■マセラティ250Fで、スターリング・モスのF1人生は開花した!
スターリング・モスは、1956年のモナコ・グランプリをマセラティのF1「250F」で初制覇するなど、マセラティとも関係が深い。マセラティの100周年を祝うイベントがイタリア・モデナのムゼオ・エンツォ・フェラーリで開催されたときには、マセラティの名車のなかでも特に次の3台を評価していた。
ミュゼオ・エンツォ・フェラーリを訪れたスターリング・モスは、マセラティの名車を1台1台、事細かに説明したという。
「250Fは高速マシンとしてすべての動作においてドライバーを満足させたモデルだった。『300S』は素晴らしいバランスと並はずれた運転のしやすさを備えた1台。そしてこのふたつの特長を併せ持ったのが、『ティーポ61バードケージ』だ」
スターリング・モスが認めたマセラティの3台の名車、250F、300S、ティーポ61バードゲージとは、いったいどのようなクルマで、モスとどのような関係があるのだろうか。
●マセラティ250F
1954年、モスは自費で250Fを購入し、F1グランプリにプライベーターとして参戦した経緯も持つ。その後、マセラティのワークスチームへと昇格し、1956年にマセラティに復活したモスは、5月13日のモナコ・グランプリで、彼の生涯でもっとも美しい勝利のひとつを挙げた。
このレースでモスに勝利をもたらした250Fは、シャーシナンバー2522のマシンで、彼がレースを終始リードし続けた上での初勝利だった。
そして同年モンツァで行われたイタリア・グランプリにおいては、コリンズがファンジオのタイトルのために託したフェラーリを破り、モスが運転する250Fが勝利を収めた。
こうした理由から、モスは250Fを非常に誇りに思っており、プライベートコレクションに長らく保管していたという。
●マセラティ300S
エンジンは250Fの2.5リッター直列6気筒をボアアップして3リッター化したものが搭載されている。ブレーキも250Fのほぼ流用で、サスペンションは強化されたものが組み込まれている。リアアクスルは、ド・ディオンアクスル式が初採用されている。
300Sは、モスが好きなマシンとして公言しており、1956年のニュルブルクリンク1000kmレースにおいては、300Sで優勝を飾っている。
●マセラティ・ティーポ61バードゲージ
2.9リッターの直列4気筒エンジンを、軽量化と高剛性を両立したスペースフレームに搭載。パイプフレームはクロムモリブデン鋼が用いられ、まるで鳥かごのように複雑な構成だったために、バードゲージ(鳥かご)とも呼ばれる。
独立したフロントサスペンションに、4輪ディスクブレーキ、5速トランスミッションを装備し、ド・ディオンアクスル式のリアアクスルが採用されている。
1961年のニュルブルクリング1000kmレースでモスは、このティーポ61でモスは優勝を飾った。
* * *
スターリング・モスは、1929年9月17日に英国ロンドンで生まれ、生涯をロンドンで過ごす。彼の父親アルフレッドE・モスは、1924年にインディアナポリス500を16位で終了し、妹のパットもいくつかのラリーに参戦をしていた。
スターリング・モスのF1の経歴は、1951年から1961年にかけて66のグランプリに参戦し、うち16のレースで勝利を収めている。
しかし、その強さをもってしても1955年、1956年、1957年、1958年と4年連続で2位の結果に終わっている。これが、モスが無冠の帝王と呼ばれるゆえんだ。
また、彼はサーキットだけではなく公道レースにおいても伝説を残している。1955年のミッレミリアでは10時間7分48秒で制覇し、セブリング12時間、ツーリスト・トロフィー、タルガフローリオなど数々のレースを制している。
1950年代から1960年代においては、英国の警官がスピード違反のクルマを止めた際に「スターリングモスにでもなったつもりか」というのが常套句になったり、映画『007 カジノロワイヤル』にもゲスト出演をするなど、国民的な人気を得た人物でもあった。
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