TOYOTA GAZOO Racing(TGR)とハースF1は10月11日、車両開発と人材交流において協力関係を結ぶことに合意し、基本合意書を締結した。本稿ではこれまでのトヨタのF1での歩みを振り返る。
トヨタF1の歴史は1999年、当時トヨタ自動車の社長を務めていた奥田碩氏が記者発表の場でF1参戦を表明したことに始まる。日本の巨大企業によるF1参入はそれだけでも大きな話題となったが、トヨタは既存のチームを買収せず、子会社のトヨタ・モータースポーツGmbH(TMG/現:トヨタ・ガズー・レーシング・ヨーロッパ)にてシャシー、エンジンを開発・製造するフルワークス体制という道を選択したことでも注目された。
トヨタ/GR、ハースF1と車両開発、ドライバーやエンジニアの人材交流の協力関係で合意
なお、TMGはそれまでWRC世界ラリー選手権、ル・マン24時間レースへの参戦拠点だった。F1参戦へ向けて人材、設備の増強が行われ、2001年には約19カ月をかけて開発したテストカーである『TF101』をロールアウト。ミカ・サロとアラン・マクニッシュがポール・リカールをはじめとするヨーロッパ各地の11のサーキットで約8カ月間、累計20,967キロを走り込み、実戦に向けた準備を整えた。
そしてトヨタは2002年シーズンよりF1に参戦を開始。2001年のテスト段階から日本の家電メーカーのパナソニックがタイトルパートナーを務め、F1参戦の際のエントリーチーム名は『パナソニック・トヨタ・レーシング』となった。なお、このチーム名称は2009年のF1撤退まで使用された。
2002年F1第1戦オーストラリアGPではサロが6位に入り、デビュー戦でポイントを獲得。サロは続く第3戦ブラジルGPでも6位に入ったが、トヨタF1にとってのデビューイヤーの入賞はこの2回に留まり、コンストラクターズ10位。シーズン途中に撤退したアロウズを除けば最下位という結果だった。
参戦2年目となる2003年は、ベテランのオリビエ・パニス、2002年のチャンプカーでトヨタエンジンとともにチャンピオンを獲得したクリスチアーノ・ダ・マッタというドライバーラインアップへ一新。この年はパニスとダ・マッタの両名が予選で3番手を獲得したほか、計7回の入賞を果たし、既存チームのジョーダン、ミナルディを上回るコンストラクターズ8位に浮上する。なお、ダ・マッタはルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した。
2004年はドライバーラインアップを継続する一方で、マイク・ガスコインがシャシー担当のテクニカルディレクターに就任するなど、技術面での人員補強も行われた。そんななかでダ・マッタが第12戦ドイツGPを最後にチームを離れることになり、サードドライバーのリカルド・ゾンタが代役としてレギュラードライバーに昇格する。
また、同年の第6戦モナコGPウイナーであるヤルノ・トゥルーリがシーズン途中にルノーを離脱し、終盤2戦からトヨタのステアリングを握った。なお、第17戦日本GPでパニスがレギュラードライバーを引退したことで、最終戦/第18戦ブラジルGPではトゥルーリとブラジル出身のゾンタが出走した。
ドライバーの変更も続いた2004年シーズンは、シーズン中盤に改良型の『TF104B』投入後、開発を凍結し2005年型マシン『TF105』の開発に注力する選択をとったことで、前年と同じくコンストラクターズ8位という結果に終わった。ただ、この選択が翌2005年の飛躍に繋がる。
2005年はトゥルーリに加えてウイリアムズから移籍してきたラルフ・シューマッハーというラインアップに。前年の早い段階から開発リソースが割かれた『TF105』はレギュレーション改定に早い段階から適応し、第2戦マレーシアGPでチーム初表彰台となる2位をトゥルーリが掴むと、2名のドライバーで表彰台5回、ポールポジション1回。ルノー、マクラーレン、フェラーリに続くコンストラクターズ4位という結果でシーズンを終えた。
2位が2回、3位が3回という結果だけに、残すは勝利のみという期待が募る状況となったが、この2005年のコンストラクターズ4位という結果が、トヨタF1のベストリザルトになってしまう。
V10からV8へとエンジン規則も変わった2006年、トヨタF1は初めてタイヤメーカーをミシュランからブリヂストンへと変更した。そんななか、2006年型の『TF106』には前年型が見せたパフォーマンスがなく、シーズン序盤の4月にはテクニカルディレクターのガスコインが解任される。第7戦モナコGPから改良型の『TF106B』を投入するが、それでも前年の好走の再現には至らず、コンストラクターズ6位とポジションを落とす結果に。
続く2007年も困難は続き、同年は表彰台にすら上がるチャンスがなかった。コンストラクターズ6位というポジションは前年と同じだが、獲得ポイントは35点から13点へと下がっており、その苦戦ぶりが伺える。
一方で、トヨタによる日本人F1ドライバー育成の動きは活発な動きを見せ、2007年よりトヨタエンジンの供給を受けるウイリアムズF1のサードドライバーとして中嶋一貴(現TGR-E副会長)が加入。同年はGP2(現FIA F2)を主戦場としていた中嶋だったが、アレックス・ブルツの引退に伴い最終戦ブラジルGPでF1デビューを飾ると、2009年シーズンまでウイリアムズのレギュラードライバーを務めた。
また、2007年と2008年にはトヨタ自動車の傘下に入った富士スピードウェイでのF1日本GP開催が実現している。
2008年シーズンはラルフに代わりGP2王者のティモ・グロックが加入。また、サードドライバーには小林可夢偉が起用された。この年のマシン『TF108』は安定してポイントを重ねられるポテンシャルを持っており、グロックが2位1回、トゥルーリが3位1回と、表彰台に舞い戻ることも叶い、コンストラクターズ5位という結果を手にした。
車両レギュレーションの大幅変更が行われた翌2009年。開幕前の冬季テストから好走を見せた『TF109』はシーズン序盤から速さを見せ、開幕から4戦でトゥルーリが2回、グロックが1回3位表彰台を獲得。そして第4戦バーレーンGPの予選ではトヨタの2台が予選でフロントロウを独占した。シーズン終盤も表彰台に上がる走りを見せるなか、第15戦日本GPの予選でグロックが負傷し、第16戦ブラジルGP、第17戦アブダビGPには可夢偉が代役としてトヨタF1のステアリングを握った。
可夢偉はウイリアムズF1の中嶋と好バトルを展開したほか、アブダビGPでは6位に入りF1初入賞を果たした。2009年もトヨタF1は勝利がなく、コンストラクターズも5位と変わらない成績ではあったが、2007年前後の大苦戦からの復調、そして可夢偉の見せた快走ぶりもあり、翌年へ向けた期待が募るシーズン終幕を迎えた。
しかし、2009年シーズン終了直後の2009年11月4日、世界金融危機に伴う経済状況の悪化を理由にトヨタはF1撤退を発表し、トヨタF1にとって“第1期”と表せる最初のF1挑戦は、8シーズン、140戦で幕を閉じた。
とはいえ、トヨタはTMGの設備を手放すことはなかった。2010年型マシンとなるはずだった『TF110』の開発がかなり進んでいたこともあり、撤退発表後もセルビアを拠点とするF1プロジェクト『ステファンGP』や、2010年からF1に参戦を開始した『HRT』との提携などの話も浮上したが、いずれも実現せずに終わった。ただ、それでもトヨタとF1の関係が完全に切れたわけではなかった。
2011年からF1のタイヤサプライヤーとなるピレリがタイヤテストを行う際に、2009年型『TF109』をベースとしたタイヤテスト車両が使用された。TMGが車両の運用面を担当したほか、フェラーリ、マクラーレン(2023年途中まで)をはじめとする現役のF1コンストラクターがTMG/TGR-Eの風洞を活用しマシン、パーツ開発を行うなど、2009年シーズン末のトヨタF1第1期終了以降、陰ながらもトヨタはF1と関わりを持ち続けていた。
そうして迎えた2024年10月11日、トヨタ/TGRはハースF1と車両開発分野などにおいて協力関係を結ぶことに合意した。「人材育成を通じてモータースポーツ・自動車産業へ貢献したい」という想いをともに抱くトヨタとハースF1。両者の新たな歩みがどのように実を結ぶのか。その行く末に注目が集まる。
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