Ferrari 812 GTS × Portofino
フェラーリ 812 GTS × ポルトフィーノ
池沢早人師、21世紀の狼「アルピーヌ A110S」を駆る!【第2回:ロードインプレッション編】
豪快、そして爽快なオープンエア
電動リトラクタブル式ハードトップという装備を得て、爽快さと快適性を両立した812 GTS。フロントエンジン・フェラーリ12気筒オープンの正式登場は、あのデイトナ スパイダー以来となる。V8 FRオープンのポルトフィーノとともに、秋の風を楽しんでみよう。
「性能のほんの一部を味わうだけでフェラーリの世界に惹き込まれる」
2019年に発表された812 GTSは、812スーパーファストのオープンモデル。今回はポルトフィーノとともに、フェラーリのオープンモデルの魅力を探った。
V12フロントエンジンモデルの伝統的なプロポーションを踏襲しているエクステリアは、ルーフより後方が新たにデザインされ、そのサイドビューは流麗なファストバック。365GTB4(デイトナ)を想起させるこれはフェラーリ・スタイリング・センターの手によりデザインされ、サイズや室内スペース、快適性のいずれをも犠牲とすることなく、「スポーツ性とエレガンスを融合させた」としている。個人的には、オープンにした時はもちろんのこと、トップを閉めた姿も、ベルリネッタよりカッコ良いとさえ思えた。
「12気筒の咆哮、その声を聴いただけでちょっとゾクッとする」
ドアを開けると、スポーティではあるが、スーパースポーツカーが発する威圧感はなく、居心地の良い空間が現れる。ドライビングシートに収まると、まず、コクピットドリルから。これ、もはやフェラーリに試乗する時のお約束となっている。ギヤシフト、ウインカー、ワイパー、ライトなどが一般的なスイッチレイアウトと異なるものが多く、たまに乗る身としては走り出す前にひととおり確認しておく必要があるのだ。
スタートボタンを押すと、挨拶がわりと言わんばかりに軽く、12気筒の咆哮を放ち、その声を聴いただけでちょっとゾクッとする。走り出すと、街乗りの1000rpmプラスαの領域でさえ、12気筒自然吸気エンジンの極上の滑らかさに酔いしれ、一気にグイッとフェラーリの世界に魅き入れられた。クルマのパフォーマンスからしたらまだほんの数%なのに、何、このオーラの凄さ!!
「回転を上げれば存在感を見せるが、12気筒ならではのラグシュアリーなサウンド」
フェラーリといえばエンジン、と言っても過言ではないが、このV12エンジンにも自然吸気時代のF1エンジン由来の技術が投入されている。3500rpmで最大トルクの80%を発生し、パワーのためにトルク配分を犠牲にすることなく、低回転での柔軟性とピックアップ双方をバランスすべく改善されている。なので、街乗りレベルの回転域でもレスポンス良く扱いやすい。スポーツモードを選び、マニュアルモードで乗っていると、だいたいどのギヤでも1500rpmから1800rpmの間でシフトアップを促す「←」サインが出る。そして1000rpmを切るところまで粘り、自動的にギヤがダウンされる。50km/hだと7速1200rpmで、高速を100km/h巡行しても7速2200rpm。到底、本領発揮の域ではないが、ごくごく普通に乗っていても上質な味わいを堪能することはできる。
公道では高回転、高出力域のパフォーマンスを体感するチャンスはない。ETCゲートからの加速で瞬間的に5000rpmくらいまで回すのが精一杯だったが、久しぶりに自然吸気12気筒の気持ちよさを味わえた。この贅沢な味わいはやはり独特な存在だ。自然吸気時代にF1を見に行き、フェラーリの奏でるサウンドに鳥肌が立ったのを思い出した。とはいえ、普通に乗っていると812 GTSのエンジンサウンドはどちらかといえば控えめだ。回転を上げれば存在感を見せるが、これもまた12気筒ならではのラグシュアリーなサウンドである。
「クローズドでもオープンでも剛性感や快適性のレベルは非常に高い」
そう、812 GTSは、サウンドだけでなく、乗り味が全体的にラグジュアリーなのだ。最初の試乗時は雨だった。一般道とはいえ、雨の中を12気筒、800psで走るのはちょっと・・・と思っていたのだが、走り始めるとそんな不安を感じさせる気配すらなかった。WETモードで走り始めたが、SPORTもRACEモードも、ジェントルさを損なうことはなかった。例えば高速道路のコーナーの路面の継ぎ目をまたいだ時でさえ、イヤな動きはない。
雨の中をドライブしながら、かつて、当時のF1ドライバーに「雨の日には絶対に乗りたくない」と言わしめたF40を思い出した。もちろん、時代も系譜もまったく異なるのだが、かつてないほどリラックスしてクルージングでき、そしてラグジュアリーな気分にさせるフェラーリに乗って、対極的な存在と言えるF40をふと思い出したのだろう。もちろん812 GTSも退屈じゃない。と同時に、リトラクタブルルーフの秀逸さも実感した。クローズドでの剛性感や静粛性にも違和感なく、オープンモデルであることを感じさせない。
「風の巻き込みや音に煩わされることなくオープンエアを楽しめた」
日本では気象環境も厳しいし「いつもオープンで」というオーナーばかりではないだろうから、クローズド時の性能は大事だ。なお電動リヤスクリーンを下げると、エキゾーストサウンドをダイレクトに聴くことができる。オープン時の“風よけ”だけでなく、クローズド時の粋な計らいにもひと役買う装備だ。
雨上がりにオープンにしてみると、エンジンや乗り心地、剛性感などの印象はクローズド時と変わらない。ただ、よりラグジュアリーなサウンドを味わえ、風が気持ち良い。スーパーファストと同じ性能を維持しつつオープン時の快適性を高めるべく、エアロダイナミクスが見直されただけあり、安定した走りの中、風の巻き込みや音に煩わされることなくオープンエアを楽しめた。
「魅力がわかりやすいポルトフィーノと、大人のオーラをもつ812 GTS」
812 GTSの後にポルトフィーノに乗ると、いろんな意味で“カジュアル”さを感じる。エンジンをかけた瞬間の咆哮に始まり、こちらは常にフェラーリサウンドを聴かせる設定のようだ。アクセルを開けるたび甲高いサウンドを奏で、アクセルを戻せばパンパンと賑やかだ。ブレーキのタッチも軽めで、ステアリングの操舵力も軽い。サーキットに持ち込んで走る、というよりはもう少し肩の力を抜いて日常的に楽しめるクルマになっている。フェラーリ初心者にも、パフォーマンスと官能のバランス、その魅力がわかりやすいモデルといえよう。
一方、812 GTSは、フラッグシップモデルにふさわしい落ち着きのある雰囲気と、萎縮させるような圧ではないが、オーラのある大人のフェラーリ。いろんな意味で味わったことのない世界観だ。
V12フロントエンジンのオープンモデルがラインナップに加わるのは実に50年ぶりだという。フェラーリにもハイブリッドが出たりする世の中だが、フェラーリの自然吸気12気筒エンジンは、芸術作品ともいうべき存在であり、後世に残して欲しいと心より願う。
REPORT/佐藤久実(Kumi SATO)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
【SPECIFICATIONS】
フェラーリ812GTS
ボディスペック:全長4693 全幅1971 全高1278mm
ホイールベース:2720mm
車両乾燥重量:1645kg
エンジンタイプ:V型12気筒DOHC
総排気量:6496cc
最高出力:588kW(800ps)/8500rpm
最大トルク:718Nm(73.2kgm)/8000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ダブルウイッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前275/35ZR20 後315/35ZR20
最高速度:340km/h
0-100km/h加速:3.0秒
車両本体価格:4508万円
フェラーリ ポルトフィーノ
ボディスペック:全長4586 全幅1938 全高1318mm
ホイールベース:2670mm
車両乾燥重量:1545kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3855cc
最高出力:441kW(600ps)/7500rpm
最大トルク:760Nm(77.5kgm)/3000-5250rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウイッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤ&ホイール:前245/35ZR20 後285/35ZR20
最高速度:320km/h
0-100km/h加速:3.5秒
車両本体価格:2631万円
【オフィシャルサイト】
・フェラーリ・ジャパン
http://www.ferrari.com/ja_jp/
【車両協力(ポルトフィーノ)】
ロッソスクーデリア
TEL 03-3791-0599
・ロッソスクーデリア 公式サイト
https://tokyo-rossoscuderia.ferraridealers.com/ja_jp/
【掲載雑誌】
・GENROQ 2020年12月号
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