欧州車の中でも異彩を放つ存在のDSだが、そのSUVもまた他車にはない個性にあふれている。前衛的なデザインはもちろん、先進性を感じる装備や走りもDSの大きな魅力である。(Motor Magazine 2020年12月号より)
偉大な過去に恥じない完成度のDS3クロスバック
グループPSAの新たなラグジュアリーブランドとして20155年に独立したDSオートモビル。時に前衛的とまで表現される極めて個性的な内外装には、吟味された素材を入念に加工したクラフツマンシップがそこここに散見され、いずれのモデルも、サイズの大小を問わず極めて見応えのあるプレミアムカーに仕上がっている。
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ところで、DSブランドを語るうえで外せない存在がある。シトロエンが1955年に世に送り出した大型セダンの「DS」だ。シトロエンは、1934年にはいち早く前輪駆動とモノコックボディを採用するなど、極めて技術コンシャスなメーカー(当時はプジョーもシトロエンも独立資本)として知られていた。そうした蓄積を一気に商品化したのがDSで、空力を考慮して後半を強く絞り込み、フェンダースパッツまで装備した流線型のボディは「まるで宇宙船のよう」と評された。
技術面では、密閉した窒素ガスをスプリングとして使い、これに油圧制御式のダンパーを組み合わせて姿勢変化を抑え、車高を一定に保つハイドロニューマチックサスペンションを採用した。エンジンによって得た油圧をパワーステアリングやブレーキブースターにも用いるなど、油圧を多角的に活用した点でも画期的だった。このように、デザインもメカニズムも極めて個性的で先進性に富むというのがDSの伝統。グループPSAが新しいプレミアムブランドの名前をこれに由来させた理由もまさにそこにあるわけだ。
こんなことを思いながら、現代のDSモデル2台に改めて乗ってみた。最初に試したのは2019年月デビューの、もっとも新しいDS3クロスバックである。このクルマのスリーサイズは全長4120mm×全幅1790mm×全高1550mm。SUVなので全高は高めだが、日本のほとんどの機械式立体駐車場に入場可能だし、全長はBセグメントの中でもかなりコンパクトな部類に入る。
一方で車両本体価格はベーシックなソーシックで3733万円、上級仕様のグランシックは426万円と、正直やや強気の設定。ここから伺い知れるのは、このクルマが小さな高級車という立ち位置を目指して作られたということだ。
それを端的に表しているのが凝りに凝ったエクステリアだろう。Bピラー付け根の逆シャークフィン形状は、今回試したクルマのボディカラーが鮮やかな「ブルーミレニアム」だったこともあり、艶のあるブラックのルーフカラー「ノアールペルラネラ」とともに印象的なコントラストを見せていた。また、この部分も含めてウインドウのウエザーストリップをヒドゥン化するなど、細かい作り込みも凝っている。
さらに、前後のドアに大胆に穿たれたキャラクターラインや、ボンネットサイドのプレスラインなどの相乗効果で、ボディサイズ以上の量感を見る者に与えることもこのクルマのエクステリアの大きな特長。それがあるからこそ、3つのロービームモジュールを持つDSマトリクスLEDビジョンの特徴的な表情や、その端から下に伸びるデイタイムランニングライトの微妙な曲線も生きてくる。そして極め付けは、キーを持って車両に1.5mまで近づくとノブが自動的にせり出すリトラクタブルドアハンドル。BセグメントではもちろんDS3クロスバックが初採用である。
インテリアも見どころ満載だ。乗り込んでまず目に付くのが、菱形を重ねて各種スイッチパネルやACアウトレットとしたインパネ中央部。縁取りとなるクロームの艶が上品だし、機能的にも見やすく操作しやすい。この部分と、繊細な装飾が施された「クル ド パリ文様」のセンターコンソールがインテリアのデザイン的なハイライト。一方、機能的な部分では表示レイアウトを数種類切り替えられるフル液晶表示のメーターと、フルカラー表示のヘッドアップディスプレイが注目点だろう。
ところで、今回試したグランシックは標準仕様の「バスチーユ」というトリムレベルで2トーン仕上げのダッシュボードだが、その質感がレザーと見紛うばかりに高かったのも印象的だった。シートも菱形をモチーフとしたレザーでソフトな風合いが心地良い。
通常ならこれで十分満足できるのだが、グランシックにはこの上に「オペラ」という最上級レベルのトリムもオプション設定されている。こうしたインテリアの質感に関する徹底したこだわりも、小さな高級車を標榜するDS3クロスバックならではだろう。
走りに話を移そう。DS3クロスバックは電動化も見据えて新開発したCMP(コモン モジュール プラットホーム)を採用しており、これがかなり高い剛性を持っている。乗り心地は振動が抑え込まれ、滑らかで重厚感すら感じさせる。
エンジンは130ps/230Nmという実力の1.2L直列3気筒直噴ターボ。最大トルクの発生ポイントが1750rpmと低いうえに、組み合わされる8速ATが高速域まで極めて繊細なシフト制御を行い、全域で十分に強力な動力性能を楽しめる。この3気筒エンジンはもともとスムーズで静粛性も高いのでDS3クロスバックのプレミアム性を高めることにも大きく貢献している。
DS7クロスバックは華やかさと走行性能を両立
そしてもう一台、DS7クロスバックも試した。小柄なボディに数多くのデザイン要素をギュッと詰め込んだDS3クロスバックに対し、全長4590mm×全幅1895mm×全高1635mmと余裕があるDS7クロスバックは、格段に落ち着いた雰囲気だ。
しかしディテールの作り込みはやはり凝っている。アクティブLEDビジョンと称するヘッドライトは、ドアロックを解除すると左右に3つずつ並んだLEDモジュールが紫色の光を放ちながら順番に回転してオーナーを迎える。また、最新のレーザー彫刻技術で繊細な文様が彫り込まれたテールランプも見所となる部分だ。
今回試したのは最上級グレードのグランシック。インテリアのトリムレベルもトップの「オペラ」で、これにはウォッチストラップデザインのナッパレザーシートのほか、同じ素材にパールトップステッチを施したダッシュボードとドアトリムが採用される。
さらに、グランシック専用装備で注目なのが、インパネ中央の最上部にあるエンジンスタートボタンを押すと回転して現れるBRM社製のアナログ時計だ。DS3クロスバックにも採用されていた「クル ド パリ文様」のセンターコンソールも健在で、DS7クロスバックの室内もまた、なかなかに華やかな空間となっていた。
グランシックは225ps/300Nmの1.6LLガソリンターボと、177ps/400Nmの2LLディーゼルターボが選べるが、今回乗ったのは前者。ガソリンターボはシュンシュンと軽快に回るうえに、車重が1570kgと軽く、さらに8速ATが実に的を射たシフトを行うため、軽快な走りが楽しめた。
乗り味はDS3クロスバックと同じく、フロア剛性がしっかりしていて足まわりからの微振動の侵入が少なく、スッキリかつ重厚な走りが印象的だ。さらに先進装備も要注目で、DS3クロスバックはDSドライブアシスト、DS7クロスバックはDSコネクテッドパイロットという、トラフィックジャムアシスト付きのアクティブクルーズコントロールと、レーンポジションキープを統合制御するシステムが採用され、他のADASも極めて充実している。
加えてDS7クロスバックには、自動縦列駐車/自動車庫入れを実現するDSパークパイロットや、5~25m先の路面状態を検知し、ダンパーの減衰力を制御するDSアクティブスキャンサスペンションなどの興味深い装備も用意。
それでも上級仕様のグランシックが589万円からというのは、実はかなりのバリュープライスと言えるのである。(文:石川芳雄)
■DS3クロスバック グランシック主要諸元
●全長×全幅×全高=4120×1790×1550mm
●ホイールベース=2560mm
●車両重量=1280kg
●エンジン= 直3DOHCターボ
●総排気量=1199cc
●最高出力=130ps/5500rpm
●最大トルク=230Nm/1750pm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=426万円
■DS7クロスバック グランシック主要諸元
●全長×全幅×全高=4590×1895×1635mm
●ホイールベース=2730mm
●車両重量=1570kg
●エンジン= 直4DOHCツインスクロールターボ
●総排気量=1598cc
●最高出力=225ps/5500rpm
●最大トルク=300Nm/1900pm
●駆動方式=FF
●トランスミッション=8速AT
●車両価格(税込)=589万円
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