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なぜ新型ニッサン・アリアはハッチバックなのか?

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なぜ新型ニッサン・アリアはハッチバックなのか?

日産の新型EV(電気自動車)「アリア」について、同社のグローバルデザイン部門で責任者を務めるアルフォンソ・アルバイサ氏に田中誠司がインタビューした。氏のアリアに対する思いとは?

VRの積極的な活用

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日産自動車の専務執行役員であり、グローバルデザイン部門の責任者を務めるアルフォンソ・アルバイサ氏に、新型車「ニッサン・アリア」のデジタルワールドプレミアの直前に話を訊くことができた。自動運転支援も組み込まれた完全な電気駆動車のデザインの裏側は、COVID-19の影響もあってこれまでとは大きな変化を遂げているようだ。

アルフォンソ・アルバイサ (以下AA)   米国日産のデザインスタジオに入社したのは1988年、32年前のことです。父はマイアミで建築家をしており、私は1964年の東京オリンピックの期間中に生まれました。国籍はキューバです。マイアミ生まれですが、1964年生まれのキューバ系の人はみんなキューバ人って呼ばれているんです。月に生まれようとどこで生まれようと関係なくキューバ人。なぜなのかは聞かないでください(笑)。  (註:キューバ危機は1962年11月に幕を閉じた)

寝室には丹下健三のオリンピックスタジアムの写真があったので、幼い頃から日本の近代性と革新性が私の生活の一部になっていました。その後私の父はマイアミのベイフロント・パークでイサムノグチと大きなプロジェクトを行いました。このエレガントな日本人の紳士によくスタジオでお会いしたことを覚えています。

田中 大変な要職かと思いますが、現在の貴方の仕事がどのようなものか教えてください。

AA ふたつのまったく別の生活があります。私は会社の執行役員なので、会社の会議に出席し、戦略やビジネスをどう管理するかを考えています。

一方で私は“ピーターパン”でもあって、デザインスタジオという夢の国にも住んでいます。今でも毎日絵を描いていますし、Photoshopを触ったり車のクレイモデルを作ったりしています。1日の始まりは厚木、終わりは横浜の本社ということもざらで、ほぼ毎日行ったり来たりしています。夜はグローバルチームとミーティングをしています。今は、ZoomやMicrosoft Teamsなどもあって、コミュニケーションがすごく楽になったと感じています。

デザインヘッドとしては、日産グローバルデザインセンターのある厚木にくわえ、サンディエゴ、ロンドン、上海という4つの主要なスタジオを統括しています。全世界では800人近く、厚木には500人以上、カリフォルニアに66人、ロンドンに66人、中国に約60人のスタッフがいて、60台近くの車を担当しています。

ほとんどの時間は日本にいます。しかし日本人のDNAにくわえて、他文化への好奇心もカーデザインには非常に重要だと感じているので、私は3つの海外スタジオにくわえて、世界中にある小さなスタジオにもよく旅をします。そこでは人々に触れ、彼らがなにを好みどのように生活しているのかを理解できます。

また、私はVR(仮想現実)のなかでも生活しています。厚木のスタジオには30個以上のVRゴーグルがあり、すべてのプロジェクトで使われています。会社の世界、クリエイティブな世界、リアルな世界、デジタルな世界。それらのすべてが私の日常生活なのです。

田中 現在、私たちはCOVID-19に苦しめられています。あなたの仕事や生活に大きな影響はありましたか?

AA  劇的に変わったと思います。私たちはそれまでもほとんどの時間をオフィスやスタジオで過ごしていて、すでに非常にハイテクであることは自覚していました。

しかし現在の状況下でわれわれはさらに新しい仕事の仕方を学びました。オフィスにいなくてもライブVRを使ってあらゆるものを見ることができるので、各国のスタジオと24時間連携するようになったのです。以前はせいぜい週に1回か2回の交流でしたが、いまでは定期的に顔を合わせるようになり、役員出席のデザイン最終決定会議さえも新しいテクノロジーを通して行われるようになりました。きっともう元の生活には戻らないでしょう。

田中 VRの分野で日産は、他社に対して優位性を持っている、と確信しているのですね。

AA 私の部屋には机の上や天井にセンサーが備わり、ふたつのゴーグルもあって、完全にVRで統合されており、訪れる外部サプライヤーの方々は感銘を受けて帰っていきます。厚木には奥行き300mの素晴らしいスタジオを持っているのですが、そこかしこに30~40個のゴーグルがあって、いつでもバーチャルからリアルに移動することが可能です。VRでデザイン決定をしたり幹部とのミーティングをしたりはごく普通のことです。会議のとき、12人の幹部が全員ゴーグルをしているのを見るのは驚異的ですが(笑)。われわれがテクノロジーの先駆者になっていることは、私がこの3年間で最も誇りに思っていることの1つです。 

田中 2017年に日産デザインのトップに昇格されて2年半、それ以前とそれ以降で、あなたのチーム内にはどんな変化がありましたか?

AA 私はその1年前に常務執行役員になり、Shiro(中村史郎/前チーフ・クリエイティブ・オフィサー)と引継ぎをおこないました。その期間、主に彼の20年間の夢を共有することに時間を使いました。これは私が次の時代の夢を考える上でとても参考になり、彼には感謝しています。私たちが代替わりしていく中で、エンジニアも世代が代わり、技術は完全に移行していきました。だからデザインにも新しい言語が必要でした。

また、ご存じのように、この時期には社内でさまざまなことが起こっていたので、自分たちの会社とその歴史を改めて理解する必要がありました。創業者である鮎川(義介)さんの夢は、全世界どこでも“Datsun”が走っていることでした。いま内田(誠社長)さんの夢は、世界中のあらゆる道路に日産の技術があることだと思います。つまり必要とされるデザインは自然に変化していて、これまで以上に歴史の感覚を取り入れる必要があります。日産の役割は、素晴らしい車を作ることはもちろんですが、社会が次のステップに進む手助けをする会社でなければならないと感じています。

なぜハッチバックスタイルなのか?

田中 発表会前の現時点で、私はまだアリアの特徴について多くの情報を持っていないのですが、デザインにおいてはどんなところに注目すればよいでしょうか?

AA  3年前、私がデザインの責任者になったとき、それはつまりアリアのプロジェクトを引き受けたときですが、日産がこれまでにたくわえた最高の技術を表現し、かつ“おもてなし”などさまざまな日本の価値観を織り交ぜながら開発することは、とても光栄であると思いました。とにかくアリアは、日産そして日本が有する“技術の祭典”なのです。

私たちが最初に受け取ったエンジニアリング・パッケージは、魔法の絨毯のようなものでした。4つのタイヤのあいだには、平坦なバッテリー以外何も載っていなかったのです。ほかのほとんどのクルマでは、乗客の足はセンタートンネル脇の小さな穴の内側に詰め込まれています。私たちは商品企画を進める中でこのスペースを排除しました。

また、自動運転技術である「プロパイロット 2.0」の搭載によって、車内での会話が増え、人々の姿勢も変化していくのでは? と、考え、人間の“目”についても研究しました。その結果、人間の目は垂直方向よりも水平方向に動きやすいことに気がつき、水平に展開するガラスのスクリーンを作りました。全体を詳しく見たり、触ったりスワイプしたりするのにともに適切な距離を持った初めてのスクリーンは、まるでサルバドール・ダリの絵画のような曲面を持っています。

さらに私たちは自分たちが何者で、真の日産の姿がどんなものなのかを深く理解したいと思いました。そこで私たちは日本に目を向けました。アリアでもっとも重要なキーワードのひとつは「間」(ま)です。この言葉を知って惚れ込みました。「間」というのは、日本建築における空間のあり方を極め、ひとつひとつの要素を丁寧に考え尽くした完全性の調和であり、引き算であるミニマリズムとは違います。

だからアリアのデザインはとてもシンプルなのです。ダイナミックであり美しく、スポーティでありながら落ち着いている理由は、この技術的な感覚である「間」を見つけたからなのです。

「うつろい」 は、変化の美しさを捉えた、私が大好きな言葉のひとつです。すべての物事は変化しています。月曜日の自分と火曜日の自分は違う感じ方をしているかもしれません。このことを新しいイルミネーションされたロゴや、角度によって見え方の異なるインテリアで表現しました。ちなみに、私の新しい名刺も四季をあらわした、1枚ずつ異なるものに替えました。 

「かぶく」(傾く)も、私の好きな言葉です。たとえば森のなかで、完璧に垂直に育った木々の中に、1本だけ斜めに生えた木があったとしたら、これこそ他とは違った“かぶく”の感覚です。私たちが作るすべてのデザインにおいて、自分のなかにあるユニークなセンスを純粋に表現することが、完璧な技術のなかでとても重要になってきます。 これらの言葉を、私はチームのメンバーから教えてもらっているのです。

田中 電気自動車のパッケージングは、既存の内燃機関車とは大きく変化しましたが、そのわりにはスタイリングは大きく変化していないように思います。たとえば“スポーティなクルマだ”と、認識させるのに必要なものは不変であるか、あるいは変化に時間がかかるものなのでしょうか。

AA エクステリアの観点では、空力学を通じて完璧なティアドロップを目指し、車内の5人を安全に保護するため、最善の技術を投入し、人々の嗜好、たとえばファッションとしてクーペSUVが好まれることを踏まえたのがアリアのデザインです。フロントフェイスにはもはやグリルは必要なく、代わりに超音波のソナーやレーダーといったテクノロジーが埋め込まれています。

いっぽう、前に述べたとおり、インテリアには変化が見られたと思います。自動車の電動化は、私たちのドライビングを完全に変えました。アリアを運転するのは他の車を運転するのとは全く違った経験になるでしょう。

田中 フロントグリルに与えられた新しいニッサンのロゴにはどういった意味がありますか?

AA 先にも述べた試みにより、私たちは日産が企業として何者であるかを再発見しました。鮎川さんの「至誠天日を貫く」というメッセージはとても強力で、太陽を突き抜ける光を会社の一部にしたいと。彼の信念は、“自動車は社会を変えることができる”ということだったのです。1920~30年代の人々の生活領域はとても限られていました。世界のどこの国でもそうですが、自動車は人間の移動力を高め、結果として自由度を高めることができると彼は感じていました。

次の100年は、電動化と自動運転が主流になるでしょう。鮎川さんのメッセージの美しさは、デジタルの世界でも生きていく必要があると感じました。次のステップに向けて日産が変わっていく今、この感覚を持ち続けなければならない。

このためにも私たちのアリアには、イルミネーションされたロゴが輝いているのです。宇宙から見た地球のイメージと、月面の人工衛星から見た、地球の後ろから太陽が昇ってくるイメージに恋に落ちたのです。太陽が昇ってきた瞬間の姿をイメージして、ちょっとしたハイライトを取り入れました。すべての車に新しいロゴを採用しようと思っています。

文・田中誠司

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