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イタリア仕立てのシトロエンDS ボサートGT 19 フルア・デザインの希少クーペ 後編

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イタリア仕立てのシトロエンDS ボサートGT 19 フルア・デザインの希少クーペ 後編

ピエトロ・フルア氏へ託した短縮版DS

当初からシトロエンは、優秀なロードホールディング性能を活かせるだけの、パワフルなエンジンをDSに搭載してこなかった。ボサートGT 19では車重が多少削られていても、その本質は変わらない。

【画像】シトロエンDSのクーペ ボサートGT 19とグラン・パレ 派生ブランド DSのサルーンも 全82枚

1960年代、アマチュアレーサーだったアンリ・ジェリー氏も、このエンジンには不満を抱いていたのだろう。自身もラリードライバーだったヘクター・ボサート氏が用意したシトロエンで、彼はフランス北部の競技へ頻繁に参戦していた。

ボサートはエンジニアとしても優秀で、レーシングカーの準備やエンジン・チューニングで評価を集めていた。ヘクターの孫に当たるフレデリック・ボサートが、当時を回想する。

「祖父は知人のジェリーに、そんなクルマでは勝ち目がないと話していました。長く、重すぎるとね。短くした方が良いと提案していました」

シトロエンDSを短くするというアイデアは、2人以外にも思いついていた。1959年にはフランスでシトロエン・ディーラーを営んでいたリクー一家も、550mm短くしたDSを販売していた。見た目は、少々不格好だったが。

ジェリーとボサートは短縮版DSの製作を、イタリアでカロッツェリアを営んでいた、デザイナーのピエトロ・フルア氏へ託した。「祖父はフルアとの交流はなく、ジェリーを通じてだったのかもしれません」

「1960年代、クルマのボディを仕上げる技術では、イタリアに勝る場所はありませんでしたから」

エンジンのチューニング・オプションも準備

フルアは素晴らしいサイドビューを描き出し、程なくして最初のプロトタイプが完成。その頃にはジェリーの特別な1台のDSから、GT 19という名の少量生産モデルへ、プロジェクトは進展していたようだ。

美しいスタイリングに、2人が魅了されたからかもしれない。コーチビルドに掛かった費用を回収するためだったかもしれない。経緯は、はっきりしていない。

ジェリーとボサートは協力し、フランス北部のメトレンという町でジェテ社というボディショップを設立。ボサートというブランド名を冠した、GT 19を生産し始めた。

「ボディ後半がフルア社で製作され、ほぼ組み上がった状態で祖父の工場へ届きました。顧客からDSが持ち込まれると、特別な道具でボディを切断するんです。トランクリッドも成形していました」

メカニズムに関しては、依頼主の希望に合わせて選択肢が用意されていた。1974年の資料によると、エンジンのチューニング・オプションも準備されていたらしい。

51mmのロールス・ロイス用や、44mmのツインSU、42mmのツイン・ウェーバーなど、キャブレターだけでも3種類。アグレッシブなカムシャフトやバルブ、シリンダーの圧縮比も指定できた。

「祖父は、DS用エンジンから140psを絞り出していました」。甘く見積もられた数字に思えるが、短いクーペボディのシトロエンに対し、それに見合う動力性能を欲した人は少なくなかった。静止状態から、最短37秒で1kmを走り切ることが可能だったという。

1960年から1964年に13台を製造

2人はGT 19の仕上がりに満足し、1960年10月のモントレー自動車ショーで発表。翌年のパリ自動車ショーでは、DSとIDをベースにした2台を展示している。

「DSを購入して、GT 19へコンバージョンするのに必要だった費用は、当時のジャガー以上だったと記憶しています」。とフレデリックが説明する。軽快な走りと、大きな荷室による実用性をPRしたが、販売は簡単ではなかった。

ジェリーとボサートは、シトロエンから正式にボディ改造の許可を15台ぶん得ていた。だが、エンジンに関しては約束を取り付けていなかった。

「シトロエンの担当者は、祖父がシリンダーヘッドなどの部品も注文していることに気が付きました。エンジンも改造していると知り、保証について話が及んだようです。祖父は交渉に耐えきれず、シトロエンとは破談に」

「部品はフランスで入手できなくなったものの、隣国のベルギーから購入していました。しかし、11台目を作った辺りで、祖父は自分で面倒なことを巻き起こしていると考えたようです」

「経済的には充分な状態にあり、ジェテ社を閉めると決断しました。メカニックの仕事にはやりがいを感じていて、1977年までワークショップは続けていますが」

1960年から1964年に製造されたボサートGT 19は合計13台。そこには、ヘッドライトにカバーの付いたコンバーチブルも含まれている。また、1966年にもフルア社からの部品を利用して2台が作られているが、オリジナルほど美しくはなかった。

最もイタリアンなシトロエンDSのクーペ

フロントガラスやホイール、エンブレム、ボディサイドのトリム、燃料キャップなど、GT 19はそれぞれ微妙に異なる。だが惜しくも、限界領域での操縦特性がトリッキーだったこともあり、多くがクラッシュで失われている。

現在生き残っているのは、今回ご登場願ったクーペと、最後に作られたコンバーチブルの2台のみ。クーペの方は9番目に作られたGT 19で、フランスの不動産業者、ラ・ガレンヌ社が1963年10月21日に購入している。

「その後、有名なシトロエン・コレクターであるデニス・ジョアノンさんが所有していました」。と説明するのは、現オーナーのクリストフ・パンド氏。

「1994年に彼を尋ねると、美しいクーペが目に留まったんですよ。フランス北部に住んでいたので、ボサートには以前から興味を持っていました。彼は、1982年にパリで発見したと話していました」

「わたしの手元へやってきたのは、2021年の11月。DSのクーペは少量ながら数社が手掛けていますが、GT 19は最もイタリアンな仕上がりだと思います。フロント半分はフラミニオ・ベルトーニ、リア半分はピエトロ・フルアのデザインなんですから」

このクルマを完璧なものにするなら、やはりボサートがチューニングした4気筒が欲しいところ。ショート・シャシーに140psのエンジンが載れば、1960年代のグランドツアラーとして不足ない能力を獲得することだろう。

シトロエンは、1955年のDSではクーペを作らなかった。だが1970年のSMで、この素晴らしいアイデアを取り入れたのだった。

協力:クリストフ・パンド氏、パトリック・ボサート氏、フレデリック・ボサート氏、レ・ギャレリ・デ・デミエース社

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