■走れ走れいすゞのトラック♪
いすゞといえば、「エルフ」や「フォワード」「ギガ」といったトラックがお馴染みです。
【画像】カッコいい! これがいすゞ3列SUV「MU-X」だ! 日本で披露された実車を写真で見る!(31枚)
しかし、かつては小型乗用車を造っていたことを知る人は少なくなってきました。なぜいすゞは国内の乗用車事業から徹底したのでしょうか。
全盛期のいすゞは、トヨタや日産に並ぶ日本三大自動車メーカーのひとつで、多くの名車を生み出してきました。
いすゞの前身が誕生したのは昭和4年のことで、東京石川島造船所の自動車製造部門として設立。
その後、何度か合併を繰り返し、かつて生産したトラックの車名である「いすゞ」の名を冠した「いすゞ自動車」となったのは昭和24年のことでした。ちなみにいすゞとは、伊勢神宮のなかを流れる五十鈴川から由来しています。
前述の通り、いすゞはさまざまな名車と呼ばれる小型乗用車を送り出しています。
シルバーエイジに懐かしい存在が「ベレット」。1963年に登場したベレットは日本初のGTカーでこの時代のクルマとしては4輪インディペンデントサスペンションという先進的なメカニズムを持っていました。そして、その血統は後の「ジェミニ」に受け継がれました。
1968年に登場した「117クーペ」もまた、未だに多くのファンがいる名車のひとつです。
デザインは世界的にも有名なカーデザイナー、ジョルジット・ジウジアーロ氏が担当し、20世紀を代表する自動車デザインの秀作となっています。117クーペはやがて「ピアッツァ」へとDNAが受け継がれ、これもまた名車の仲間入りを果たしました。
1980年代は端から見ると、いすゞにとって黄金期に思えました。
TVCMではジェミニが画面のなかでダンスを踊る様子が連日流され、街には四輪駆動車ブームにのって「ビッグホーン」が溢れていました。
しかし、その陰でいすゞの乗用車市場での実績は低迷。原因は、価格を高く設定した少品種生産にあるといわれており、他メーカーに比べるとユーザーの選択肢が少ないことが弱みとなっていました。
また1993年からはビッグホーンや「ミュー」といった主力のオフロード4WD、SUV以外の車種は、他メーカーのOEMでまかなっておりそれがユーザーには新鮮に映らなかったのも要因かもしれません。
2002年にはいすゞは、乗用車部門から完全撤退。商用車に特化させた経営再建を図ることとなりました。
しかし、なぜいすゞは乗用車市場撤退という大英断を下したのでしょうか。改めて、いすゞ広報部に聞いてみました。
「当時は“集中と選択”という言葉を使っていましたが、企業力を強化するため、経営資源を得意とする商用車分野に集中させるためです」
筆者は当時、四輪駆動車媒体の仕事をしていましたが、都内にあるいすゞディーラーにおいて、次のような話を聞いたのを思い出します。
「ビッグホーンやミューがそこそこ売れているとはいえ、事業所がまとまって購入する商用車に比べれば利益率は格段の差。
しかし、販売店の整備工場を占有するのは乗用車も商用車も同じです。
商用車はプロユースですから、乗用車よりも整備や修理で入庫することが多く、しかも顧客はビジネスで使っているから長く待たせることはできません。
待たせると“乗用車なんて整備しないでトラックを優先しろ”と苦情も出ます。
やはり高額商品を買ってくれるトラックユーザーを優先という事情があるんです」
いすゞが乗用車から撤退して、すでに20年という歳月が流れましたが、未だにユーザーから乗用車復活待望論が絶えません。
その理由のひとつとなっているのが、同社がタイで販売しているピックアップトラック「D-MAX」の存在です。
D-MAXは2019年にフルモデルチェンジを果たし、3代目にスイッチ。日本ではモーターショー以外ではお目にかからないレアなモデルですが、そのスタイリッシュなデザインは、多くの自動車ファンから賞賛されています。
しかし、いすゞはあくまでも海外専売車と割り切っている様子。その理由についても、広報部に聞いてみました。
「積載率を重視する日本の商用車市場では、キャブオーバーや1BOXタイプのバンが主流。ピックアップトラックのニーズは、極めて限定的と捉えているからです」
つまり、日本では売れても市場が圧倒的に小さいということのようです。
加えて、もしD-MAXのような車種を販売するとなると、再び整備工場などをリノベーションする必要もでてきます。
そこまでしても採算が採れないというのが、メーカーの本音のようです。
一方でタイなどで支持されているのがD-MAXをベースにした3列SUV「MU-X」です。2022年5月25日に神奈川県横浜市で開催された「人とくるまのテクノロジー展 2022 YOKOHAMA」にて実車をお披露目しました。
この展示理由について、前出とは別の担当者は「日本ではトラックなどのイメージが強いですが、海外ではこのようなSUVも販売していますというアピールのために今回展示しました。日本導入などの予定はまったくないです」と話しています。
※ ※ ※
このように現在の日本市場ではトラックメーカーのイメージが定着しているいすゞですが、現在も過去に販売した小型乗用車の整備については、できるだけ対応しているといいます。
もはや絶滅寸前のいすゞ乗用車。かつて販売された「ビークロス」で見せた驚きのデザイン性を考えると、現代においても優れた乗用車を造ってくれそうな期待が膨らみます。
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