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3年で転落死79人…「人食い用水路」 車ごと飲み込む岡山県の側溝の今を探る

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3年で転落死79人…「人食い用水路」 車ごと飲み込む岡山県の側溝の今を探る

■危険度MAX!クルマごと飲み込まれる柵なし幅広の用水路

 用水路から水が溢れた大雨の日に、道路との境目を見失ったクルマがすっぽりと吸い込まれてしまう事故が2013年に岡山で発生し大きなニュースになりました。用水路が並行して走る道路は、全国でもいたる所に作られていますが、なぜ岡山県で事故が多発したのでしょうか。

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 一番の要因は、「柵がない」ということです。道路と並行した作りであるにもかかわらず、安全のための柵もなく、最大で幅1メートル・深さ2メートルを超える大きさがあるという危険ポイントが揃っています。

「岡山県の側溝がヤバい!」そう言われ始めたのは2013年に用水路への転落死亡事故数が13件となり、全国ワースト1位に躍り出てからです。

 加えて、2016年の大雨の際に、道路と同じ高さまで増水した用水路を道と見間違えてクルマが転落し、水没する事故が発生。ドライバーを恐怖に陥れたその映像は全国ニュースで繰り返し報道され、あまりの事故の多発ぶりに「人食い用水路」という異名までつけられてしまいました。

 岡山県では、2013から2015年の3年間で実に79人もの転落死が発生しています。転落事故全体ではなんと1143件。事故にあった年齢を見てみると、50歳以上が9割(70歳以上が7割近く)を占め、午前6時から午後6時の明るい時間帯での発生が8割にものぼるという報告です。意外なことに、視界が悪い夜道ではなく明るい時間帯に事故が起きています。

 用水路は常に水が流れている場所もありますが、そうでない場所でも転落時に頭を強く打って死亡している例もあります。死亡に至らなくても、後遺症を伴うような重大な傷害を招いてしまうのが転落事故の怖いところです。

 確認できた事故数はあくまで交通事故として消防や警察に通報があったものばかりです。歩行者が落ちて軽いケガをしたようなものは通報されていませんので、転落件数はもっと多いかもしれません。これほど多数の事故が起きているにも関わらず、全ての用水路にすぐに柵がつけられなかったことで「行政はいったい何をやっているんだ」という県民からの不満も多々聞こえました。

 この危険な用水路の問題に対して、岡山県はどのような対策を講じているのでしょうか。

 もともと農業が盛んだった岡山県は、他県より用水路が多く大きく作られているため、すべての水路に柵をつけるとなると多額の費用がかかります。資金的な理由で一気に防御策を進められないのも悩みどころですし、用水路の管理は市道沿いか県道沿いか、または私道沿いかなど場所によって管轄が違うため、一括して対策することが非常に難しいともいえます。

 そこで岡山県は『ストップ!用水路転落』をスローガンに、県と市町村、県警、消防が情報を共有しながら対策を講じることを目指して、2018年に「用水路転落のガイドライン」を作成しました。この深刻な状況を何としても改善しようと、柵の設置を進めると同時に安全教育の啓発を始め、2019年度には用水路300カ所への安全対策も予定しています。

 さまざまな努力が実を結んだのか、2018年の転落死亡事故数は県警に確認したところ3件まで減ったそうです。県全体の取り組みが成功した結果として、一気に減少方向に向かっています。すぐに柵が作れない場所でも、民間企業が蓄光できる路面材などを開発し、協力している事例もあるようです。

 死亡事故の内容についても、歩行者や自転車、オートバイでの走行中の転落がほとんどで、クルマごと落ちるというショッキングなトラブルはほぼ抑えられています。しかし農業用水として現役で活躍している用水路は、場所によっては柵が付けづらい場合があるため、完璧な対策を講じるのが難しいのも現状です。そのため、ドライバーそれぞれの安全走行への心がけも大切です。

■用水路への転落事故を防ぐためにドライバーが心得たいポイント

 用水路の怖さは、その大きさや水深の深さだけではありません。転落によって起こるパニック状態にも注意が必要です。落ち着けば足が立つような浅い場所でも死亡事故が起きるのは、パニックに陥ったために体勢を整えられなくなることが原因でもあるのです。

 クルマごと落ちるような用水路は少ないとはいえ「もしも」がないとはいい切れません。転落してしまってからでは体が思うように動かなくなる危険性が高まります。分かりきったことではありますが、「転落しないこと」が何よりも重要になります。

 日頃から、側溝や用水路、田んぼなどへの転落を起こさないように走行中に気をつけておきたいポイントをご紹介しましょう。岡山県警の行う安全啓発では、二輪・四輪ドライバーに共通する注意点を「脇見をしながらハンドル操作を行なわない」「夜間は必ずライトを点け、道路をよく見て走行する」「道路が冠水するような雨天時には運転(外出)を控える」と3項目挙げています。

 どれも当たり前の内容ですが、注意が散漫になった時にできる「一瞬の隙」が事故を招く原因になりやすいので、日頃から安全な走行に意識を向けておく必要があります。明るい時間帯であっても脇見運転は決して行わないこと。前方確認やハンドル操作に集中し、常に事故回避の意識を持ちましょう。

 また、用水路の転落事故は他県でも起きています。河川や池、海、田んぼなど水場への転落事故全体ではかなりの件数になります。警察庁が発表した2017年度の水難事故は1341件、そのうち死亡事故は654件もあり、決して珍しい事例ではありません。

 用水路は特に珍しくないものですが、幅の狭い側溝でも脱輪して動けなくなるケースも少なくありません。トラブル回避のために、道路の状況には常に注意を払いながら走行したいものです。

 雨天時でも緊急で外出しなければならない場合もあるかもしれませんが、そのような場合には「知らない道を走らない」「車線変更をなるべく控える」「水がたまって側溝が見えなくなっている道の端にはクルマを寄せない」など慎重に走行し、不安を感じたら一旦停止して状況を確認する冷静さを持ちましょう。

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