1:35 ダービーからリバプールを目指す
約120年前、フレデリック・ヘンリー・ロイス氏は、グレートブリテン島中部へ位置するダービーシャー州ダービーの工場で組み上がった試作車を、技術者と一般道で試験走行させていた。その当時、この付近のカフェへ頻繁に訪れていたに違いない。
【画像】知るほど感慨深い ロールス・ロイス・スペクター 内燃エンジンのレイスとドーン 先代ファントムも 全113枚
筆者も、コスタ・コーヒーで遅めの昼食をいただく。ロールス・ロイス・スペクターでの小旅行の最終目的地は、西部のマージーサイド州リバプール。途中、マンチェスターのハルム・パークを経由するつもりだ。
ロンドンから最短距離でリバプールを目指していれば、充電せずに走破できたはず。しかし寄り道したことで、102kWhの駆動用バッテリーでは僅かに足りない距離へ伸びてしまった。BPプラス社が提供する、電圧800Vの充電ステーションへ立ち寄る。
スペクターが搭載する電動アーキテクチャは、400V。DCの急速充電器なら、最大で約200kWの速さで満たせる。休憩している間に、航続距離は160km回復。高速道路のM6号線へ入り、ダービーから北西へ進む。
15:00 ブランドの起源があった街
約1時間で、マンチェスター・ハルムへ。ここには、ロイスが初めて自らの名を冠した電気機械の製造メーカー、FHロイス&カンパニー社の拠点があった。
現在はグレートブリテン島の南部、チチェスターの街へ拠点を置くロールス・ロイス・カーズだが、ブランドの歴史の1ページとして、この場所へ触れるつもりはないようだ。それでも、マンチェスターと縁があったことは事実だ。
1884年にロイスはここで事業を始め、モーターやダイナモ、ウインチ、クレーンなど多様な機械を製造し、電気の需要拡大とともに急成長。この土地で、最初のロールス・ロイスも誕生した。初期の40/50シルバーゴーストも、ハルムで作られた。
しかし、20世紀に入ると安価な輸入製品が英国で普及。ロイスは事業を再考することに迫られ、自動車製造へ本格的にシフトすることになった。
FHロイス&カンパニー社の電気機械は、すべてロイス自身が設計していたという。モーターやダイナモなど回転する部品は、製造品質が高く完璧にバランスが取れていないと、滑らかに機能しない。
その経験から、自ら内燃エンジンの設計にも関わった。不安定さと振動を排除し、冷却と潤滑へ配慮し、堅牢性や信頼性には細心の注意が払われた。
現在、その場所はハルム・パークとして整備されている。緑豊かな、静かな公園だ。散策したり、木陰で読書するのに望ましい場所へ思えた。傍らには、ロイスの功績を記したプレートと、象徴的な「パルテノングリル」を模した彫刻が飾られている。
英国を代表する偉大なブランドは、ここから始まったのだ。
17:15 最初の大きな仕事は街灯の整備
ロイス氏の生涯を振り返ってきた今回の小旅行。ロンドンで知識を蓄えた若き彼は、マキシム・ウェストン・エレクトリック社の電気技術者として就職し、西部のランカシャー部門へ配属される。
最初に手掛けた大きな仕事が、市街地の街灯を整備することだった。劇場内の照明にも関わったが。
1884年からリバプールの発電施設で働き始めた彼は、街灯の設置計画と施工監督を任されていた。照明が適切に通りを照らしているか、時間通りに点灯するか、自らの足で歩いて確認していたという話が残っている。
しかし、マキシム・ウェストン・エレクトリック社は早々に倒産してしまう。技術開発へ注力し、多くの特許を取得した結果、資金的に苦しくなったことが原因だったとか。
20ポンドの貯金を持っていた彼は、友人のEA.クレアモント氏と独立。先出のFHロイス&カンパニー社を、マンチェスター・ハルムの街でスタートさせた。
感慨深い印象を生む電動のロールス・ロイス
筆者がリバプールへ到着した頃、既に日は沈み、街灯が灯っていた。ライトアップされる中心部を背景に、スペクターを撮影する。1933年に亡くなったロイスが生きていたら、明るく照らされた街並みへ感激したことだろう。
しかし、極めて速く快適で豪華な、スペクターの可能性にも言葉を失ったかもしれない。ロールス・ロイス初のバッテリーEVは、彼の足跡を知るほど感慨深い印象を生む。
100年以上前、ロイスは当時のバッテリーの性能へ限界を感じ、電気自動車を選ばなかった。高品質な内燃エンジンを開発することで、電気モーターに迫る上質さを実現。自動車業界全体へ、大きな影響を与えることになった。
そして今、技術革新とともに理想的な電動のロールス・ロイスが誕生した。スペクターは、ブランド創業者の記憶を、何より想起させるグランドツアラーだといっていい。
ロールス・ロイス・スペクター(英国仕様)のスペック
英国価格:33万2055ポンド(約6143万円)
全長:5453mm
全幅:2080mm
全高:1559mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:4.5秒
航続距離:529km
電費:4.6km/kWh
CO2排出量:−g/km
車両重量:2890kg
パワートレイン:ツイン他励同期モーター
駆動用バッテリー:102kWh(実容量)
急速充電能力:195kW
最高出力:585ps
最大トルク:91.6kg-m
ギアボックス:1速リダクション(四輪駆動)
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みんなのコメント
単純にロールスの手法を持ち込んで
廉価化すれば良いのになんであんなに崩れる?