制作費用を考えるとリーズナブルな落札価格だった
現在のクラシックカーが、まだ新車ないしはそれに近い状態の現役だった時代から、大人しいセダンやツーリングカーをワークスラリーカー風に仕立てるのは、カスタマイズやドレスアップの定番のひとつでした。しかし昨今では、いわゆる「レプリカ」の域を超え、特定の個体の完全な再現を目指したモディファイ、今風にいうところの「レクリエーション」レベルに到達したクラシックラリーカーたちも作られているようです。2024年4月14日、英国のグッドウッド・サーキットにて開催されたエクスクルーシヴなレースイベント「グッドウッド・メンバーズミーティング」の公式オークションとして行われた名門「ボナムズ」社のオークションに出品されたのは、1967年の「モンテカルロ・ラリー」で総合優勝を果たし、世界でもっとも有名なミニ・クーパーとなったBMCワークスチームのモーリス「ミニ クーパーS」、登録ナンバーから「LBL 6D」と呼ばれる個体を完全再現したものでした。
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1967年優勝のモンテ・ミニの完全再現にチャレンジ!
英国エンスー界では有名な「ワークスレジスター」のチェアマンであるロバート・ヤング氏によると、この「ミニ クーパーS」モンテカルロ・ラリー仕様レプリカは、ミニ・スペシャリストのケビン・クラーク氏が前オーナーのために製作したものとのことだった。
ベースとされたのは、FIA「グループ2」と「モンテカルロ・アペンディックスJ」のレギュレーションに従って改造されたオリジナルの「オースティン」クーパーS用ボディシェル。そのうえで、1967年モンテカルロ・ラリーで優勝したBMCモーリスのワークスカーである「LBL 6D」からかなりのディテールを採寸しつつ再現したことから、「モーリス」のバッジやエンブレムが付けられることになった。
ボディシェルは、サブフレームのマウントポイント周辺とハンドブレーキ周辺が補強されるとともに、クロスメンバーはダブルスキンで覆われ、バッテリーボックスの下側も強化されている。またサスペンションについても、当時のワークスカーと同じ「ハイドロラスティック」が装着されている。
いっぽう160時間以上の労力を要した配線類は、正しい色とグレード、端子を使用。また、ルーカスのスイッチもワークス純正スペックのもので、正しいサイズのダッシュパネルに配置された。
またハイビーム用のディップスイッチは2つ。1967年当時「LBL 6D」をドライブしたラウノ・アルトーネンが、フロア配置のスイッチには足が届きにくいと訴えたことから、BMCワークスの「電気系統の魔術師」、スタン・チャルマーズがステアリングコラムのスイッチを装着したという故事にならって、同じものを取りつけている。
「モンテ・ミニ」のアイコンでもある4連補助ライトもオリジナルを遵守し、センター2灯は珍しいコンチネンタル製レンズ。外側2灯には、ルーカス製のカバーつきフォグランプが装着された。
そしてオリジナルと同じく、英ダンロップ社製のラリータイヤを「ミニライト」アロイホイールに組み合わせ、BMCワークスのオリジナルを正確にコピーしたルーフラックにスペアタイヤを載せている。
内装もメカニズムも本格的なつくり
このミニ クーパーSワークス・レクリエーションの本気のレストアは、有名な「モンテ・プレート」と「177」のゼッケンで飾られた外観だけにはとどまらない。
インテリアでは、当時モノスペックで新造された「ジョン・アレイ」社製3点式ロールケージが装着され、手縫いのロールバーパッドとナックルパッド、オリジナル「LBL 6D」と同じ「アーヴィン」社製シートベルトが装着されている。
こちらも当時と同じ様式のドライバーズシートは、有名な赤とグレーのクロスで縁取られたバケット型。古い形状のジュビリークリップのつく運転席のシートフレームまで、当時と同じスペックである。また、ワークス・ミニでは珍しかったカージャッキも、運転席の後ろに取りつけられた。
いっぽう、ナビゲーターシートは座面を厚くしたほか、当時の市販ミニのようなゴム製ダイヤフラムではなく、合金製シートベースが採用されている。またドアやロック周辺、「Bポスト」にも安全パッドが施されているが、これらはすべてオリジナルの「LBL 6D」からコピーされたものである。
さらにはリアシートも、当時のワークスカーを完全再現。バックレストのみは赤とゴールドのブロケードが施された当時のスタンダードが残されているが、座面は取り去りスペアタイヤやオリジナルと同じ燃料ポンプが配置された。
またリアシェルフには、当時のワークス用を再現したヘルメットとヘルメットピン、ロール型のツールキット、リアシート用のレザーストラップが装備されている。
くわえて、現在でも新品が入手可能な「ホイヤー」社製ラリークロックと、メタルケース入りの「ハルダ」社製ラリーメーターが取り付けられ、当時のものと同じ毛細管式水量計と200km/hスケールのトリップメーターつき速度計も取り付けられている。
そして肝心のパワーユニットもまた、当時のワークスカーと同じ1293ccスペック。「ビル・リチャーズ・レーシング」によってワークスラリー仕様にリビルトされている。ツインのSUキャブレターが燃料供給するこのエンジンは、リビルド後の走行距離が1000マイル(約1600km)に満たないうえに、1マイル(約1.6km)さえ本気のスピードで走ってはいないとのことである。
つい最近にもメインテナンスとチューニングを受け、始動も走行もスムーズという。ビル・リチャーズによって組み直されたギアボックスは「クアイフ」社製の4速MTで、現在はより使いやすい3.6:1のファイナルドライブが取り付けられている。
完成後には、2010年頃から現オーナーのプライベートコレクションの一角を占め、イギリス各地のクラシックカーおよびラリーカーのイベントで展示されたほか、2011年にはモンテカルロ・ラリーの100周年記念を特別テーマとした独「エッセン・モーターフェア」にも招待を受け、「LBL 6D」の模造ナンバープレートを装着して、ほかのラリーの名車たちとともにステージを飾っている。
今回のオークション出品にあたっては、製作の詳細や経費のインボイス、製作中の写真、英国の車検証にあたる「MoT」、メンテナンスのインボイスなどを収めた3つのフォルダーと、エンジンのスペックやセッティングなどの詳細を記した、別のフォルダーが添付されていた。
まさしく「レクリエーション」レベルで製作された、このミニ クーパーSモンテカルロ・ラリー仕様レプリカに、ボナムズ・オークション社では3万~4万英ポンドというエスティメート(推定落札価格)を設定。そして2024年4月14日に行われた競売では、3万9100英ポンド、日本円に換算すると約765万円で落札されることになった。
このハンマープライスは、モーリス/オースティン ミニ クーパーSマーク1の極上物であれば、ノーマル車両でも叩き出すことのできる価格。推定されるレクリエーション製作費を思えば、かなりリーズナブルにも感じられたのである。
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みんなのコメント
佐藤琢磨がずーっと乗ってるもんね
オモチャには最高かと思う