現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > ‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】

ここから本文です

‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】

掲載 2
‘70s国産名車 カワサキ 500SS マッハIII 完調メンテナンス【補修部品は潤沢だが、品質には要注意】



今も絶大な人気を誇る’70年代の名車たち。個性の塊であるその走りを末長く楽しむには、何に注意しどんな整備を行えばよいのだろうか? その1台を知り尽くす専門家から奥義を授かる本連載、今回はカワサキの「500SS マッハIII」について、メンテナンス上のポイントを明らかにする。

ヤマハ原付二種の逆襲が見たい:ミニトレール125〈YM未来予想/提案編〉

―― 【取材協力|トリプルフィールド】屋号からは3気筒専門店? と思えるものの、’13年から活動を開始したトリプルフィールドでは、年式や国籍を問わず、多種多様なバイクを取り扱っている。と言っても、最も入庫が多いのは’69年型500SSに端を発するにカワサキ・マッハシリーズで、それに次ぐのは同時代のW1/Z1系/スズキGTシリーズなど。■住所:静岡県沼津市小諏訪136-7-202 ■電話番号:080-1560-4831 [写真タップで拡大]

●文:ヤングマシン編集部(中村友彦) ●写真:富樫秀明/YM ARCHIVES ●取材協力:トリプルフィールド

トラブルの主な原因は経年変化と調整不良【カワサキ 500SS マッハIII】

前記事の繰り返しみたいな話になるが、マッハシリーズには壊れやすいという噂が存在する。具体的な話をするなら、CDIユニットのパンク、ピストンとシリンダーの焼き付き、スパークプラグのカブリなどが、オーナーの間では話題になることが多い。このあたりについて、トリプルフィールドの稲村氏に話を伺った。

「前期型のCDIは確かにパンクしやすいですが、ウチで定番になっているウメデンさんのユニットに変更すれば、以後はトラブルフリーで楽しめます。焼き付きの主な原因はキャブセッティングやオーナーの扱い方で、本来の資質を回復したノーマルを普通に使っていたら、そう簡単には起こりませんよ。

カブリはキャブと点火系が問題視されがちですが、オイルライン内のチェックバルブ不良も、過剰なオイル供給の一因です。なおマッハ系オーナーの中には、近場のツーリングでも予備のプラグと補充用の2ストオイルが欠かせないと言う人がいますが、ウチでレストアした車両ならどちらも不要です」

車体に関しては、壊れるという説はないものの、500SSの前期型に限らず、高速域での安定性に物足りなさを感じるライダーは少なくない模様。

「そう言う方の車両を点検させてもらうと、前後ショックやタイヤ、ステムベアリング、スイングアームピボットブッシュのいずれか、あるいは、すべてがダメになっていることがほとんどです。いずれにしても製造年を考えると、素性が不明のマッハシリーズを入手したら、ありとあらゆる部分の劣化を疑ったほうがいいと思いますよ」

カワサキ 500SS マッハIII パーツ供給

同時代のZ1系には及ばないものの、年式を考えれば、マッハシリーズの部品供給状況は良好な部類。もちろん、純正は着実に欠品が増えているのだが、一方で国内外のアフターマーケットメーカーがリプロ品を新規開発している。

「ただし、代替品がない部品は多々あります。ウチの場合は、独自に補修したり、海外から取り寄せたりという手法で何とかしていますが、知識や経験ナシでこのシリーズを整備するのは、なかなか難しいと思いますよ」

―― 【沿面にこだわる必要はない】500SSの純正スパークプラグは、電極の出っ張りがない沿面式だが(左。NGK BUHX)、オーソドックスなB9HCSでまったく問題はない。同店ではギャップを1.0mmに拡大して使用。 [写真タップで拡大]

―― 【全年式に対応するリプロ品】電装系の要となるメインハーネスは、複数のリプロ品が存在。写真はピーエムシー製で、同社は500SSと750SSのシリーズ全モデルに対応する強化タイプをラインアップしている。 [写真タップで拡大]

―― 【豊富で緻密なオーバーサイズ】補修用のピストンはシフトアップ(写真)とインペックスが同店の定番。シフトアップは+0.25~1.25mmまで、インペックスは+0.5~2mmまで、0.25mm刻みでオーバーサイズが揃う。 [写真タップで拡大]

―― 【バラよりもセット品がお得?】一部が欠品になっているものの、エンジンのガスケット&シール類の多くは純正の入手が可能。ただし最近のトリプルフィールドでは、アフターマーケットのセットを使うことが多いそうだ。 [写真タップで拡大]

カワサキ 500SS マッハIII:メンテナンスポイント

◆シリンダー:前期型のポートはかなりの高回転指向

―― 鋳鉄スリーブ入りアルミシリンダーは、耐久性がいまひとつ…という説があるものの、トリプルフィールドが過去にスリーブ交換を行った個体はごくわずかしか存在しない。なお前期型のポートは、後期型より高回転指向。 [写真タップで拡大]

◆シリンダーヘッド:割れと歪み、燃焼室のデトネーションを点検

―― 冷却性能を左右するフィンの折損に対して、かつての同店はアルミ板の溶接で修復していたものの、最近は耐熱耐油性アルミエポキシパテ、ジーナスGM-8300を使用。 [写真タップで拡大]

―― 合わせ面に歪みが生じたヘッドは、面研で修正する。その際の圧縮調整はガスケットで行うのが一般的だが、同店では機械加工で燃焼室の凸部をやや広げることもある。 [写真タップで拡大]

―― シリンダーヘッドは歪みや割れが生じていることが多い。ちなみに割れの主な原因は、オーナーの無謀な増し締めらしい。中央の写真はデトネーションで傷ついた燃焼室。 [写真タップで拡大]

◆ピストン&ベアリング:小端のベアリングも必ずセットで交換

―― 2ストのピストン交換時は、小端のニードルベアリングも同時交換が基本。ただし最近は基本を理解していない人がいるようで、OH済みのエンジンが、使い回しのニードルベアリング崩壊で全損…という事例があるとのこと。 [写真タップで拡大]

◆キャブレター:分解は困難でも補修部品は潤沢

―― インテークマニホールドとの接合部に収まる樹脂製スリーブも含めて、ミクニVMキャブレターはすべてのリペア&セッティングパーツの入手が可能。もっともそれ以前の問題として、トリプルフィールドに持ち込まれるキャブレターは、ネジ/ジェット類がボディと固着していることが非常に多いそうだ。 [写真タップで拡大]

◆エアクリーナー:吸気系の構造は前期と後期で異なる

―― エアフィルター/エアクリーナーボックス/インテークダクトは、すべてリプロ品が存在。あまり現実的な話ではないけれど、このあたりのパーツ一式を後期型用に変更すれば、前期型のエンジン特性も多少はマイルドになると言う。 [写真タップで拡大]

◆クランクシャフト:オーバーホールで新品時の性能を回復

―― 組み立て式クランクシャフトは、消耗品を交換して芯出しを行えば、新品時の性能を取り戻せる。ただし、クランクケース側に鋳込まれた鋳鉄製のメタルが摩耗/損傷している場合は、ケース交換、あるいは、何らかの対策が必要。 [写真タップで拡大]

◆シフトフォーク:潤滑性能を意識してツメの先端を加工

―― シフトタッチが悪い原因は、ミッション本体やクラッチという場合もあるけれど、シフトフォークも要注意。トリプルフィールドでミッションを整備する際は、オイルがスキ間に入りやすいように、シフトフォーク先端を加工。 [写真タップで拡大]

◆フレーム:基本的には丈夫だが細部に弱点が存在

―― フレームでよくあるトラブルは、リヤエンジンマウントステー(写真)の割れと、サイドスタンド取り付け部の変形。なお250SSと350SSは、長めのシートレールがタレ下がるように変形している個体が少なくないそうだ。 [写真タップで拡大]

◆ブレーキ:シューとパッドはベスラが定番

―― ブレーキシューとパッドはベスラが定番。なお500SSの前期型に採用されたφ200mmフロントドラムは、利かないと言われることが多いけれど、整備と調整をきちんと行えば、日常域なら十分な制動力を発揮すると言う。 [写真タップで拡大]

◆リヤショック:純正を再現したリプロ品が数多く存在

―― いわゆる有名ブランド以外のリヤショックは、一昔前は妙に硬かったりすぐにシールが抜けたりすることが多かったものの、最近は普通に使える製品が増えている。写真は同店での装着率が高い、ピーエムシーのSTDタイプ。 [写真タップで拡大]

◆タイヤ:バランスを考慮してIRCを推奨

―― タイヤの選択肢は意外に豊富。ライフとコストのバランスを考えて、近年の同店ではIRCを推奨している。最も人気は高いのはトレッドパターンがクラシカルなGS-11だが、ミゾがやや少な目のGS-19やRS-310を選ぶ人もいる。 [写真タップで拡大]

◆フューエルコック:負圧を受けて作動するダイヤフラムの劣化

―― 負圧式のガソリンコックは、内部のダイヤフラムが経年劣化する。同店では純正を補修することが多いものの、マッハシリーズオーナーの間では、アフターマーケット製のピンゲルが代替品としての地位を確立しているようだ。 [写真タップで拡大]

◆オイルライン:チェックバルブの劣化に要注意

―― オイルラインのバンジョーボルト内に備わるチェックバルブは、基本的に非分解だが、同店では独自にスプリングとボールを準備して補修。この部品の劣化でオイル吐出量が過剰になると、セッティングが濃い目と勘違いしやすく、その結果として薄目に変更して焼きつき…という展開は珍しくない。 [写真タップで拡大]

◆オイルポンプ:シール類の経年変化で漏れが発生する

―― 3番シリンダー後方に備わるオイルポンプは、シールやガスケットの劣化で漏れが発生する。一部の特殊なシールは一般には流通していないため、再利用することが多いようだが、トリプルフィールドではすべての補修部品を準備。 [写真タップで拡大]

◆オイル:現在も2ストに注力するアメリカのベルレイ

―― トリプルフィールドの推奨オイルは、現在もモトクロスの世界で2ストローク用の開発を継続している、アメリカのベルレイ。すべての製品をテストしたうえで、エンジン用は半化学合成のSL-2、ミッション用は80Wを選択。 [写真タップで拡大]

◆スパークユニット|現代の技術を用いてトラブルを解消

―― CDIユニットは、マッハシリーズ全般に力を入れるウメデン製が定番。ただし純正がポイント式の250SSと350SSは、ボイヤーのフルトラキットに変更することが多い。なおレギュレターとレクチファイヤもウメデン製が人気。 [写真タップで拡大]

◆ピックアップコイル:点火系と発電系はリビルドが可能

―― クランクシャフト左側の電装系ユニット(写真は前期型用)。表側上部のカーボンブラシ交換と裏側に備わる発電用コイルのリビルドは、多くのショップとマニアが行っているが、同店では表側下部のピックアップコイルも補修。 [写真タップで拡大]

◆ディストリビューター:2輪では珍しいディストリビューター

―― H1/H1A/H1Cのクランクシャフト右側に設置されているのは、点火を各気筒に分配するディストリビューター。カバーとローターに備わる接点端子は、ある程度の距離を走るとカーボンが溜まるので、定期的な清掃を行いたい。 [写真タップで拡大]

関連タグ

こんな記事も読まれています

「新一万円札」渋沢栄一の関連企業はいすゞ自動車など約500社[新聞ウォッチ]
「新一万円札」渋沢栄一の関連企業はいすゞ自動車など約500社[新聞ウォッチ]
レスポンス
給油時の「空気圧高くしますか?」なぜ聞かれる? 拒否してもいいの? ガソスタの“定番セリフ”の意図とは
給油時の「空気圧高くしますか?」なぜ聞かれる? 拒否してもいいの? ガソスタの“定番セリフ”の意図とは
くるまのニュース
今年夏も暑そうな予感! バイクって夏でも長袖じゃなきゃダメなの?
今年夏も暑そうな予感! バイクって夏でも長袖じゃなきゃダメなの?
バイクのニュース
フォルクスワーゲン マイナーチェンジで質感、装備を向上させたT-Crossの予約注文開始
フォルクスワーゲン マイナーチェンジで質感、装備を向上させたT-Crossの予約注文開始
Auto Prove
【MotoGP】オランダGP完全勝利のバニャイヤ、なぜそんなに強い? “左曲がりの王”マルケス「彼は高速右コーナーが特に速い」
【MotoGP】オランダGP完全勝利のバニャイヤ、なぜそんなに強い? “左曲がりの王”マルケス「彼は高速右コーナーが特に速い」
motorsport.com 日本版
スズキ「新型コンパクト“SUV”」発表へ! クーペスタイルの「小さな高級車」か!? MT設定&「100万円台」の「インドフロンクス」とは
スズキ「新型コンパクト“SUV”」発表へ! クーペスタイルの「小さな高級車」か!? MT設定&「100万円台」の「インドフロンクス」とは
くるまのニュース
BMW『X5/iX5』も大型キドニーグリルと決別!「ノイエ・クラッセ」デザインで2026年デビューか
BMW『X5/iX5』も大型キドニーグリルと決別!「ノイエ・クラッセ」デザインで2026年デビューか
レスポンス
ホンダが「どこでも快適・軽バン」実車初公開! 斬新シート採用!? 「大人1人から4人まで」自由自在!  10月発売の「新N」とは
ホンダが「どこでも快適・軽バン」実車初公開! 斬新シート採用!? 「大人1人から4人まで」自由自在! 10月発売の「新N」とは
くるまのニュース
全ては「勝つ」ために! カワサキが「KX450」「KX450X」の新型モデルを発売
全ては「勝つ」ために! カワサキが「KX450」「KX450X」の新型モデルを発売
バイクのニュース
名車「シトロエン DS」、デビュー70周年を祝う…仏「レトロモビル2025」
名車「シトロエン DS」、デビュー70周年を祝う…仏「レトロモビル2025」
レスポンス
ホンダ・シビック タイプRってどんなクルマ? 歴代モデルと最新6代目を詳しく解説!
ホンダ・シビック タイプRってどんなクルマ? 歴代モデルと最新6代目を詳しく解説!
WEB CARTOP
VWグループジャパン、2024年度に投入する新モデル5車種を公開 ティグアンとパサートはフルモデルチェンジ
VWグループジャパン、2024年度に投入する新モデル5車種を公開 ティグアンとパサートはフルモデルチェンジ
日刊自動車新聞
アウディのカルトスポーツエステートRS4の25周年限定車「Audi RS4 Edition 25 Years」に初試乗
アウディのカルトスポーツエステートRS4の25周年限定車「Audi RS4 Edition 25 Years」に初試乗
AutoBild Japan
三浦半島の「新スマートIC計画」に反響多数!?「とても便利」「なる早で開通して」横浜横須賀道路の「IC空白地帯」で工事準備中
三浦半島の「新スマートIC計画」に反響多数!?「とても便利」「なる早で開通して」横浜横須賀道路の「IC空白地帯」で工事準備中
くるまのニュース
レッドブルF1代表、怒り心頭マクラーレンからのフェルスタッペン批判に反論「間違っているしフェアじゃない」
レッドブルF1代表、怒り心頭マクラーレンからのフェルスタッペン批判に反論「間違っているしフェアじゃない」
motorsport.com 日本版
BMW『M5』新型、鮮やかなイエローボディがラインオフ
BMW『M5』新型、鮮やかなイエローボディがラインオフ
レスポンス
写真で見るニューモデル VW「ティグアン」「パサート」
写真で見るニューモデル VW「ティグアン」「パサート」
日刊自動車新聞
スーパーカーの巨匠、ガンディーニ氏逝去…デザインと作品を振り返る
スーパーカーの巨匠、ガンディーニ氏逝去…デザインと作品を振り返る
レスポンス

みんなのコメント

2件
  • 懐かしのデスビだ。これだけのノウハウある専門店があるっていいなあ。
  • この頃のマッハはフレームの工作精度が低く、直線で速度を上げるとヨーイングを起こすと聞いたことがありますが。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村