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【三浦愛の突撃ドライビング取材/第7回 前編】チャンピオン野尻智紀選手に聞く、ドライビング以外で速さを引き出す秘訣

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【三浦愛の突撃ドライビング取材/第7回 前編】チャンピオン野尻智紀選手に聞く、ドライビング以外で速さを引き出す秘訣

 2021年もスーパーフォーミュラのピットリポーターを務めるほか、レーシングドライバーとしてスーパー耐久をはじめとしたさまざまなカテゴリーに参戦中の三浦愛さん。今シーズン、オートスポーツwebでは、三浦さんの目線で気になるスーパーフォーミュラドライバーに突撃取材を敢行し、同じドライバー目線で気になることをぐいぐい質問していく企画『三浦愛の突撃ドライビング取材』を不定期でお届けしております。

 第7回目の取材ターゲットはTEAM MUGENの野尻智紀選手。満を持して、2021年のシリーズチャンピオンに突撃取材です! スーパーフォーミュラ以外にもスーパーGTにフル参戦し、第6戦オートポリス、第7戦もてぎと2連勝をマークするなど、今シーズンは速さだけでなく強さも備わっている印象があります。そんな野尻選手に、三浦さんが聞きたいこととは?

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「一番質問してみたいのは体格のことですね。ドライビングのこととは違いますけど、決して大きくはない身体で、どういう考え方でクルマを操っているのかを聞いてみたいです。やっぱり外から見ると、トレーニングを積んで体格が大きい人の方が、操りやすそうに思われがちですけど、私は身体の使い方が重要なのではないかなと思っています。実際にそれを野尻選手が証明しているから、そこの考え方を聞きたいです。あとは雨のときの走り方について聞こうと思っています。野尻選手はカートっぽい走りをフォーミュラでもしている印象なので、そこに何か理由があるのかなということを聞こうと思っています」

 それでは、三浦愛さんと野尻智紀選手のドライバーズトークをお楽しみください!

* * * * * * * * *

三浦:まずはシリーズタイトル獲得おめでとうございます!

野尻:ありがとうございます。

三浦:少し時間が経ちましたが、実感というか、心境はいかがですか?

野尻:どうでしょう、毎週レースですからね。ホッとした……という気分になかなか持っていけないところがありますけど、逆に、こういうときに気を抜いて足元をすくわれたりもするでしょうから。たまたまスケジュール的に気を抜けない状況になっているので、これも『気を抜かずに、ちゃんとやりなさいよ!』というふうに受け止めてやっています」

三浦:今回はドライビングに関していろいろと教えていただきたいなと思うのですけど……野尻選手って、カートの頃からずっと速いイメージがあって、それが今年結果として表れたと思うのですけど、速さを持ち合わせていたなかで、今年こうして結果に結びつけられた要因は、なにが大きかったと思いますか?

野尻:そうですね。個人的には、予選で前に行くけど、決勝でズルズルと落ちてしまうというのが悩みではありました。それは側から見たらすごく見栄えが悪くて、精神面とかが悪い方向に捉えられがちです。

 精神面が原因なときもありますけど、クルマ側でなぜ予選に合っているのか? それに対して、僕自身の走らせ方が予選だけに合ってしまっているのではないか? といろいろと考えて……。走り方を変えればセットアップも当然変わってくるというところもあって、ここ最近は決勝でどういうクルマにしていけば良いか? というのが、ある程度わかりつつあるのかなという気はしています。

三浦:なるほど……。けっこう、ご自身でも『僕、ビビリなので……』という話も以前されていましたが、気持ち的にもちろんいけないときもあると思うし、クルマ側で問題があるときもあると思います。タイムを見て周りより劣っているときとか、チームメイトと比べて車速が遅れているときとか……特に私の場合は、高速コーナーで車速が足りなかったりするのですけど、そこを上げていこうとしたときの組み立て方とか、なにかありますか?

野尻:僕も、鈴鹿だったら、デグナーひとつ目が苦手なのですよね。どうしてもスピードを落としてしまうし、自分がかなり頑張って上手くいったとしても、ようやく(周りと比べて)並みか、並みの少し上くらい。このスーパーフォーミュラのなかで言ったら、多分下から数えた方が早いかなというくらいのデグナーひとつ目です。

三浦:そうなのですね!

野尻:そういったところは、どういう癖を持っているかという判断をしています。例えば、体が硬くなってブレーキを踏みすぎてしまうのだったら、ブレーキをなるべく踏まないようにとか、早めに(ブレーキを)離してあげるという意識を持つようにしています。

 あとは、富士スピードウェイのコカ・コーラコーナーも、クルマにもよると思いますが、あのコーナーも比較的ブレーキを踏みすぎると勝手に車速が落ちてしまって取り返せないというパターンが多かったりします。そこは、なるべくブレーキを踏まないようにとか、ピッチをさせすぎないようにするとか……。そのなかでクルマがちゃんと曲がってくれるというのを、すごく意識しています。

三浦:なるほど……。

野尻:だから、高速コーナーほど、自分がなにもしなくても曲がってくれるとか、そういうところまでクルマが仕上がっていれば、そんなに怖くないです。自分でなにかをしようとするから、怖いのかなという気はします。

三浦:けっこうクルマのセットアップを細かくリクエストする方ですか?

野尻:ここを直してほしいとか、リクエストの内容が細かいかと言われると、そんなに細かくはないです。どちらかというと、クルマがどう動いているのかというフィードバックはすごく細かくやるようにしています。

 自分としては気になって速く走れなかったりするときとかがあっても『このデータの、こういうところを見てほしい』というのを伝えられるようにもなってきています。エンジニアさんと時間を過ごす中で、『こういう時にエンジニアさんはこういうところを見るのか』というのが、ある程度わかってきたので、『そこじゃなくて違うところを見てもらえないですか?』という話もできるようになってきています。なので、大外しをする週末はなくなってきたのかなと思いますね。決勝においても予選のように速さを維持できるようになってきたのは、そういうところなのかなという気がします。

三浦:そういえば、ダンディライアンの吉田さん(三浦さんのFRJでの担当エンジニア)が、野尻選手が強くなったのは、セットの方向性を自分でわかった上でコメントし始めるようになったからだろう、とおっしゃっていたのですけど、『今はフロントを触るべきか? リアを触るべきか?』というザックリとした方向性が見えていたりするのですか?

野尻:ドライバーって、ブレーキングもするし、加速もして、ハンドルを切るなど、いろいろ動くじゃないですか。だから、エンジニアさんってすごく難しく考えたりしている気もしています。

 よくピットを出た瞬間に『こっちのセットの方が全然いい』と思うときがあります。それをエンジニアさんの視点で正しく教えてもらえるかと言うと、そこはなかなか難しいです。データで見るとスピードも出ていないし、普通なら『なぜだ?』ってなるのですけど、乗っているときは間違いなく『これだ!』と感じているし、1周走ったら絶対に速いです。

 例えば、クルマが走っていない状態と言ったら極端過ぎますけど、時速60kmとか低速で動いていても良いセットアップは、レーシングスピードになっても良いセットアップなのではないかなと思うようになってきました。レースをやっていると、なかなか解析できない部分はいっぱいあると思います。そこを自分なりに『何が効いてそうなったのかな?』とかは、常に考えたりしています。

三浦:奥が深いですね……。

野尻:あとは、クルマの姿勢というか……どっちに荷重が流れようとしているのかは、すごく考えていますね。

三浦:荷重の流れ、ですか?

野尻:例えば、この夏から注目を集め出したスケボーがそうです。クルマと同じでタイヤが4つ付いていて、足を置く場所によって、前が上がったり後ろが上がったり、姿勢が安定したり……ジャンプした後、加速状態で着地したときも、どこに足を置くかが、けっこう重要なのではないかなと、見ていて思いました。

 そういうのもレースに置き換えると、例えばフロントにフラップを立てて思い切りダウンフォースをつけていくと、スケボーでいうと端っこに乗っているみたいな感じで、すごくバランスが崩れようとすると思います。

 でも、僕たちが求めているグリップはそうじゃなくて……ある程度、前後両方のタイヤに荷重がかかった中で走りたいと思っています。その中でちょっとだけフロント(のグリップ)があった方が良いとかになってきます。そういうのを見て考えたりとか、積み重ねが最近すごい多いですね。

三浦:そうなのですね! じゃあ、けっこう普段からレースのことを考えている割合が大きいですか?

野尻:レースのことしか考えていないような気はしますね。例えば、家族で何処かに出かけていても、レースのことを考えちゃったりしています。いろんなものを見ている中で『これって、レースにつながらないかな?』と思ったりも、けっこうしますね。

三浦:ちなみに、野尻選手ご自身の中では、ちゃんと頭で理解してからやるのか、とりあえずやってみよう! という感じでいくのか、どっちですか?

野尻:僕は感覚派ではないと思っています。よく、センサーは人一倍いいとか、感じる能力はあると言ってもらえています。自分も、あながちそこは間違いじゃないのかなという気はします。ただ、自分で感じ取ったクルマの状況を、そのまま次の周に100%活かす走らせ方が、僕はできないです。そこは何周か試していって、そのクルマに対するドライビングの完成形みたいなものを作れる気がします。

 なので、最近はQ1から一気にいけるようになりましたけど、以前はQ3まで進まないとクルマをどう扱っていいか分からなかったです。その辺でいうと、だいぶ“理論”に助けられているなと感じますね。

三浦:そういう勉強はされているのですか?

野尻:その辺は経験の方が大きいのかなと思います。いろいろとセットアップを変えてこうなったとか、そのセットアップで違う走りをしたら、普通に走れるようになったとか……そういうことの積み重ねがいっぱいあって、どんな状況でも、自分の行きたい方向に持っていけるようになったのかなと思います。

野尻:正直、僕はドライビングだけで言ったら下手だなと思っています(笑)それ以外の積み上げが大きいのかなと思います。

三浦:そうなのですか?

野尻:多分、同じクルマに違う人が乗ったら、多分もうちょっと速いだろうなとか……向上心を持つという意味では良いのかなと思いますけど、僕自身はそういうふうにけっこう捉えています。

三浦:そうやって、常に『まだ上がある』という考え方だから、ここまで来られている感じですか?

野尻:そうかもしれないですし、本来の理想像としてのレーシングドライバーには、程遠いと思いませんか?

三浦:あ、はい。そうですね(汗)

野尻:それこそ、ハミルトンとかフェルスタッペンとかは、パッと乗った瞬間にめちゃくちゃ速いじゃないですか。やっぱりF1とか見ていると、自分は圧倒的に足りてないなと思ったりします。だから、素直に自分の負けというか下手さを認めなきゃいけないところも当然ある。だからこそ、よりいろいろなものを見て、良いところは盗みながらやっていくのが大事なのかなと思っています。

* * * * * * * *

 こうして、三浦さんの野尻選手へのインタビューは予想以上に盛り上がりまして……続きは近日公開予定の第7回後編でお送りいたします!

【プロフィール】
三浦愛(みうら あい)
1989年生まれ。カートで実績を重ね、フォーミュラチャレンジ、全日本F3選手権などに参戦。2014年には全日本F3Nクラスで日本人女性初優勝を飾った。2021年はスーパー耐久に参戦しつつ、スーパーフォーミュラではテレビ中継の現場解説を務める。
三浦愛 公式HP

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