注目を集めていたアップルのEV計画がとん挫した。しかしEVを諦めた企業はアップルだけじゃない。過去には思わぬ会社が、EVに夢を描き、実現できずに撤退していたのだ!
文/ベストカーWeb編集部、写真/カリフォルニア陸運局、Dyson、恒大汽車、小鵬汽車
人気家電メーカーも挫折! アップルだけじゃない! EV発売から撤退した意外な大企業
■ダイソンや中国の恒大集団も!
米カリフォルニア州陸運局の自動運転テストの許諾者リスト。右側に「APPLE INC」という記載がある
アメリカ・カリフォルニアの陸運局(DMV)は、州内で自動運転の公道実験を行う企業名を公開している。そのリストを見てみると、ウェイモやテスラ、日産といった名前に交じって「APPLE INC」という名前が確認できる。アップルが自動車(EV)開発に取り組んでいたなによりの証拠だ。
2月末、そのアップルの計画がとん挫したことが報道された。アップル自身が「クルマを作ります」と発言したことは一度もないのだが、2021年には韓国のヒョンデが協業検討をリークするなど状況証拠が積み上がり、「アップルカー」の存在は公然の秘密として知れ渡っていた。
しかし過去を振り返ると、EV開発を目指しながら実現しなかった会社はアップル以外にも存在する。なにやら日産が、アメリカの新興フィスカーと提携するといった話も出ているが、ここでは夢が実現できなかった代表的な3社を紹介したい。
■ダイソン:掃除機の技術を活かしてほしかった!
ダイソンが開発していたEVのプロトタイプ
コードレス掃除機やハンドドライヤーなどで知られるダイソンがEVに参入すると発表したのは2017年9月のこと。家電で培ったモーターやエネルギーマネジメントの技術を活かして、独自のテクノロジーを搭載した手頃な価格の電気自動車の量産を目指したのだ。
ダイソンはイギリス政府から1600万ポンド(当時の換算で約25億円)という補助金を交付され、テスラやアストンマーティンなどからエンジニアを引き抜いて400人体制で開発を始めた。
テストコースとしてロンドンの西にあるハラビントンにある軍用飛行場を買い取り、量産型に近いプロトタイプまで完成させている。全長5mの大型SUVで、低抵抗の大径タイヤと圧倒的なロングホイールベースが特長だった。
本来ならこのダイソン製EVは2020年に市販されるはずだったが、それが日の目を見ることはなかった。2019年11月、創業者ジェームズ・ダイソン氏がEV開発を打ち切ったことを発表したのだ。
その理由についてダイソン氏は「商業的に採算が合わない」と打ち明けている。同社は独創的なクルマを作るためプラットフォーム開発から完全な自社設計を貫いたため、その開発と量産化のコストが膨大な金額となったことは推測に難くない。
技術的には非常に優れていたとされるだけに、撤退が惜しまれる会社。今からでも考え直してくれないだろうか?
■恒大集団:中国不動産バブルの張本人もEVを夢見た!
恒大汽車が発売した恒馳5。およそ1000台は実際に納車されたという(同社ホームより)
不動産バブルに乗じて莫大な投資を行った末に破綻し、今年1月には香港の裁判所から精算命令を受けた中国の不動産大手「恒大集団(エバーグランデ)」の名前をご記憶の方も多いはず。実はこの恒大も、「脱不動産」のドタバタの中でEVに手を出していたのだ。
とはいえ自動車生産についてはド素人の恒大がいきなりEVは作れない。そこで同社は2019年、スウェーデンの自動車メーカー「NEVS」を買収した。聞きなれない名前だが、元をたどればあのサーブである。
恒大はNEVS以外にもいくつかの企業を買収し、2020年、恒大新能源汽車集団という自動車メーカーを立ち上げた。この会社は実際に市販車発売にまでこぎつけ、2022年夏にはデビュー作「恒馳(ヘンチー)5」という電動SUVを発表している。
この恒馳5、デザインを手がけたのはあの中村史郎氏(元日産デザイン本部長)といわれており、実際そのスタイリングは、精悍さと実用性が両立する優れたものだった。14.6インチの大型ディスプレイとクアルコムの車載用Socも搭載し、インフォテイメント性能もなかなかのものだったという。
しかし優れたプロダクトに資金が追い付かなかった。恒大汽車は香港証券取引所に上場も果たしたのだが、わずか1年で経営危機に見舞われ、株式取引停止に追い込まれた。
現在も恒大汽車自体はかろうじて存続しているが、親会社の破綻もあって将来は厳しい。現状の生産設備や人材を狙って、アラブ首長国連邦のEVメーカーが買収に動くにではないかという噂も流れている。
一時はフォードを超す株価が付き、500万台という生産計画までぶち上げた恒大汽車。兵どもが夢の後という感じだ。
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■滴々:スマートカー部門をシャオペンに売却
滴々のEV事業を買い取った小鵬汽車が発売したクーペSUV「G6」
日本でも4月から(タクシー会社主導で)ライドシェアが動き出すが、中国のライドシェア最大手といえば「滴滴出行」だ。同社は日本で「DiDi(ディディ)」という配車アプリも展開しているから、名前を聞いたことがある人は多いはず。
この滴々はライドシェアのほかにも自動運転やEV開発も手掛けてきたのだが、2023年夏に「MONA」と呼ばれてきたスマートEV事業を、同業の小鵬汽車(シャオペンモータース)に売却してしまった。
とはいえ滴々の場合は悲壮感はない。コストのかかるEVの自社生産を諦め、自動運転技術の磨き上げに集中するつもりなのだろう。実際滴々の同部門は、2023年10月に広州汽車から220億円ともいられる資金獲得に成功しており、順風満帆なのだ。
EV生産についても完全に手放すつもりはなく、そのエコシステムや運転支援といった領域で提携していくものと思われる。滴々は日本のソフトバンクとも仲がいいから、今後はそのサービスが日本に持ち込まれる可能性もあるだろう。
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