ワンメイク電動オフロード選手権『エクストリームE』のシーズン3最終ラウンドとして、12月2~3日に南米大陸のチリ・アントファガスタで開催された第9戦、第10戦“Copper X-Prix”は、選手権首位を行くアクシオナ・サインツXEチーム(ASXE)のマティアス・エクストローム/ライア・サンズ組を筆頭に、全10チーム中5チームにタイトルの権利が残されるなか、初日から接触、転倒、車両破損のアクシデントが多発する混沌の週末に。
そんな波乱を掻い潜り、元F1王者ニコ・ロズベルグのロズベルグXレーシング(RXR、ヨハン・クリストファーソン/ミカエラ-アーリン・コチュリンスキー組)が土曜初日を制し、わずか6点の僅差で最終日のマッチアップを迎えると、今季を牽引してきたASXEのサンズは栄光を目指したアタックの末にロールオーバーで大破。同じく損傷を負ったマシンを運び4分遅れの2位チェッカーを受けたRXRが、創設初年度に続く2度目のチャンピオンを獲得し、コチュリンスキーは自身初タイトルを逆転で手にする結果となった。
ETCR初代王者エイドリアン・タンベイが砂漠デビューへ。クリスティーナGZも復帰/エクストリームE
ルイス・ハミルトン率いるX44ヴィダ・カーボン・レーシングのフレイザー・マッコーネルと“昨季王者”クリスティーナ・グティエレスや、開幕勝者ヴェローチェ・レーシングのケビン・ハンセン/モリー・テイラー組など、可能性を残した面々がアタカマ砂漠に集結した今季最後のレースウイークは、予選ヒートから各陣営の王座への意気込みを感じさせる大荒れの展開で始まった。
エクストロームとサンズのペアで今季をリードして来たASXEは、予選Q1ヒートからボディワークの損失によりワイヤーが切断され、マシン全体がショート。続くQ2ではハイパードライブ(ブースト機能)の不適切な使用による5秒ペナルティで初タイトルへの“焦燥感”を駆り立てられると、同ヒートは出走全車が事故に見舞われる前代未聞のセッションとなる。
最初にクラッシュしたのはABTクプラXEで、今回タナー・ファウストと組んでNEOMマクラーレンXEより参戦するヘッダ・ホサスと、スタート直後のターン1で接触したクララ・アンダーソンが激しく横転。彼女は無傷でマシンから脱出したが、ここで早速の赤旗中断となる。
リスタート後もフロントサスペンション破損で失速したヴェローチェ・レーシングの初年度覇者テイラーに、行き場を失ったアンドレッティ・アルタウィキラットのケイティ・マニングスが激突。その衝撃で車体後部に乗り上げたマシンは転がり落ちて大破し、ともにリタイアを喫する事態となった。
■ヴェローチェはDNS回避もシグナルグリーンでリタイア
「チリで行われた今日の予選Q2にて、ケイティはレース再開後のオープニングラップでアクシデントに巻き込まれました。彼女は事故から自力で脱出し、現場で医療チームの診察を受けましたが、さらなる予防検査のため地元の病院に搬送されています(アンドレッティ・アルタウィキラット)」
これによりシリーズ唯一のスペアカーはすでにNO.99 GMCハマーEVチップ・ガナッシ・レーシングの手に渡っていたことから、ABTクプラXEとアンドレッティ・アルタウィキラットの早期離脱が確定。わずか3台で争われた順位確定“リデンプション・レース”は、カール・コックス・モータースポーツのティモ・シャイダー/リア・ブロック組が制する。
こうして迎えた第9戦の“グランドファイナル”には、タイトル挑戦権を持つ4チームとNEOMマクラーレンXEを含めた5台が出走すると、DNSを回避してスタートラインにワンメイク車両『オデッセイ21』を並べただけのヴェローチェ・レーシングはシグナルグリーンとともにリタイアを決め、ここでタイトルの望みも潰えてしまう。
その先頭ではASXEのエクストロームとRXRのクリストファーソンが、男性同士となった直接対決をほぼ同タイムでクリアしてスイッチゾーンに飛び込むと、わずかに先行してコースへ出たRXRの動きが決定打となり、サンズの猛攻を抑え切ったコチュリンスキーが0.35秒差で今季3勝目を獲得。
ここへ来て2位ASXEを6点差でかわして逆転首位浮上で最終日へのお膳立てを整え、対照的に3位表彰台ながらX44ヴィダ・カーボン・レーシングもここでチャンピオンシップへの挑戦を終えることとなった。
「整理整頓して、ライア(・サンズ)を後ろに留めようとしたけど、厳しいレースだった。ヨハン(・クリストファーソン)は素晴らしいスタートを切ったし、素晴らしいチームの努力で勝利を持ち帰ることができ本当にうれしい」と、自身初王座への可能性を引き寄せたコチュリンスキー。
「私たちも、この段階でチャンピオンシップをリードできることに興奮しているし、この勢いを次のレースに持ち込むことも楽しみにしている」
明けた日曜の第10戦“グランドファイナル”でも、まずはASXEが主導権を握ってリードを奪うと、ヴェローチェのハンセンらに遅れをとったRXRクリストファーソンは、コーナーの急なバンクに引っ掛かって片輪走行となり、あわや横転の窮地に追い込まれる。
この場はなんとか体勢を立て直しコントロールを取り戻した初代王者だったが、ここで喫したパンク修理のため1周目でピットを余儀なくされ、ほぼラップダウンという絶望的な状況からの挽回を強いられる。
■RXRが劇的な展開で2度目のエクストリームE制覇
一方、スイッチゾーンでは3番手で戻ったX44ヴィダ・カーボン・レーシングのマッコーネルに、背後から迫ったNEOMマクラーレンのファウストが速度を殺し切れずに追突。タイムペナルティを受けた後者はマシン損傷が激しくここでリタイアとなり、グティエレスにスイッチしたX44も大幅なペースダウンを迫られる。
そしてRXRのクルマを引き継いだコチュリンスキーも、右側トラックロッドの破損と格闘しなければならず、手負いの状態でマシンをフィニッシュラインへ運ぶことだけに集中する状況に追い込まれる。
しかし刻を同じくして、首位攻防を繰り広げていたASXEの2番手サンズは、ウェイポイント20-21で前方を行くヴェローチェのテイラーのインを伺うなど再三の仕掛けを見せると、最終ラップのウェイポイント2でまさかのスピン。コース復帰を急いだ際にふたたびのスピンを喫して横転し、ここでタイトルへの挑戦を終わらせる無情のエンディングとなった。
これで本来なら3位以上でなければチャンピオンの望みがなかったRXRが、今季3勝目を飾ったヴェローチェ・レーシングから遅れること4分で大ダメージを受けたオデッセイ21を運び、2021年初年度のタイトル以来2度目となる劇的なエクストリームE制覇を成し遂げた。
「2023年のチャンピオンシップで優勝するだなんて、まさに夢が叶った気分! ASXEとはシーズンを通して接戦だったけど、今は本当にうれしくて言葉が出ない」と、初戴冠の喜びを語ったコチュリンスキー。
「昨年も懸命に戦って、惜しくもタイトルを逃した。パンクしたのを見たときは緊張したけれど、いつものように私たちは決してあきらめない。困難にもかかわらず、チーム全体のスピリットは決して衰えなかった。このチャンピオンシップは、情熱と忍耐があれば何でも達成できることを力強く思い出させてくれたわ」
同じく、一時は窮地を経験したクリストファーソンも「激しいシーズンを経て、2度目の王座は信じられないほど素晴らしいこと」だと続けた。
「今季のASXEは印象的な戦いを見せ、僕らは戦いのすべての瞬間を楽しんだ。この勝利を、残念ながら直近に亡くなったカイル・ルデュックに捧げたいと思う。ここにいる誰もが、彼とのレースを恋しく思っているよ」
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