大量のバックオーダーを抱えている新型「ランドクルーザー」と、今年で登場から13年目を迎えた「ランドクルーザー・プラド」を今尾直樹が比較試乗。日本が誇る本格オフローダーについて考えた! 前編では最新のランドクルーザー(300)について深める。
ディーゼル同士の比較
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トヨタのホームページによると、昨年登場したランドクルーザー300は「日本のみならず世界各国でも大変ご好評いただいており生産能力を大幅に上回るご注文をいただいているため、現在ご注文を停止させていただいております」となっている。量産モデルでここまで販売好調というのも珍しい。
さてそこで、ランクルの代わりとなるSUVはないのか? と、考えてみると、おなじトヨタ・ランドクルーザーのプラドが浮かぶ。こちらの工場出荷時期の目処は、注文してから6カ月以上で、その理由はコロナ感染の拡大と世界的な半導体不足で生産遅れが生じているから、とされている。待てば、海路の日和あり。ランドクルーザーとは事情が異なり、プラドはちゃんと受注している。
さりとて現行プラドは2009年9月にモデルチェンジを受けて以来、はや13年。この間、エンジンやら自動運転アシスト関係やらの改良を受けてきてはいるものの、昨年登場したばかりの新型ランクルの代わりに13年生のプラドでガマンする。なんてことが果たしてできるのか? 13年は長い。2009年9月に生まれた子どもは中学1年生。対して、新型ランクルは満1歳。これでは勝負にならぬ。というのは人間の話であって、自動車は違う……かもしれない。
というわけで、2台を比較してみた。スタッフのなかに、2020年に発売されたランドクルーザー・プラドの特別仕様車TX “Lパッケージ・Black Edition”(ディーゼル車 7人乗り)に乗っているひとがたまたまいたこともある。
Black Editionは、中間グレードのTXにL(レザー)パッケージ相当の装備を加え、内外装をブラック基調に変更している。この特別仕様は好評だったようで、同様のコンセプトの特別仕様車“Matt Black Edition”が今年の8月に新たに登場している。本革シートもさることながら、黒いクロームのグリル、という外からひと目でわかるスペシャル感が人気の秘密らしい。
対するランクルの試乗車は、「世界一過酷なダカールラリーで鍛え、創り上げられたクルマ」というスポーティ仕様のGRスポーツである。ダカールラリー参戦ドライバーからの改善要望を生かして、さらなる進化熟成が図られているというこれは、内外装にGRテイストが盛り込まれ、E-DKSSという、電子制御でスタビライザーの効果を変化させるシステムや電動デフロックなどを装備する。
2023年以降、トヨタ車体がこのGRスポーツをベースにした車両で、ダカールラリーに挑戦する。トヨタ車体はランドクルーザー300、レクサス「LX600」、そして輸出用の「ランドクルーザー70」などを生産しているトヨタ・グループの中核をなす会社で、開発能力もある。
ランクルにもプラドにも、それぞれガソリンとディーゼルがある。今回はディーゼル同士の比較で、ランクルはGRスポーツではないほうがよかったけれど、テスト車の日程上こうなった……ということでご了解をいただき、話を先に進めたい。
鷹揚な気分におのずとなる
早速、ランクルGRスポーツから試乗する。GRスポーツは、パワートレインには手をつけず、内外装とサスペンションのチューニングによってスポーティヴネスを訴える。というのが原則で、ランクルGRスポーツもこの原則に則っている。
ラジエーター・グリルが専用のハニカム型になり、TOYOTAと大きく入るほか、長方形のGRのバッヂが貼られる。専用の前後バンパー、それに専用のブラックのホイールアーチのモール、さらに専用のマットグレー塗装の18インチ・ホイール等によって、外装は精悍な雰囲気が漂っている。
東京で乗るには、全長4965×全幅1990×全高1925mm、ホイールベース2850mmの、このサイズがギリギリだと筆者は思う。最低地上高は225mmもあるから、ステップがあるのはたいへんありがたい。
室内はGRスポーツ専用の赤と黒の2トーンでまとめてある。赤は血の色であり、生の象徴である。黒は光を吸い込む闇の色であり、生の反対を象徴する。生なくば死はなく、死なくば生き続けることになって、それはそれでつらかろう。生と死は表裏一体。生とは性であり、性とは生きる喜び……。
と、わかったような、わからんことを書いておりますけれど、じつはクセの強い赤/黒の2トーンとブラックのモノトーン、内装はどちらかを選べる。
筆者の場合、モノトーンでよいのではないかと思う。運転席に座ってしまうと、シート表皮は見えなくなるし、着座位置が高くて、見晴らしがよいことのほうに心が奪われ、内装のことは忘れてしまう。見晴らしのよさというのはランクルの骨格にかかわる話であり、より高次というか、本質にかかわる。SUV全盛時代にあってなお視点が突出して高い。これはランクルのシンプルな魅力のひとつだと筆者は思う。
乗り心地は、GRスポーツ専用チューンのため若干、硬めてある。記憶のなかのノーマルのランドクルーザーよりも、低速で路面からのショックを伝えてくる。東名高速の下りは海老名あたりまで例によって混んでおり、3345ccV6ツイン・ターボのディーゼルが静かなことと、エアコンが強力なことだけはわかったけれど、それ以上のことは、のそのそ動いているだけで、う~む。な時間がしばし続く。
それでも、大きなクルマに乗っていると、こころにゆとりが生まれることもまた確かである。鷹揚な気分におのずとなる。これもまたランクルの魅力のひとつだろう。
ベントレー「ターボR」を思い出す
海老名を超えたあたりから、ようやく100km/h巡航に移る。エンジンは極めてスムーズで、高速も室内は静かである。駆動系の滑らかさには10速オートマチック・トランスミッションも寄与していることだろう。スムーズな変速は特筆に値する。
重めのスロットル・ペダルをガバチョと踏み込むと、10ATがキックダウンし、エンジンが2000rpmぐらいから、ゴーッとうなりを上げる場合がある。そういうとき以外、V6ディーゼルはほとんど存在を主張しない。あ。アイドリング時にガラガラ音を発することがまれにあるけれど、たいして気にならない。
V6ツイン・ターボは最高出力309ps/4000rpmと最大トルク700Nm/1600~2600rpmという数値を誇るものの、レッドゾーンの始まる4400rpmあたりまで回してみても、加速はさほど鋭くない。ディーゼルということでトルクはあっても、スポーツカー・ブランドが送り出しているスーパーSUVみたいな加速性能とは無縁なのだ。
筆者が思い出したのは、1980年代末から1990年代にかけてのベントレー「ターボR」である。あれはよかったなぁ~。スロットルをジワッと踏んだときに、低速トルクでもってエフォートレスにスッと動く、あの感じ。現代のランクル300はあれをちょっと思い出させる。
GRスポーツならではの本領は、高速コーナーの連続する大井松田あたりで味わえる。ごく軽いロールを伴いながらオン・ザ・レール感覚で駆け抜けられた。着座位置とボディのサイズは別にして、路面の凸凹によってリアが跳ねる感じは、1950年代のイギリスのスポーツカーのようでもあった。
でっかいものを操っている感はもちろんある。そこはスポーツカーとは異なるところだけれど、ラダー・フレームにフロントがダブル・ウィッシュボーン、リアがリジッドという共通項が筆者をしてそんな連想をさせたのかもしれない。
ランクルGRスポーツが標準装備するAVSS(Adaptive Variable Suspension System)、すなわち電子制御の可変ダンピングのサスペンションと前後スタビライザーが大きさに似合わぬステアリング・レスポンスに貢献していることも確かだろう。
後編では登場から13年目を迎えたランドクルーザー・プラドをテスト。
プラドにはプラドの良さがあった!
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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