・ベンツ由来の電子技術も継投されているが、優雅な空間に満たされる。5000ポンド(約96万円)のヘリテージデザイン・パッケージで千鳥格子柄を911へ与えても、同じ水準には届かない。
ヴァンテージのインテリアは、今日のローマも霞ませる。フィット感に甘い部分はあっても、グランドツアラーとして乗り手を覚醒させる。1日中運転していたいと思わせる。
豪奢な素材が心を満たす。レザーは、これ以上がないほど柔らかい。精緻な細工が施された、コントローラーへ触れるのも喜びだ。
ブレーキペダルを踏み、スタートボタンを押す。ロータリーダイヤルが自動的に回り、デフォルトのドライブモードが選ばれる。
その後、しばしの待ち時間。アストン マーティン特有といえるが、即座にシステムは実行されない。改めてスタートボタンを押そうとしたら、スターターが唸り、クロスプレーン・クランクの3.9L V型8気筒ツインターボが爆音で目覚めた。
新しいヴァンテージには、ロードカーとして同社の歴代最強となるV8エンジンが載っている。アイドリング時の低音の響きに、メルセデスAMGのDNAが見え隠れする。
磨き込まれた走行マナーへ惹き込まれる
かくして2024年のヴァンテージは、以前よりワイドになり、ハードになり、パワフルになった。見た目もシリアス。サウンドも、ドイツ的だがリアルだ。
もう1つ注目すべきポイントは、リアタイヤ。ビルシュタイン社製の最新ダンパーもさることながら、ミシュラン・パイロットスポーツの幅は325もある。
これは、ヴァンテージの路面との関係性が、流暢から束縛へ転じたことを意味するように思う。911 ターボSは315だが、ローマは285で細身に見えてしまう。
ローマのV8エンジンは、3.9Lのフラットプレーン・クランク。最高出力は620psで、ヴァンテージと大差ない。車重は100kgも軽く、発進時は一層活発だ。
ヴァンテージを数km走らせると、磨き込まれたマナーへ惹き込まれる。鍛造の21インチ・ホイールを履き、低速域での乗り心地が硬いことも否めないが、走りに対する意思表明といえる。不快なほどではない。
サスペンションは、速度抑制用のスピードバンプをなだめる。舗装の剥がれた穴で、強い衝撃が届くこともない。ひと回り小径なホイールを履くローマが、滑らかなことは明らかだが、ヴァンテージも快適と表現できる。
速度が上昇するほど、しなやかさが増す。高い負荷をダンパーが受け止める。運転姿勢は、911 ターボSの次に快適。つま先の奥には、81.4kg-mものトルクが控えている。
ペダルとステアリングの感触が超絶に融合
ローマはフットレストが小さく、足もとの空間に余裕がない。背が高めのドライバーの場合、クルージング時は左足の置き場に少し困る。そのかわり、スリムなシートは身体を包んでくれる。
911 ターボSは、3.7L水平対向6気筒エンジンが生む650psを受け止めるべく、リアサスペンションが硬い。高速道路では、エグゾーストノートをピレリ・タイヤのノイズが打ち消す。長距離移動との親和性へ、影響を及ぼしている。
とはいえ、運転体験は相変わらず素晴らしい。口直しといえるような、まとまりにある。グレートブリテン島の国道を走らせれば、世界最高のパフォーマンスカーを提供するメーカーとして、一目置かれる理由を実感する。大黒柱がSUVだとしても。
ターボで過給されることを、鋭いレスポンスが忘れさせる。アクセルとブレーキ、ステアリングの感触はソリッドで、反応は線形的で正確。それらが超絶に融合している。
911 ターボSは四輪駆動で、フロントにドライブシャフトが備わる。後輪操舵システムも。こんな複雑な技術を実装していても、言葉を失うほどスムーズ。冷や汗をかくような、危うさも皆無といえる。
発進させれば、自ずと運転に夢中になる。ドライブモードをスポーツ・プラスへ切り替える。ただし、ダッシュボード上のスイッチで、サスペンションはソフトに戻したい。英国の道では少し硬すぎるから。
この続きは、アストン・ヴァンテージ フェラーリ・ローマ ポルシェ911 3台比較(2)にて。
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