ボディサイズを縮小しながら空間は拡大
3サイズは全長4660mm、全幅1840mm、全高1720mm。骨太でタフな印象のスタイリングもあって、従来モデル以上に大きく立派に見える。意外にも、全幅+20mm以外は、全長−30mm、全高−20mmと、決して大きくなっていないのだ。今や外資系メーカーでもある日産は、日本市場においては良くも悪くも“選択と集中”がハッキリしている。軽自動車やコンパクトカー、ミニバンなど、日本での量販が見込まれる商品はきっちりと日本専用に開発するいっぽうで、グローバルモデルは地元だからといって日本市場がひいきされることはない(笑)。
日産エクストレイル 街乗りでe-4ORCEは必要? 実燃費はどう?
ステッチ入りソフトパッドに木目調パネルほか、室内の上質感は相当なもの。メーターとセンターモニターに大型液晶を採用するのはノートオーラも同様だが、2モニターを連結したノートオーラと違い、こちらはオーソドックスな独立配置を採用。エクストレイルは北米や中国をはじめ、中東、欧州、そして日本でも販売されており、日産でも随一のグローバル商品である。日本でもファンが多い人気商品だが、新型の日本導入は、最大市場のアメリカ(現地名はローグ)から約2年、中国からも1年以上遅かった。市場規模をクールに判断したマーティングは、いかにも日産らしい。もっとも、日本導入が遅くなった表向きの理由は「e-POWERの開発に時間を費やしたから」というもので、同じくe-POWERのみの設定となる欧州市場と同時期のデビューとなった。
コンソールはヘアライン仕上げ。e-POWERでは定番の電子式シフトセレクターを採用する。モードセレクターは、センターが標準の「AUTO」。右に回すと「ECO」「SPORT」、左はオフロードに適した「SNOW」「OFF-ROAD」を配置する。エクストレイルが属するDセグメントSUVは、世界的にもっとも競争が厳しい市場だ。そして、2000年に初代が発売されたエクストレイルは当時どん底だった日産の経営をV字回復させた立て役者でもあり、絶対に失敗の許されない基幹車種である。それゆえに、今回もいかにも力作なオーラがただよう。
タッチパネル式の12.3インチセンター大型ディスプレイ。見やすい横長大画面で、全面ナビはもちろん、写真のように右側ナビ、左側オーディオ表示などにも対応する。近年の日産車ではお馴染みの12.3インチ大型フル液晶メーター。写真の「クラシック」表示でも、センター部にナビゲーションなどを表示できるが、「エンハンス」を選べば、センターの表示部分を拡大できる。すでに世界中で定番の地位を築いているクルマなので、ボディサイズは全幅以外はわずかに縮小しながらも、後席や荷室の空間はうまく拡大している。質感も素直に高い。塗装品質は高く、グリルの仕上げも精緻で繊細だ。今回の試乗車は最上級にして4WDの「G e-4ORCE」で、ダッシュボードがレザー張りなのはこのクラスではいくつか例があるが、右端エアコンアウトレット周辺の小さなパネルにまでステッチとレザーがあしらわれる手の込んだ仕立で、このセグメントとしては内装の質感はマツダと双璧といいたい。
3気筒とは思えない静かさ
エクストレイルにもついにe-POWERを搭載。発電を担う3気筒1.5Lエンジンは、世界初の可変圧縮比ターボを採用する。駆動を担当するのは、4WDの場合フロント204ps、リヤ136psのモーター。パワートレーンは日産得意のe-POWERで、日産が世界で初めて実用化した可変圧縮比(VC)ターボの1.5リッターエンジンが発電に徹して、前後のモーターで駆動する。内部では複雑なリンク機構で負荷と回転数に応じて圧縮比を変化させているのだが、以前に純粋なVCターボエンジン車に乗ったときも、実際の走行感覚にギクシャクしたカラクリ感は皆だった。低負荷では高圧縮+低過給圧で効率よく、高負荷になると低圧縮+高過給圧でパワフルに発電するVCターボはシリーズハイブリッドとの相性もいいという。
後席空間は、リヤシートスライド機構もあって非常に広い印象だ。競合車の中でもかなりアドバンテージになりそう。Gグレードは「テーラーフィット」トリムを標準装備。オプションのナッパレザーを選ぶと、写真のタン内装で室内が統一される。それにしても、1.5リッター3気筒とは思えない静かさだ。ロードノイズが小さい速度域では極力エンジンを止めるなどの工夫はノートにも共通するものだが、エンジンがフル稼働するような場面でも、エンジン音は遠くからかすかに聞こえるにすぎない。つまり絶対的な静粛性が高く、音質もあまり3気筒らしくないので、なおさら静かに感じられる。アクセルを荒っぽく扱っても、無粋なショックなどを出さないのは、純粋な電気自動車も含めた電動パワートレーンの経験が深い日産ならでは……である。
リヤシートのスライド量は実に260mm。最後端なら足元空間は広大だし、キャンプなどで荷室モストで使いたいときは必要な位置までシート位置を変えて荷室容量を拡大できる。リヤドアが非常に大きく開くのも新型エクストレイルの特徴だ。リヤモーターのスペックは136PS/195Nm。数値だけなら2.0リッターエンジンを思わせる強力なものだが、フロントモーターはさらに強力な204PS/330Nmをうたう。場合によっては最大30:70というリヤ優勢トルク配分になることもあるが、今回のような舗装路だと基本的に安定感の高いフロント優勢配分で走るという。いかに振り回そうとしても、三菱アウトランダーPHEVみたいにリヤからグリグリと曲がっていくような挙動にならない。
ラゲッジルームは、広くスクエアで使いやすい空間。倒したリヤシートはほぼフラットで、写真の通り非常に大きなスペースを作り出せる。今回は埼玉県長瀞周辺の高速道とせまい山道とで1時間弱……という限られた試乗だったので、あまり断定的なことはいえないが、スムーズでパワフルなパワートレーンに加えて、ボディ剛性感もすこぶる高く、ステアリングも堅牢で正確だった。つまりは日産主導で開発されてルノーや三菱も使うCMF-C/Dプラットフォームの素性のよさがうかがえた。
上級Gグレードは写真の19インチ(235/55R19)を履く。タイヤ銘柄はハンコック。S、Xグレードは、235/60R18サイズのファルケンを採用。AUTECHは専用20インチのミシュラン プライマシー4、サイズは255/45R20だ。あえて気にになったところをいえば、今回の19インチタイヤの場合、細かい不整路では予想外に強く揺すられて、ステアリングの利きも少しばかり鋭く強力すぎる感があったことだ。今回は試乗できなかったものの、開発陣の話もうかがったうえで予想だと、「X」以下のグレードが履く18インチのほうが、乗り心地はよりまろやかに、ステアリングレスポンスは穏やかになるようだ。
高級感が増した新型エクストレイルには、個人的には18インチのほうが合っている気もする。ちなみに、タイヤ銘柄は各サイズごとに決まっており、19インチがハンコック、18インチがファルケン、「AUTECH」専用の20インチがミシュランである。
というわけで、乗り心地ではグレード選びにちょっと迷うところはあるものの、新型エクストレイルはさすが渾身の力作らしい完成度である。とくにこのセグメントに高級感や静粛性をお望みなら、現時点では国産の筆頭候補だと思う。
日産 エクストレイル G e-4ORCE全長×全幅×全高 4660mm×1840mm×1720mmホイールベース 2705mm最小回転半径 5.4m車両重量 1880kg駆動方式 四輪駆動サスペンション F:ストラット R:マルチリンクタイヤ 235/55R19エンジンタイプ 水冷直列3気筒DOHC エンジン型式 KR15DDT総排気量 1497cc最高出力 106kW(144ps)/4400-5000rpm最大トルク 250Nm(25.5kgm)/2400-4000rpmフロントモーター BM46最高出力 150kW(204ps)/4501-7422rpm最大トルク 330Nm(33.7kgm)/0-3505rpmリヤモーター MM48最高出力 100kW(136ps)/4897-9504rpm最大トルク 195Nm(19.9kgm)/0-4897rpm燃費消費率(WLTC) 18.4km/l価格 4,499,000円
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