袋状の複雑形状部材を仕立てるには、コの字断面にふたをするという工法が必要不可欠だった。しかし、住友重機械工業のSTAF工法では、鋼管材を用いて閉断面形状を製作できるという。その仕組みと得られる効能について聞いてみた。TEXT:高橋一平(TAKAHASHI Ippey)
スチールという古くから馴染深い素材は、ともすると地味にも見えるが、現代のボディに求められる要件をスチール材中心の構成でクリアするためには高い技術が求められる。この分野を支えてきたのは、自動車用途を主眼に開発された高張力鋼板と、それを加工するための技術だが、今そこに新たな加工技術が加わろうとしている。住友重機械工業によるSTAF(Steel Tube Air Forming)工法だ。
鋼管(スチールパイプ)を通電加熱し、高圧エアを吹き込みながらプレス成形することで、閉断面形状の部材を高い自由度で成形、同時に金型により急冷する焼入れを行なうことで高い強度も確保できるというもの。例えばボディのAピラーのような、フランジ付きの閉断面の成形は特に得意とするところで、複数のプレス部材をモナカ合わせのように組み合わせてスポット溶接で組み立てていた従来工法と比べると、工数の削減はもちろん、フランジ端まで含めすべて一体となることから、構造的にも高い強度が期待できる。
上図は、Aピラー部における部材(部品)数の違いを既存工法と比較したもの。フランジ部までを含めた閉断面の主構造部を一体成形とすることで、外板(スキン)部をかぶせるだけのSTAF(右端)は、他に比べて部材数が圧倒的に少なくて済む。
Aピラー部を主とした部材部分で比較すると、一般的な従来工法では閉断面を構成するためにふたつの部材をスポット溶接で組み立てるのに対し、STAF工法では一体成形なのが見て取れる。フランジ端面まで連続的に繋がるために強度的に有利であり、薄肉化による軽量化が期待できる。
このSTAF工法はすでに数年前に技術的な検証を経て確立されており、同社では新居浜工場にSTAF試作機を竣工。従来よりも大型(長い)の部材を試作することが可能になり、量産車両への採用に向けて大きく前進した。
これまでSTAF工法の試作部材はAピラーへの応用例が目立つかたちで披露されていたが、ブースではこの新設備によって試作されたバンパーレインフォースメントなどの新たな試作部材も展示されていた。従来構造よりも薄肉で同等以上の剛性を確保している。従来工法では厚さ1.6mmと1.8mmのふたつのプレス部材を溶接してつくられるのに対し、STAF工法では厚さ1.2mmの鋼管を材料として一体で部品をつくることができる。ステー部分(市販車流用)も含めたアッセンブリー状態で23%の軽量化を実現している。
連続的に断面形状を変化させるような複雑な形状も可能という特徴を生かせば、前述のAピラーについてもルーフ部分まで連続させるかたちで広い範囲を一体成形することもできるとのことで、新設備ではこうした試作も行ない、強度検討などの検証例を増やしていく予定だという。ほかにも、必要とされる閉断面部材の成形性に依存するかたちでストレートな形状が主流となってきたサイドシル部にも、このSTAF工法を応用すれば形状の自由度が大幅に向上する可能性が見込めるなど、応用が期待できる部位は数多い。
2017年9月、同社の新居浜工場にて竣工したSTAF試作機。成形可能な形状は、パイプ径が50~150φ、製品全長は約1600mmまで、パイプ(素材)長は750~1930mmと、これまで試作が行なわれていた実験設備よりも大型の部材を試作することが可能となった。現在、量産車への採用を目指し、さまざまな部材の試作、検証が行なわれている。
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