スポーツモデルの“大きな羽根”を最近めっきり目にしなくなった。そう、クルマ好きにとってはお馴染み「リアウイング」のことだ。
国産の高性能スポーツモデルには、リアウイングが装着されるのが当たり前だった。スカイラインGT-R、インテグラタイプR、マツダ RX-7、スバル WRX STI、三菱 ランサーエボリューション……いずれも大きな羽根が付いていた。
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しかし、2021年3月現在、これらの車種はいずれも生産を終了。リアウイングはその姿を消しつつある。
高性能車の象徴でもあったリアウイングの隆盛は、時代が変化しつつあることの象徴ともいえるかもしれない。
文/御堀直嗣 写真/池之平昌信、Porsche、HONDA、BMW
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■車の進化と最高速度の上昇で生まれた「ウイング」
ウイングが一般化する前、初期の911などがRRの駆動方式を採用したのも、エンジン荷重によって後輪のグリップを増加させる目的があったと考えられる
空力部品として、ウイングというものが世に表れたのは、1960年代末のF1だった。当時、葉巻型といわれた細長い車体の前後に、高々と支柱を立て、そこに航空機の翼と逆向きのウイングが装備された。
それまでは空気抵抗を減らす考えが主流であり、鳥や魚の姿を模して流線形と呼ばれる無駄のない造形が追求された。あわせて、エンジン性能の向上などもあり、レーシングカーのみならずクルマの最高速度はあがっていった。
一方で、速度が高くなるほど浮力も生じ、走行が不安定になって操縦不能となる恐れも出てきた。そこで、車体を地面へ押さえつけるため、ウイングという発想が生まれたのである。
また、当時はバイアス構造でつくられるタイヤのグリップが低く、ウイングによって車体が地面へ押し付けられれば、それによってタイヤの接地圧も高まり、グリップを回復できた。
フォルクスワーゲンのタイプ1(通称ビートル)や、ポルシェ365、あるいは初期の911などが、まだウイングを装備しない時代にリアエンジンを採用したことも、後輪のタイヤのグリップをエンジン荷重によって稼ぐ目的があったと考えられる。速度無制限のアウトバーンがある国ならではの着想だ。
■機能が裏付ける形の格好良さから高性能モデルの象徴に
後方視界確保のためにウイングを装備できない市販車にはトランクリッド後端を跳ね上げるリアスポイラーが装備された
F1でのウイングが、プロトタイプスポーツカーのレーシングカーでも応用されるようになり、やがて市販車を使うツーリングカーレースでも装備されるようになる。その精悍な姿にあこがれる消費者に向けて、ウイング付きの市販車が販売されるようになったのだ。
しかし、乗用車では大きなリアウイングを装備すると、後方視界を悪化させかねず、交通安全上の差しさわりがある。そのため、リアスポイラーといって、トランクリッド後端を跳ね上げる部品が装着されることがはじまった。
たとえば、R31スカイラインGTS-Rにリアスポイラーが用いられた。スポイラーを後から取り付けるのではなく、車体の造形自体で後端を跳ね上げたようなクルマもあり、その姿をダックテール(アヒルの尾)と呼んだりした。
その後、リアウインドウの視界を妨げないように隙間を設けたり、リアウインドウの下端より低い高さのリアウイングを装備したりするような工夫が行われるようになり、ホンダNSXやR32スカイラインGT-Rなどでリアウイングが装備されるようになった。
以後、インプレッサSTIやランサーエボリューションなどで、リアウイングが装備され、高性能の象徴となっていった。
前輪駆動のホンダのインテグラでもリアウイングが用いられたが、これは、前輪荷重の大きな前輪駆動車に対し、後輪荷重が少なくなり高速走行安定性が損なわれるのを抑え、前後のタイヤのグリップを調和させることが狙いだったのだろう。
■燃費志向の高まりやタイヤの進化でウイング要らずの時代に?
床下の形状を整えることによって空気抵抗を減らし、適度なダウンフォースを得られるようになった
しかしながらウイングの装着は、空気抵抗の増加にもつながる。それでも、より速く走行するには、空気抵抗を上回るエンジン馬力が必要になる。あまり燃費が問われない時代の姿でもある。
そして、レースの世界でも次第にウイングの空気抵抗が無視できない状況になり、編み出されたのがベンチュリー効果と呼ばれる、車体床下の形状設計だ。
車体の床下を、翼の下側と同じように湾曲させることで、路面と床の隙間を流れる空気がウイングと同じように車体を地面に押さえつける力(ダウンフォース)を発生するようにしたのである。
この着想自体は、1960年代末のウイングよりさらに前の、1930年代に、アウトウニオンの最高速挑戦車を設計したフェルディナント・ポルシェ博士が編み出していた。
しかし、この車体でダウンフォースを生み出す効果は、横風に弱く、床下の気流の流れがわずかに狂うと、逆に車体を持ち上げ、空へ飛ばしてしまう危険性があった。それによって、アウトウニオンの契約レーシングドライバーであったベルント・ローゼマイヤーは死亡する。
同じような惨事は、1980年代のレース界で再び繰り返されるのだが、以後、床下全体を翼の下側の形状とすることは規制を受け、後輪から後ろのアップスイープと呼ばれる跳ね上げ形状だけが残された。
そのような経緯を経て、乗用車の床下もアップスイープを模したり、少なくとも床下の凹凸をなくして平らに整えることが行われたりするようになった。それによって、空気抵抗を減らしながら、適度なダウンフォースを得ることが一般的になったのである。
写真は最新のBMW 新型M3。ハイパフォーマンスモデルながら潮流にのって、リアには控えめなリップスポイラーを装備するのみだ
環境規制の厳しさはさらに増すようになると、燃費のいっそうの向上が求められるようになった。そもそも空気抵抗の基となるウイングの存在が厄介になってきた。そこで、ドイツの高性能乗用車なども、トランクリッドの後端をわずかに持ち上げる程度の造形になってきている。
あわせて車体全体の形状をより整えることで、そもそも車体が高速で浮き上がりにくい輪郭が形作られていくようになっている。そうしたことが可能になった背景にあるのが、コンピュータシミュレーションだ。
それまでは、たとえ風洞実験を行っても、目に見えない空気の流れは人間が想像するしかなかった。
しかし、画像解析により、あたかも空気の流れを見えるかのようにしたシミュレーション技術により、気流の細部まで目で確認できるようになり、空気抵抗が少なく、なおかつ車体を浮き上がらせないような造形の手掛かりが掴めるようになったのである。
空気の流れだけでなく、タイヤ性能の向上も、高速でのクルマの走行安定性を高めることに貢献している。
まず構造が、1970年代以降バイアスからラジアルへ替わっていった。また接地面のゴムの粘着力が高まったこと。そしてタイヤ寸法が扁平になることで、接地面積が増大した。それでいて、走行抵抗を減らすようなタイヤ技術も開発されている。
■消えゆくウイングと新しい「格好良さ」への期待
トランクとウイングの間から覗き込むように後方視界を確保する手法も存在した。しかし大きすぎるウイングは空気抵抗の増加につながる
昨今、大きなリアウイングを装備する車種が減ってきたのは、世界的な環境対応が待ったなしの状況であることに加え、上記のようにさまざまな技術革新によって、走行安定性と燃費の両立がはかられてきているからだろう。
市場では、ミニバンやSUV(スポーツ多目的車)の人気が高まり、一方で、セダンやクーペの車種が減っていることも、ウイングを装着したクルマを見なくなった要因だろう。
2030年以降、世界各地域でエンジン車発売禁止の方向性が強まるとともに、電気自動車(EV)が普及するにつれ、新しい格好よさが造形されていくことへの期待がある。
モーター駆動は、エンジンに比べより緻密な駆動力制御ができるようになり、走行安定性を高められる。スリップゼロを目指すとする自動車メーカーもある。
また、床下に駆動用バッテリーを配置することで、より低重心かつ前後重量配分の適正化をおこなうことができる。エンジン車のようなラジエターグリルもほぼ不要になるだろう。それによる空気の流れも変わってくるはずだ。
EV時代の高性能車とは、どのような姿が適切なのか。カーデザイナーの腕の見せどころだと思う。
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みんなのコメント
その飾りが大きな自己満足なのです。
今の時代、デザインで自己主張ができる車が減ってしまいましたね。