■バイクに乗る動作は、すべてが露わになっている
ある日の陽射しの和らいだ夕方のこと、東京青山の街路樹が豊かな並木道の歩道の片隅に、ライダー3人がたむろしていた。それぞれのバイクを眺めながら、バイク談議に話を咲かせているのは明らかだ。エンジンを指さしたり、ヘルメットを撫でたりしていたからだ。
「走る棺桶」を操るレーシングドライバーのほとんどがライダー転身組
向かいの喫茶店にいた僕(筆者:木下隆之)からは、会話の中身を耳にすることはできない。だが、3人はバイク仲間であり、気のおけない関係であることは想像ができた。
1人はサイドスタンドを立てたバイクに腰掛け、他の2人は歩道のガードレールに体を預けている。なんとはなしに話題を取り囲んでいるその空気感が素敵だった。
かつて僕がよく目にした暴走族の下品なたむろとは異なり、そうではない(むしろ大多数の)バイク乗りの所作は粋でもある。その様子を向かいの喫茶店からストーカーの如く観察している自分は粋とは無縁で不気味でもある。
およそ30分が過ぎた頃、思い立ったように3人は走り出した。あらかじめ時間が決められていたのか、何かの用事ができたのかはわからなかった。だが、3人が戦闘態勢に入るかのようにして走り去って行き、その所作がたまらなく素敵だったのだ。華麗なライディングの様子は、いまだに目に焼き付いている。
バイクをベンチ代わりに、斜(はす)に腰掛けていたライダーがおもむろにヘルメットを被った。顎紐を慣れた手つきで締めると、ちょっと使い込んだ感のあるグローブをスルスルッと手にはめた。
すると、あまりにもあっけなく走り出した。いつサイドスタンドをたたんだのか? というよりバイクに跨らずに、斜に腰掛けたままの姿勢でセルスターターを押し、エンジンが目覚めるや否や、そのまま走り出したのだ。
目で追う僕の視界のなかで、バイクが小さくなっていく。その頃になってようやく大きく右足を跳ね上げ、バイクに跨った姿を確認できた。いつギアをエンゲージしたのかさえわからなかった。その一連の所作がスマートだった。もちろん、これは僕が見たままの率直な印象であり、その動作を推奨するつもりはまったくないことをご理解いただきたい。ただ、そのシーンに見とれてしまっただけなのだ。
バイクは操縦する者の身体がむき出しだ。だからこそ、ライディングではすべてが露わになる。コックピットに収まり、ドライビング操作が見えないクルマとは異なる。バイクって、ちょっとかっこいいな、って思った瞬間だ。
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コンビニや道の駅、SA/PAの駐車場で、やたらカラ吹かしし、タバコと空き缶をポイ捨て、唾を吐き、大声で騒ぐおっさんばかりだ。そんな人たちが多いからいつまで経っても、普通のバイク乗り、普通のバイク好きも暴走族、厄介者扱いだよ。