1990年代(1990年から1999年までの10年間を指す)といえば、一番最後の1999年あたりになってやっと、最近成人した人たちが生まれた年、ということになる。思えば遠くにきたもんだ(個人の感想です)。
1991年にバブル景気が破綻して、「リストラ」という言葉が表舞台に登場するようなタイミング(当時はまだまだマイナーな言葉だった)からの10年の間に、日本の自動車業界もまた大きな岐路に立つことになる。
GT-R フィット タントが生まれた10年! 2000年代の金字塔モデル 7選
享楽の時代から混迷の時代へと突き進む1990年代の日本で、それでも雄々しく「金字塔」を打ち立てたクルマたちを特集する。
まずは自動車ジャーナリストの皆さんに「全般的に、金字塔を打ち立てた3車種」を選出してもらい、「技術的にエポックメイキングだったクルマ」「デザイン」「実用度」「走り(走行性能)」「個性」「世界に影響を与えたモデル」、それぞれ分野ごとの「金字塔」モデルも選出してもらった。
※本稿は2021年1月のものです
文/国沢光宏、渡辺陽一郎、清水草一、写真/TOYOTA、HONDA、SUBARU、MAZDA、MITSUBISHI、SUZUKI、ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2021年2月10日号
【画像ギャラリー】NSX ワゴンR プリウス…嗜好から環境・実用への転換点か? 1990年代の傑作車たちをギャラリーでチェック!!!
■1990年代を象徴する金字塔車
1990年代初頭に登場したクルマには傑作が多い。その筆頭がホンダNSXだ。徹底的に軽くするためにオールアルミ製とした。ミドに搭載するエンジンは3LのV6DOHCのVTECだ。過給機を使わずに280psを達成している。
1990年に誕生したスーパースポーツ、ホンダ 初代NSX
また、今の時代につながる安全装備のエアバッグやABSなどを採用し、エアコンやパワーステアリングなどの快適装備も標準だった。
先進技術をてんこ盛りした未来から来たクルマが、量産車で世界で初めてハイブリッドシステムを採用したプリウス。環境意識が高まってきた1997年にベールを脱いだ。
21世紀になる前の1997年、量産世界初のハイブリッドカーとして誕生した初代プリウス。自動車史に残る革命車
売りはライバルを圧倒する燃費性能で、世界中のエンジニアは燃費のよさにビックリ仰天。プリウスの成功によりエコ志向は一気に強まっていった。
SUVのポジションを一気に引き上げ、ブームの火付け役になったのが三菱パジェロ。その2代目は新しいSUVの世界を見せてくれた。選に漏れたがワゴンRも金字塔!
三菱 2代目パジェロ…初代モデルが支持を得た後の1991年に登場し、ロングボディ車を中心に大きな人気を集めた
(選定:片岡英明)
■技術的エポックメイクな金字塔車
バブル崩壊のあと低迷していた日本の自動車業界に、新たな希望の火を灯したのが初代プリウス誕生だった。
いまやおなじみのハイブリッドも、1997年当時は誰も体験したことがないまったく新しい技術。完成度が低かったから、飛ばしすぎると出力制限を警告する“亀マーク”が出たのも思い返すと懐かしい。
初代プリウスが走り始めた当時、ライバルは「こんな未完成で高コストのクルマが長続きするはずはない」と冷ややかに見ていたが、それはあながち間違いではなかった。
トヨタ 初代プリウス…ハイブリッドカーの先駆者である初代プリウスは、やはり技術的にも自動車史に残る金字塔。発表時10.15モード燃費は28km/Lだった
しかし、完成度についてはわずか2年半後にフルチェンジに等しい大幅改良を実施。コストもお得意の“カイゼン”を粘り強く継続し、2003年の2代目で早くも大ヒットを実現したのがトヨタのすごいところ。
その後20年で、トヨタハイブリッド車が累計1000万台も作られるなんて、おそらく開発責任者の内山田さんすら想像していなかったはず。まさに、自動車史に残る金字塔といっていい。
ユーノス800については、ミラーサイクルと過給ダウンサイジングによって燃費を改善するチャレンジ。
ミラーサイクルエンジンを搭載したユーノス800
8代目ギャランについては初の電子制御ガソリン直噴“GDI”の実用化を評価。渋い技術だが、どちらも重要な技術の金字塔だと思う。
直噴ガソリンエンジンのGDIで低燃費を実現した三菱 8代目ギャラン
(選定:鈴木直也)
■デザインの金字塔車
1990年代はバブル崩壊から始まり、スポーツカーブームの沈静化とともにRV時代が到来。
そのRVブームの元ネタ兼元祖であり、軽自動車に革命をもたらして現在の隆盛に導きつつ、国産自動車デザイン史の大金字塔として輝いたのが、初代ワゴンRではないだろうか!
スズキ 初代ワゴンR…ルーフを高くして車内を広くした軽はあったが、ワゴンRはミニバンを小さくしたようなスタイリッシュなフォルムで1993年に登場した
これほどシンプルで機能的で必要最小限で、どこにもてらいのない自動車デザインは、世界中探してもほかに存在しない。本当にすさまじい。
初代ワゴンRなら、フェラーリやランボルギーニの傑作たちとも、デザイン面で渡り合える。それくらいの大傑作だった。まさに無欲の勝利!
(選定:清水草一)
■実用度の金字塔車
今は新車として売られるクルマの37%が軽自動車だ。そして軽乗用車の80%以上を全高が1600mmを超える背の高い車種が占める。この先駆けが1993年に登場した初代ワゴンRであった。
ドアの配置は右側が1枚、左側は2枚と変則的だが、ボディの基本スタイルは現行型と同じだ。車内は広く大人4名が快適に乗車できた。
優れたスタイルと大人4人が快適に乗車できる広さによる実用性の高さで軽自動車の革命を起こした初代ワゴンR。大ヒットした
後席の背もたれを前側に倒すと座面も下がり、床の低い大容量の荷室になる。
後席の格納は左右独立式だから、3名で乗車して荷物を積む時も便利だ。助手席の下には大型の収納ボックスも装着され、現行型と同様の実用性を備えていた。
(選定:渡辺陽一郎)
■走りの金字塔車
1996年に行われた2代目レガシィのマイナーチェンジで登場した『GT-B』を見たライバルメーカーは、まったくお手上げ状態になってしまう。
当時、2.5L級エンジンでも難しかった280psを2Lで実現。さらに少量しか生産していなかったビルシュタインの分解式ダンパーを採用し、走りの性能を大きく引き上げることに成功した。
スバル 2代目レガシィGT-B…2代目レガシィは1993年に登場。2L水平対向4気筒のツインターボを搭載し、GT-Bはビルシュタイン製のダンパーが標準装備された
当時のGT-Bの評価の高さときたら、圧倒的でしたね。トヨタや日産も同じようなモデルを出そうとしたが、すべて相手にもならなかった。日本のユーザーって慧眼です。相当特殊な存在だったものの、大ヒットしました。
(選定:国沢光宏)
■個性派の金字塔車
プリウスに続くハイブリッド車として1999年に登場したホンダインサイトは、エコ性能だけでなく操る楽しさにまで踏み込んだ個性派のスポーツクーペだ。
なんと2人乗りと割り切り、空力と軽量化を徹底追求したボディはアルミ製である。シートポジションもスポーツカーのように低い。
初代インサイト…ホンダ初のハイブリッド車として1999年デビュー。ボディはアルミで軽く、5MT車で10.15モード35.0km/Lという低燃費を実現した
心臓はホンダIMAと呼ばれるハイブリッドシステムで、1Lの直列3気筒リーンバーンVTECエンジンにアシスト用の電動モーターを組み合わせている。
CVTだけじゃなく5速MTを設定していたのもユニークだ。デザインのインパクトは強烈で、20年後の今見ても釘付けになる。
(選定:片岡英明)
■世界に影響を与えた金字塔車
1997年にデビューした初代プリウスは世界中の自動車関係者を唸らせた。
発売当初こそ「電池寿命が短い」とかエンジンとモーターの両方を使うなんて非効率だ、などと批判する人たちも多かったけれど、やがて「凄い発明」という評価に変わっていく。
日欧米ほぼすべてのメーカーが開発に着手するも、あまりの難しさと当時最先端だったニッケル水素電池を作れないため断念!
いまだにトヨタと同等の効率を持つハイブリッド車が実現できていないのだから凄いことだと思う。
ハイブリッドの可能性は世界中の自動車メーカーが認識することになりました。
トヨタ 初代プリウス…日本だけでなく世界中にハイブリッドカーの存在とその優れた可能性を知らしめ、現在の電動化の流れを作りあげた初代プリウス
(選定:国沢光宏)
【番外コラム】1990年代はこんな時代だった
1980年代後半から起こったバブル景気が1991年頃に破綻。このバブル崩壊によって日本では「失われた10年」と評されることが多い1990年代。
バブルの余韻が残る前半、スポーツでは1993年にサッカーのJリーグが発足し、NBAの人気などでバスケットボールブームが到来。音楽では小室哲哉がプロデュースする歌手たちが一世を風靡した。
自動車業界は、バブル景気とその崩壊の影響を受けた時期で、1990年代初頭は、ホンダNSXをはじめ高性能車が続々と登場するものの、中盤からクルマ作りの方向性が経済性重視へと変更。1996年に低燃費をウリにしたGDIエンジンのギャラン、1997年には量産初ハイブリッド車のプリウスが誕生した。
また、当時“RV”と呼ばれたミニバンやSUVが人気を集め、新型車も続々と登場した。
RVブームでSUVやミニバンも人気を集めた
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