フォルクスワーゲンのSUVのTロック(T-Roc)、Tクロス(T-Cross)は、その取り回しの良さと優れたコストパフォーマンスで輸入車SUVの国内販売の1、2位を獲得するほどの人気モデルだ。その2台にティグアン(Tiguan)を加えたTシリーズ3兄弟の人気の秘密を探る。
ライフスタイルに合わせて選べる3台のSUV
フェラーリやマクラーレンといったごく一部の「スーパーカーブランド」を別にすると、現在ではほぼすべてのブランドが自身のラインナップに多くを並べるSUVのモデル群。昨今はSUVながらも流麗なスタイリングを売りにした、いわゆる「クーペSUV」もポピュラーな存在に。とくに、ドイツの高いプレミアム性を競うブランドでは、そうした派生バージョンを含めたSUVラインナップの拡充にすこぶる熱心だ。
フォルクスワーゲン ティグアンに「TSI 4MOTION」が追加ラインナップ。実用性にも優れた、スタンダード版4WDモデルだ
それゆえ、派手さや華やかさからどうしてもそれらプレミアムブランドがリリースをする大柄で高価なモデルに目を奪われがちだが、2021年に日本での輸入車SUVというカテゴリーで登録台数第1位の座を獲得したのは『Tクロス』で第2位は『Tロック』と、実はいずれもフォルクスワーゲンの作品。
もちろん、前出のようなモデルに対して価格が手頃といった事情も、大きな理由であるには違いない。けれども、そんな価格面を除いても日常シーンでの道路や駐車環境への適合性、乗降性や見晴らしを筆頭とした使い勝手の良さなど、さまざまな面でのポテンシャルの高さが反映された結果が、こうしたデータに現れていると受け取れる。
マイナーチェンジで質感が現代的な仕様へと向上したTロック
そんなわけで、ここでは改めて前出1位と2位の輸入車ベストセラーSUV 2台と、日本に導入されるフォルクスワーゲンのSUVでは最上位にあたる『ティグアン』を加えた3台をピックアップ。それぞれのキャラクターと特徴、魅力に切り込んだ。
そんな中でももっともホットなトピックを備えるのはまず、マイナーチェンジされたばかりのTロック。
2020年7月に日本への導入が始まってまだ2年でマイナーチェンジとは、随分慌ただしい! と受け取られるかも知れない。だが、それは日本の視点で見た場合の印象で、実は欧州でのTロックはすでに2017年に発売されている。それを基点に考えるとライフ半ばと受け取っても差支えないのが今、というタイミングでのテコ入れだ。
前後バンパーに新しいデザインを採用したり、グリル中央のフォルクスワーゲンエンブレムを挟む水平のLEDストリップを新設定したりと、外観面でも軽いリファインが行われている。それでも、従来から好評を博してきたモデルであるだけに全体の雰囲気は先代モデルを踏襲していて、大幅なイメージチェンジは伴っていない。
そんなエクステリアよりも、見栄えの変更はインテリアの方が大規模。ダッシュボードにビルトインされていたセンターディスプレイはダッシュアッパーへと移動された上で大型化され、ダッシュボードやドアトリムにはステッチを施したソフトパッド材を新採用し、従来型で感じられた質素な雰囲気は姿を消している。
さらに、同一車線内全車速運転支援システム「トラベルアシスト」が標準装備されるなど機能のアップデートの話題もあるものの、それ以上にTロックで見逃せないのは、これまで設定のなかったハイパフォーマンスグレードの『R』が追加されたということだろう。
実は、前出マイナーチェンジモデルでは走りに関する変更点はとくにアナウンスされておらず、実際にベーシックグレードの『TSIスタイル』に乗った印象も、ゆとりある動力性能にやや硬質だが安定感に富んだフットワークのテイストと、とくに従来型との大きな違いは感じられなかった。それだけに、最高300psを発生する2Lエンジンを、シリーズ唯一の4WDシャシに組み合わせた走りは何とも楽しみ。好調が伝えられてきたTロックシリーズの販売の勢いにも、さらなる拍車が掛かることだろう。
ティグアンに4WDモデルの4モーションが追加設定
一方、最高で320psとさらに強靭な出力を発する2Lのターボ付きユニットを搭載し、やはりそれを4WDシャシと組み合わせたハイパフォーマンスバージョンの『R』をひと足早く設定して選択の間口を広げているのがティグアンだ。
実際、0→100km/h加速タイムが5秒を切るとその俊足ぶりが発表され、リアディファレンシャルには左右2組の多板クラッチを用いたトルクベクタリング機構を内蔵するなど、走りのレベルアップに妥協なく取り組んだこのモデルが、ベーシックなグレードとは一線を画した、何ともホットな走りのシーンを演じてくれることはすでに確認済み。
もっとも、前出のTロック同様の1.5Lターボ付き直噴ガソリンエンジン+7速DCTというパワーユニットを200kgほど重いボディに積む、今回試乗した『TSI Rライン』でもその動力性能には不足感はなく、同時にそのフットワークのテイストには重厚感も演じられ、しっかり兄貴分としての貫禄を感じさせられることになっていたのも印象的だった。
そのティグアンに2Lターボエンジンと4モーションシステムを組み合わせたフルタイム4WDのティグアンTSI 4モーションが新たに追加された。
3兄弟の末っ子モデル、Tクロスは取り回しに優れたSUV
逆に、全般に身の丈感の強いフォルクスワーゲン発のSUV群の中にあっても、全長×全幅サイズが4125×1785mmともっともコンパクトで、そんな小ささを積極的にセールスポイントとしてアピールする末っ子モデルがTクロス。
今回テストドライブを行った『TSI Rライン』グレードを含め、日本に導入されるモデルに搭載されるパワーパックは、1Lのターボ付き直噴3気筒エンジン+7速DCTという組み合わせに限られるが、恐らく多くの人が実感する走りの印象はまず、「そんなスペックから連想する以上に動力性能が強力」ということであるはず。
1500rpm付近からすでにしっかりしたトルク感が味わえ、街乗りシーンでは2500rpmも回せば十分。DCTもそんな心臓の性格に合わせたシフトプログラムで次々とアップシフトを繰り返してくれるので、結果として静粛性の高さも思った以上。当然取り回し性にも優れるので、どこにでも出かける気になれるのも輸入SUVとしては例外的と言える特徴だ。
星の数ほど存在するSUVの中にあっても、それぞれが売れるのも納得というのが、フォルクスワーゲンのSUV 3兄弟に触れての改めての印象なのである。(文:河村康彦/写真:井上雅行、伊藤嘉啓)
■フォルクスワーゲン Tロック TSI スタイル 主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1825×1590mm
●ホイールベース:2590mm
●車両重量:1320kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1497cc
●最高出力:110kW(150ps)/5000-6000rpm
●最大トルク:250Nm/1500-3500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・50L
●WLTCモード燃費:15.5km/L
●タイヤサイズ:215/55R17
●車両価格(税込):417万9000円
■フォルクスワーゲン Tクロス TSI スタイル 主要諸元
●全長×全幅×全高:4125×1785×1580mm
●ホイールベース:2550mm
●車両重量:1270kg
●エンジン:直3 DOHCターボ
●総排気量:999cc
●最高出力:85kW(116ps)/5000-5500rpm
●最大トルク:200Nm/2000-3500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・40L
●WLTCモード燃費:16.9km/L
●タイヤサイズ:215/45R18
●車両価格(税込):370万8000円
■フォルクスワーゲン ティグアン TSI Rライン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4520×1860×1675mm
●ホイールベース:2675mm
●車両重量:1520kg
●エンジン:直4 DOHCターボ
●総排気量:1497cc
●最高出力:110kW(150ps)/5000-6000rpm
●最大トルク:250Nm/1500−3500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・60L
●WLTCモード燃費:14.3km/L
●タイヤサイズ:255/45R19
●車両価格(税込):540万6000円
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