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『ニッサン・ハイパーフォース』GT500で培った空力技術を最大出力1000kWのEVコンセプトカーに/世良耕太が選ぶ一台

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『ニッサン・ハイパーフォース』GT500で培った空力技術を最大出力1000kWのEVコンセプトカーに/世良耕太が選ぶ一台

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太がジャパンモビリティショー2023の会場で目をつけたのは、ニッサンとNISMOが共同開発した『Hyper Fource(ハイパーフォース)』。“ガチ”で空力開発をしている面白さを感じた究極のハイパフォーマンスEVコンセプトカー、『ハイパーフォース』を深掘りする。

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EVランクルや次期型スイフト、市販化を見据えたコンセプトも見所/ジャパンモビリティショー

 10月25日のプレスデー初日に見逃したので、26日の朝イチに東京ビッグサイト東展示棟4ホールに向かった。お目当ては前日に初公開された『ニッサンHyper Force(ハイパーフォース)』である。ジャパンモビリティショー2023の目玉展示らしく、センターステージでぐるぐる回っている(右回りなので、BGMはDead Or AliveのYou Spin Me Roundでぜひ)。

 ブースに到着したところで、知った顔に会った。NISMO(日産モータースポーツ&カスタマイズ)でGT500車両の空力開発責任者を務める山本義隆さん(車両開発部 第一開発グループ 主管)である。スーツの胸に「説明員」のバッジをつけている。

「このクルマは、スタイリングがまずあります。そのうえで空力的に誰が見てもおかしくないように修正した部分があります。どの量産車でもそうですが、空力性能とスタイリングはせめぎ合い。このクルマの場合はスタイリングに軸足が乗っていますが、空力もきちんと考えています」

 現金なもので、そう聞くと俄然興味が湧いてくる。開発責任者の成田剛史(日産自動車 商品企画本部 商品企画部 スペシャリスト GT-R/Z)は、「山本さんと共同開発しました」と、最大出力1000kWのEVコンセプトカーについて説明する。

「車体に鍛造カーボンを使って軽量化し、コーナーのスピードをどれだけ速くするかをコンセプトに開発しました。ダウンフォースを使って車体を路面にどれだけ強く押し付けるかがテーマで、そこをニスモの山本さんと共同開発させていただきました。とにかく、空気の流れにこだわっています」

 スタイリングデザインはマーカス・クァチさん(Marcus Quach、日産自動車 グローバルデザイン本部 第二プロダクトデザイン部 デザインマネージャー)が手がけた。

「サイドウインドウのグラフィックや、リヤの4灯テールランプなど、R35 GT-Rをモチーフにしているように見えますが」と水を向けると、「特定のクルマではなく、ニッサンの歴代スポーツカーのイメージを受け継いでいます。元々のインスピレーションはファイタージェット(ジェット戦闘機)です」との答えが返ってきた。

 山本さんから詳しく伺った空力アイテムについて見ていこう。フロントグリルの中央にモザイク状に明滅するバッジは「GT-R」を表しているようにも見えるし、光り方によってはスーパーマリオにも見える。

 それはさておき、下段の口は熱交換器に向かう冷却風を取り込むインレット。バッジがある上段はウインドシールドに向けて素通しになっている。「上段の流れのほうがパワフルなので、下の流れを引き出しつつダウンフォースを得、同時に冷却性能を高める」構造だ。

 菱餅のような形状のヘッドライト左右にもダクトが設けられており、外側のダクトを通る空気はドア前にあるスリットから抜ける構造。このスリットはデザイナーと協議の末、空力性能を高めるために当初案よりも太くなったそう。ヘッドライト内側のダクトはAピラーの根元に抜ける構造だ。

 フロントバンパーのコーナー部には格納式の3連カナードが設けられている。フロントフェンダー上には4連のフリップ。リヤウイングのスワンネックステー外側はソフトカーボンを使った可変式となっており、コーナリング中に浮き勝手になる内輪側だけ稼動してダウンフォースを高める方向で機能する。
 
 リヤウイングのガーニーフラップ部がスワンネックステーの後方だけギザギザ状になっているのは、変形するフラップの“逃げ”を作るため。全体をギザギザ状にする案もあったそうだが、「部分的にギザギザ状にしたほうがオシャレじゃない?」という山本案が採用された格好だ。

 ドア下部のサイドシル部は折り板状になっており、フロア~ディフューザーに向けて空気を取り込む考え。サイドウインドウの後端にはスリットが設けられており、ここから取り込んだ空気はテールランプの間、NISSANロゴの上にあるスリットから排出される。ここから高速の空気を流すことで、リヤデッキを延長したのと同じ効果が得られ、ドラッグ(空気抵抗)を削減する効果が生まれる。

 山本さんは「13GT(2013年のNISSAN GT-R GT500)も同じことやっていたんですよ」と教えてくれた。確かに、当時のGT-Rの写真を見ると、リヤデッキの後端にスリットが開いている。ハイパーフォースのスリットは、その引用だ。

 巨大なディフューザーの外側はニッサンが特許を持つ二段構造になっているのが特徴。特許といえば、ボディの四隅に仕込んだプラズマアクチュエーターも日産独自の技術で、コーナリング中は外側だけ稼動させて空気の剥離を抑え、ドラッグの低減を図る。

 細かなところではフロントのホイールカバーがベンチレーテッドディスクのように中心から外側に向けてスリットが入った形状をしており、ダウンフォースを増やす狙い。リヤのホイールカバーはソリッドな形状で、こちらはドラッグ低減狙いだ。

 『ニッサン・ハイパーフォース』はニスモがSUPER GT GT500クラスで培ってきた空力技術と、日産の最先端の空力技術が組み合わさったEVコンセプトカーといえる。形にそれぞれ意味があることがわかると、観察する目にも力が入るというものだ。

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