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イタリア仕立てのシトロエンDS ボサートGT 19 フルア・デザインの希少クーペ 前編

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イタリア仕立てのシトロエンDS ボサートGT 19 フルア・デザインの希少クーペ 前編

エレガントさに見惚れてしまうボディ

正面からの容姿は、素晴らしく状態の良いシトロエンDSだ。滑らかなフォルムと、低く構えたスタンス。クロームメッキのバンパーに付いた、くさび形のゴム製オーバーライダーと、マーシャル社のヘッドライトが、なんともチャーミングに思える。

【画像】シトロエンDSのクーペ ボサートGT 19とグラン・パレ 派生ブランド DSのサルーンも 全82枚

1962年式で、フェイスリフト後だと判断する人は、シトロエン・マニアに違いない。そこからボディサイドへ歩いていくと、見慣れたフォルムより遥かに短いことへ気が付く。

ルーフは、プレキシガラス製のリアウインドウめがけて、大きく傾斜している。そのまま、なだらかにトランクリッドへ繋がり、軽快にリアバンパーへ消えていく。

フィンのように切り立ったフェンダーラインが、なんとも当時のイタリアン。ピニンファリーナ社が手掛けたプジョー404 クーペや、コーチビルダー・ボディのフィアットにも似たテールライトへ導かれる。

「このライトはキャレロ社製です」。と説明するのは、現オーナーのクリストフ・パンド氏。「同時期のフィアット1500 カブリオレと同じライトです」

Bピラーに取り付けられたシトロエンのダブルシェブロンは、90度寝かされている。初期のデザインスケッチの段階から、このロゴが描かれていた。トランクリッドには、GT 19 ボサートと、モダンな書体で記されている。

初めて見ると驚くものの、一呼吸おくとエレガントで見惚れてしまう。ホイールベースを変えずにシャプロン社が仕上げたクーペも存在するが、それよりバランスは良いようだ。

DS パラスと同じ広々としたインテリア

GT 19のホイールベースは2650mmで、サルーンのDSより470mm短い。車高も70mm低い。カーデザイナー、フラミニオ・ベルトーニ氏による傑作の美しさを損なわずにクーペを生み出すには、相応の才能と技術が必要だったに違いない。

このスタイリングを描き出したのは、同じくカーデザイナーだったピエトロ・フルア氏。奇才の、もうひとりのイタリア人だ。

果たして、その走りに興味が湧く。見た目のとおり、滑らかで軽快だろうか。全長が短い分、車重も軽い。実際にステアリングホイールを握ってみるしかない。

サルーンより長いドアを開くと、DS パラスと同じインテリアが視界に広がる。優しく身体を包む柔らかいクッションのレザーシートが、筆者を歓迎してくれる。空間も広々としている。

リアシートは、若干窮屈そう。わざわざ大金を払ってサルーンからクーペに仕立ててもらうのだから、それは織り込み済みということだろう。

メーターパネルには、イエーガー社製の黒い盤面の計器類が整然と並ぶ。スイッチ類には潔く機能の記載がない。点在するクロームメッキのアクセントが、見た目に心地良い。

ステアリングホイールは、大径なリムを1本のスポークが支えている。いかにもシトロエンらしいアイテムだ。

ペダル配置も、フレンチ・ブランドの伝統。中央には、マッシュルームのようにフロアから生えた、ブレーキ用の丸いボタンが付いている。少々の慣れが必要といえる。

柔らかい回転で目を覚ます直列4気筒

1番左側のペダルは、クラッチではなくサイドブレーキ。ダッシュボード左側のレバーで解除できる。油圧システムに不具合が起きた場合は、非常用ブレーキとしても使える。トランスミッションは、オートマティックが組まれている。

DSならでは、という操作はまだ続く。エンジンの始動は、キーを捻ったりボタンを押すのではなく、ステアリングコラム上部から伸びるシフトレバーを僅かに左へ傾けて行う。

直列4気筒ユニットは、柔らかい回転で目を覚ます。ボロボロと、サウンドにスポーティさはない。ただし、本来搭載されていたチューニング済みのエンジンは、もう存在しない。現在は約85psを発揮する、一般的なDS用のユニットが積んである。

ハイドロシステムのポンプが息を吹き返し、GT 19のボディを走れる状態まで持ち上げてくれる。特徴的な、かすかな高音を鳴らしながら。足もとの専用レバーを操作すると、サスペンションで好みの車高を選択できる。

履いているタイヤが185と太く、車高を高めにしないとフェンダーへ当たるという。オーナーのパンドは、当初の幅の細いサイズへ戻そうと考えている。

ドライビングポジションは起き気味で、視線も若干高め。シフトレバーをゆっくり右へスライドすると、メカノイズを響かせてギアが繋がる。

ブレーキペダルと同様に、アクセルペダルの踏み心地も、スムーズな運転に丁度いい重さ。穏やかに右足を傾けている限り、ATがしっとりと次のギアを選んでいく。

他に例のない快適な乗り心地

アクセルペダルへ力を込めると、急にシフトアップがギクシャクし始める。あまり急がない方が良い。スポーティなクーペらしくパワーを与えたい場合は、DSの廉価版、IDに搭載されていたMTが必要のようだ。

発進すると、優しいサスペンションへ気持ちが向かう。シトロエン自慢のハイドロニューマチックが、ワダチやくぼみ、舗装の継ぎ接ぎなどを見事にいなしていく。他に例のない振る舞いで。

2022年の現代モデルへ乗り慣れている筆者でも、感心するほど乗り心地は快適。1962年当時、多くのクルマはリジッドアスクルを採用し、不整を越えるたびに前後左右にも揺れたものだ。

直進安定性はサルーンほどではない。ステアリングホイールの反応はよりシャープで、ドライバーは意識的に握っている必要がある。そのかわり、コーナーでの操舵感はより楽しい。アンダーステア傾向もほぼ解消している。

ボディロールはDSらしく小さくないものの、短いクーペは想像以上に機敏に身をこなす。前後の重量配分は65:35程度で、フロントノーズが重い割に反応が良い。

今回、ボサートGT 19を試乗したのは、緩やかな起伏が続くフランス北部のモン・カッセル。1960年代のラリー・ステージのように連続するカーブへハイペースで侵入すると、敏捷性を高めたシャシーを活用できる。

とはいえ、やはりシトロエンはグランドツアラー。おっとりとしたATが、GT 19の動的な個性を支配している。

この続きは後編にて。

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