3月23日に世界的ミニカーデザイナー、RYU ASADA(リュウ・アサダ)氏が4年半の闘病の末、大腸がんによる合併症でこの世を去った。「初めて名前を聞いた」という人もいるかもしれないが、3インチミニカーのコレクターなら彼の作品を所有している人も多いだろう。
世界的なJDM(日本車をベースとしたカスタム)人気に火をつけた立役者でもあるアサダ氏の足跡をたどるとともに、代表的な作品を紹介してみたい。
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文・写真/加藤久美子
【画像ギャラリー】ホットウィールに在籍して数多くのミニカーデザインを手掛けたリュウ アサダ氏の作品を見る
■リュウ・アサダ氏が8年間作品を作り続けたホットウィールとは?
日本では5月発売予定のアサダ氏の最新作『ライジンエクスプレス』。デコトラをモチーフとしており、アメリカではプレミア価格がつく人気となっている
アサダ氏について紹介する前に彼が亡くなるまでの8年間に在籍した、ホットウィールというミニカーブランドについて少しふれておきたいと思う。
日本で「ミニカー」といえば多くの人がトミカを思い浮かべるだろう。1970年に誕生したトミカは昨年50周年を迎えており、50周年記念トミカなども多数発売されている。
そのトミカが発売される少し前の1968年にアメリカで誕生したのがホットウィールである。
トミカ同様、1/60スケールを中心とする3インチ、手のひらサイズのミニカーが主流だ。北米、アジアを中心に世界中で販売されているミニカーブランドで、これまでの総販売台数は60億台超。世界のどこかで1秒に16台が売れている計算になる。もちろん世界一売れているミニカーである。
映画Fast & Furiousシリーズ(『ワイルド・スピード』)に登場するクルマや80~90年代の日本車がホットウィール化される機会も増え、世界的な日本車人気とあいまって非常によく売れているのだ。
トミカが実車に忠実であるのに対して、ホットウィールは遊び心を加えた仕上がりのものが多く、ミニカーデザイナーの個性が製品に表れるデザインが多いのも特徴である。
また近年はトミカ同様、日本においては子どものおもちゃとしてのミニカーではなく、40代~50代以上の購買力がある世代での人気が急上昇しており、コレクターアイテムとしても拡大を続けている。
一か月に発売される新型車も平均すると20台前後となり、トイザらスなどのおもちゃ店だけではなく、セブン・イレブンなどのコンビニ、ヤマダ電機などの家電量販店でも販売され始めた。日本では2012年に比べて売り上げが5倍以上に増加したというデータもある。
■リュウ・アサダ氏とはどんなデザイナーだった?
ホットウィールでデザイナーとして活躍したリュウ・アサダ氏。ホンダ車を愛し、ホンダ車のミニカーを数多くデザインしてきた(ホットウィール公式インスタグラムより)
ホットウィールに日本車が増えたこと、そしてそれらが世界的に人気を博していること。その立役者のひとりが、リュウ・アサダ氏である。1978年に大阪府で生まれたアサダ氏はホンダ車を愛し、ホンダ車のミニカーを数多くデザインしてきた。
幼少期からホンダ車が好きで、幼い頃から驚くほど正確にホンダ車の絵を描いていたという。彼の作品の中に大阪ナンバーがついたホンダ・プレリュードがあるが、これはアサダ氏が少年時代に父親が乗っていたクルマである。
アサダ氏はオレゴン大学で物理学の学位を取得したあと、カリフォルニア州パサディナにある美術系大学、アート・センター・カレッジ・オブ・デザイン(以下アートセンター)で自動車デザインを学んだ。
クルマ好きの方ならもしかするとご存知かもしれないが、アートセンターのトランスポーテーションデザイン学科は奥山清行氏(GM/ポルシェ/フェラーリ)、中村史郎氏(いすゞ/日産)、クリス・バングル氏(BMW)、原田則彦氏(ザガート)、俣野努氏(初代ユーノスロードスター)などそうそうたるメンバーを輩出している。
※カッコ内はデザインに関わった代表的な車種やメーカー
アートセンターを卒業したあと、アサダ氏はホットウィールと同じマテル社が展開する『マッチボックス』を経て、2013年からホットウィールでミニカーデザインを手掛けることになる。
2013年から彼が亡くなるまでの8年弱。アサダ氏が手掛けたホットウィールは、これから2022年に発売予定のミニカーを含め、実に150台を超える。
■熱狂的なアサダファンの思いとは
アサダ氏デザインのホンダ プレリュード。プレリュードは彼の父親の愛車だった
ミニカー歴20年以上、日本有数のホットウィールコレクターでアサダ作品の大ファンである、『猫の恩返し』さんにアサダ作品の魅力を語っていただくとともに、6台のもっとも素晴らしいアサダ作品を選んでいただいた。
* * *
アサダさんが亡くなったと聞いたのは奇しくも、ホットウィールを買いに行っている時でした。もうショックで、買い物どころでは無くなってしまいました。
アサダさんと言うと、ホンダを中心とした日本車のデザイナーとして有名ですが、実は日本では謎車や架空車などと呼ばれる、ホットウィール オリジナルデザインのミニカーでも数多くのヒット作をデザインされています。
最近ではアヒルをモチーフにした『ダックン ロール』、そしてアメリカでは超人気ですでにプレミアム価格となっているデコトラをモチーフとした『ライジンエクスプレス』(日本では5月発売)がそれです。
4年半の闘病の末に旅立ってしまいましたが、彼の最近の作品を見ると自分の寿命がわかってたんじゃないかと思われるところがあります
『ポルシェ 944』の聴診器はまさに彼の主治医の愛車でした。『プレリュード』は何故、最終型なんだろう?と思ったら家族の思い出がたくさん詰まった彼の父親の愛車でした。そして『ライジンエクスプレス』。
子どもの頃からデコトラが好きで、いつか「デコトラをミニカーにする」それが夢だったと、話されていたようです。
本当に亡くなってしまったことが残念でなりません。もっと我々を楽しませて欲しかった。
最後に、沢山の夢のあるミニカーを創造していただきありがとう。心よりご冥福をお祈りします。
* * *
■猫の恩返しさんが選ぶアサダ作品ベスト6
アサダ作品の大ファンである猫の恩返しさんに、アサダ作品のベスト6を選んでもらった
では、以下、猫の恩返しさんが選んだアサダ作品ベスト6をご紹介してみたい。
1.Super Blitzen
アサダ氏完全オリジナルデザインのSuper Blitzen
アサダ氏完全オリジナルデザインのレースカー。ここまでカッコいいレースカーを作ったセンスは凄いです!
2.Rig Storm
ドラッグレーサーを見事なデフォルメで再現したRig Storm
私はドラッグレースが好きなのですが、このトラックのレースカー、実はそっくりな実車をYouTubeで見たことがあります。それを見事にデフォルメで再現してくれました。因みに写真のホットウィールは非売品で、日本では入手出来なかったものです。
3.Duck'n Roll
Duck'n Roll。おなじみのアヒルのおもちゃをモチーフにするアサダ氏も只者ではないが、これにゴーサインを出すホットウィールの遊び心も素晴らしい
ホットウィール伝統?のおふざけロッズですが、これは見た瞬間、「うわあ!やられたー!」という感じでしたね。アサダさんもスゴイですけど、これを商品化するホットウィールというブランドのセンスも素晴らしいです。
4.2003 Honda NSX Type-R
ワイルド・スピードに登場のホンダ NSXをデザイン。映画ファンにもアサダファンにもたまらない
ワイルドスピードの大ファンとしてミニカー化して欲しかったのがこの後期型のNSXでした。その期待に見事にこたえてくれて、また最高の出来栄えでファンとしては非常にうれしい1台です。
5.DODGE VAN(ダッジバン)
10センチに満たないスケールにアメリカンバンの雰囲気がうまく詰め込まれている
私自身、アメリカンバン自体が大好きですが3インチミニカーではなかなかその迫力を伝えているモノが少ないのです。しかし、さすがアサダさん。見事な造形で仕上げてくれました。
6.2015 MAZDA MX-5 MIATA(マツダ ロードスター)
小スケールのミニカーでオープンカーを作るのはディテール面で勇気がいるが、チープになることなくデザインされている
3インチミニカーのコンバーチブルモデルはどうしても、チープな仕上がりになってしまいがちですが、それを感じさせない出来はさすがです。写真のモデルはドリフトドライバー、マッドマイク氏とのコラボモデルですが、そのロゴとホットウィール ロゴとのマッチングが素晴らしい。
アサダ氏はここに紹介した以外にもたくさんの素晴らしいミニカーを世に送り出してくれた。ホットウィールはブランドの性格上、一度発売したら同じものを再度製造販売することはまずないが、アサダ作品の中には現在も販売されているもの、またデコトラのように5月に発売される予定のものもある。
ミニカーから日本車人気を世界的に広めた立役者でもあるアサダ氏の作品をぜひ、手に取ってみてほしい。
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みんなのコメント
気に入って何種類か集めていたアヒルのミニカーも氏の作品と知って大切にしたいと思いました。