タイヤの持ち込み本数を1セット削減することが明言されていた2024年のスーパーGT。今季はGT500クラスでホンダがシビック タイプR-GTを投入するなど、いくつかの新しい展開が見られる中、GTアソシエイション(GTA)の坂東正明代表がオートスポーツ本誌の取材にスポーティングレギュレーションの面など、さらなる変更点について答えた。
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⎯⎯スーパーGTの2024年シーズンに向けた取り組みを教えてください。
「カーボンニュートラルへの取組みとして、持ち込みドライタイヤセット数の削減を実施する。300kmレースであれば、これまでの5セットから4セットにする。各タイヤメーカーとも話し合いを持ちながら進めていることだが、単純にタイヤ本数を削減すると、タイヤ温存のために予選日午前中の公式練習を走らないチームが出てくるかもしれない」
「サーキットに来てくれたファンが走行シーンを観る機会が減ってしまうので、それだけは避けたい。そうならないように、2024年シーズンに向けてS-pR(競技規則)の改定を検討している。具体的には予選のやり方を変えて、予選から決勝スタートまで1セットのドライタイヤ使用を義務付ける方向を目指している」
⎯⎯Q1で台数を絞りQ2を実施する現在の方式から変更されて予選1回になるのですか?
「現在検討中だが、ドライバーふたり以上で一組として戦うのが前提のスーパーGTなので、ふたりのドライバーが予選を戦うことは維持する方向。その上で、予選から決勝スタートまで1セットとして、なおかつエンターテイメント性が損なわれない方法としたい」
「これはタイヤのロングライフ化促進の側面もある。戦略により予選を含めてショートスティントが維持できる予選フォーマットでは、セット数を削減してもロングライフ化の促進はできない。カーボンニュートラル推進のための施策でもあり、予選における使用セット数を削減することも重要と考える。また、ロングライフ方向のタイヤとなれば、結果としてコーナリング速度を抑制することにつながり、安全性向上にも寄与する」
⚫︎3時間などタイムレース採用と距離変更。ブレーキの変更と車検迅速化
⎯⎯2023年シーズンは450kmレースが増えて、戦略の違いによるレース展開の面白さを観ることができました。2024年シーズンはどのような距離設定になるのでしょうか?
「300km、あと時間レースで3時間などを検討しているほか、シーズン中2回開催のサーキットでは距離を変えることも視野に入れているが、年間を総合した走行距離数も踏まえながら議論している最中だ」
⎯⎯昨年の最終戦後にもてぎでテストを実施したカーボンニュートラル燃料(CNF)のGT300への採用は24年に導入されるのでしょうか?
「2023年は、GT300は燃料の希釈の問題などもあり採用を見送ったが、今回のテストで問題があったとは聞いていないので、GT300は50%CNFを混合した燃料を使用する。これは岡山の公式テストから実施予定。GT500については23年同様、100%CNFを使用する。また、GT500の消費エネルギー削減、コスト削減策として検討をスタートしたのがカーボンローターとカーボンパッドのロングライフ化だ」
⎯⎯摩擦係数を下げてブレーキローターとパッドの消耗を抑制するのですか?
「そうではない。ローターの冷却穴を変更することやメーカーを変えることによって、ブレーキ自体の利きは維持しながら消耗を減らしたいと考えている。2024年シーズンからの変更は難しいがテストをしながら検討する」
「一方、GT300ではBoP(Balance of Performance/性能調整)のチェックについて迅速化を図る。ターボ車のブースト圧(エンジン回転数ごとに車種別に設定されている)と一部NA車両の規定ラムダ(空燃比)について、これまでは超過値がないか担当者がデータを目視してチェックしていたが、今後はデータを取り込んだPC上で、超過の有無を即座にチェックできるソフトを導入する予定だ。これにより予選後、決勝後の車検の迅速化と厳密化を図る。そのほか、GT500にもGT300にも共通する車検の迅速化に関係する変更点として、導入から時間が経過している車検計測用のカーボン定盤を新しい物に変更する」
⎯⎯GT300のBoP自体は何か変更はありますか?
「GT500についてはスキッドブロックの台座の高さを上げてダウンフォースを抑制する方向で議論が進んでいる。GT300については車両重量で速度を抑制する検討をしているが、サクセスウエイトとの関係(GT300は第6戦までは獲得ポイント✕3kg搭載)もあるので方法論を考えている」
⎯⎯これらは安全対策ですね。
「なにが安全性の定義なのか、ラップタイムで例えば鈴鹿で1分42秒は異常かもしれないが、レースでのレコードタイムが1分44秒台であればラップタイム自体は危険ではないと個人的には思う。しかし、大きな事故が2023年シーズンに2回起きてしまったのは事実で、安全性を高めなければいけない。それは最高速度ではなくコーナリング速度を抑えることで実現できるとの前提に立って、それに対してGTA内のテクニカル部会で議論してもらっている」
「タイヤのコンペティションがあり、GT500とGT300が混走している、世界にも例がない最高峰のGTレースを提供している、そのクオリティを高めることを目指しているのだから、ドライバーにはその自覚を持ってレースに臨んでもらうことが、安全を確保するために一番重要だと思う」
新たな日独CLASS1構想はドイツ側事情で棚上げ
⎯⎯2023年7月発売のオートスポーツ本誌では、ふたたびドイツのメーカーと協働して新たな『CLASS 1」』現行GT500規定のベースとなるDTMとの共通技術規則)を検討していく案が浮上していることを坂東代表が明かしていました。この構想について進展はあるのでしょうか?
「現時点ではない。ADAC(ドイツ自動車連盟・ASN)として、そのような意向を持っていたのは事実だが、ドイツ各メーカーにヒヤリングしてみると、現時点で将来に向けてはバッテリーEVが前提であり、音の出る(エンジンを使う)モータースポーツを守っていくという我々のコンセプトとは相容れない。今後ドイツにおける周辺環境が変化するなどしてドイツ・メーカーのスタンスが変化すれば別だが、現時点では協働が難しいことが明確になった。我々としても2030年に向けては、GT500車両規定の見直しやハイブリッドシステム導入を検討している」
⎯⎯今年、ファンサービスの点で何か新しい取組みはありますか?
「サーキットに足を運びスーパーGTを観てもらうことをもっと広げていきたいと考えている。現状サーキット集客の限界は、駐車場のキャパシティの限界で決まっており、スタンドにはまだ余裕がある。コストとの兼ね合いもありオーガナイザーの判断とはなるが、場外の駐車場を拡充するなどしてもっと多くのファンにスーパーGTを生で直接観てもらいたい。現場での観客へのレース情報提供方法として、2022年から『グルービュー・マルチ』を導入してピエール(北川)の実況放送や公式中継映像をスマホのアプリで視聴できるようにしたものの通信環境の問題で充分に機能しなかった。これも改善していきたい」
「サーキット外でのファンサービスという点では、各メーカーで取り組んでくれているパブリックビューイングで、オンボード映像がもっと活用できるようにしていきたい。ライブでオンボード映像が視聴できるのはこれまで一部車両だったが、その台数を拡大していきたい。自動車メーカー、タイヤメーカー、サプライヤー多くの企業が関わり成立しているスーパーGTなので、まずはそのインナー、社員や関係者にできるだけ多くスーパーGTに触れてもらい、魅力を知ってもらうことも認知度アップに向けて重要だと思う」
⎯⎯ありがとうございました。
Profile 坂東正明(ばんどうまさあき)
1955年生まれ。坂東商会、レーシングプロジェクトバンドウを設立してレーシングチューナー、そしてチーム代表としてさまざまなレースに参戦し、プライベーターチームとして数々の実績を重ねた。2008年に現職のGTA代表に就任。2019年にはGT500クラスとDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)の車両規則を統一化した車両によるドリームレースをドイツ・ホッケンハイム、そして富士スピードウェイで実現させた。坂東商会、チームは息子の正敬が引き継いで現在に至る。
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みんなのコメント
どちらにしても、昨年より予選が盛り下がることは避けられないので、予選フォーマットは見直すべき。ノックアウト方式ではなく、ドライバー交代で全車出走するQ1/Q2方式にして、両ドライバーが記録したタイムを合算したタイムで順位を決める方式にするのが良いかと思う。