44年目を迎えるゴルフGTI
text:Greg Kable(グレッグ・ケーブル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
フォルクスワーゲン・ゴルフGTIの発売が始まってから44年が経つ。初代が登場したのは1976年。当初から後継モデルへと受け継がれる、基本レシピを完成させていた。
ゴルフのシンプルなスタイリングはそのままに、動的性能を大幅に引き上げた、特別なクルマだった。ありきたりな表現だが、ホットハッチのアイコンと呼ぶに相応しいモデルだと思う。
最近のフォルクスワーゲンにとって「GTI」はゴルフを超え、高性能なハッチバックを示す代名詞にもなっている。読者の関心も強いであろう、そんな最新のGTIが、2020年末に英国へ上陸する。
8代目となるゴルフGTIに搭載されるのは、先代から引き継がれる2.0Lの直列4気筒ターボ。EA888型と呼ばれるユニットで、最新のGTIに向けて改良を受けた。最高出力は245psで、先代のGTIパフォーマンスと同じパワーを得ている。
シャシー周りにも手が入り、電子制御のビークル・ダイナミクス・マネージャー(VDM)を採用。アダプティブ・ダンパーを含む、複数のシャシー・コンポーネントをネットワーク化し、従来以上に高速で制御する。
プラットフォームは7代目同様にMQB。技術的には、全面的な改良が施されている。
まずは見た目から触れていこう。標準のゴルフと比較すると、デザイン的な違いは先代以上に強い。フロント周りは特に顕著で、バンパーに内蔵される、片側5灯の六角形フォグランプが特徴だろう。
GTIを主張する新鮮なフロントマスク
GTIを象徴する赤いストライプと並ぶ、フロントの幅いっぱいに伸びたLEDデイライトも個性的。フロントグリルを横断し、左右のライトを結んでいる。新しいゴルフGTIであることを主張し、夜間の誘目性も高い。
ボディ随所には小さなGTIのエンブレムが入る。グリル内のほか、フロントフェンダーの後端やサイドシル・カバーなどだ。
リアでは、テールライトの点灯部分がGTI専用の造形に。リアハッチ中央には、クロームメッキされたGTIの大きなロゴがあしらわれる。バンパーの造形は標準のゴルフと同じだが、ブラックアウトされた下端部分はGTI専用のデザインとなる。
左右2本出しの円形マフラーエンドは、7代目と比較して外側に配置。幅広感や安定感を強めている。
インテリアで標準のゴルフとの違いは、従来通り限定的。8代目共通の特徴として、デジタル指向が強められている。
メーターパネルには10.25インチのモニターが収まり、グラフィック・デザインはGTI専用。標準で8.25インチ、オプションで10.25インチのインフォテインメント用モニターには、フォルクスワーゲン最新のコネクティビティ機能を実装する。
タッチセンサー式のコントロール系も、ゴルフとして共通。ずんぐりとしたシフトレバーが、センターコンソールから伸びる。試乗車に搭載されていたトランスミッションは、7速デュアルクラッチATだった。
ライバルと並ぶと控えめな245ps
ソリッドな印象は漂うが、ダッシュボードに用いられているプラスティックの質感は、一部で少し安っぽい。インテリア全体としては、従来と比較すれば顕著な変化でもある。
GTIを主張する要素も散りばめられている。連綿と受け継がれてきた高性能モデルであることを、車内からも感じ取れるように。
ヘッドレストと一体化された標準のスポーツシートは、調整幅も大きく、サポート性も良い。ステアリングホイールはレザー巻きで、スポークにはGTIのロゴと赤い差し色が入る。通常のゴルフより握りも太い。ペダルはステンレス製となる。
フォルクスワーゲンによれば、標準のGTIとして、最新の8代目は過去最強だと主張する。しかし最高出力は、近年のこのクラスでは控えめといえる245ps。2.0Lエンジンがアップデートを受けているとしても、どこまで興奮するドライビング体験が得られるのか、疑問もなくはない。
何しろ、フォード・フォーカスSTは276ps、ルノー・メガーヌRSは279ps、ホンダ・シビック・タイプRは320psもある。ヒュンダイi30Nでも、274psを得ている。
確かにライバルの前輪駆動ホットハッチと並ぶと、パワーでは劣っている。でも、EA888型4気筒ターボの回転は、驚くほど鋭い。
最大トルクは1600rpmから4300rpmに渡って、37.6kg-mを発生。突出した低中回転域での柔軟性を備えている。
アクセルペダルを踏み込んだときのパンチ力は、感心するほど強い。0-100km/h加速6.3秒、リミッターが効く最高速度249km/hという数字も、優れた性能を示している。
エンジン以上に好印象なシャシー・システム
新しい磁力式インジェクターは、燃料の噴射圧力を200barから350barへアップ。燃焼プロセスも改良を受け、低回転域でのスロットルレスポンスを高めつつ、6800rpmまで軽快に吹け上がる。改良前の同ユニットを搭載した先代より、瞬発力が強化された。
エンジン以上に強い印象を与えるのが、先代から25psと1.5kg-m増しのエネルギーを路面へ伝える能力。フォルクスワーゲンがXDSと呼ぶ、電子制御リミテッドスリップ・デフのプログラムが見直され、発進時の鋭さを高めている。
しかも、手に負えないトルクステアや、だらしないホイールスピンとは無縁。路面が乾燥していれば、タイトコーナーの立ち上がりなど、加速時のトラクションの掛かり具合で明らかな向上を体感できる。
このデフをバックアップするのが、VDMシステム。XDSおよびDCC(ダイナミック・シャシー・コントロール)などを電子的にネットワーク化し、各システムの反応速度を可能な限り短くしている。
ただし、良いことばかりではない。大型化された触媒コンバーターとガソリン微粒子フィルターによって、サウンド面でのアピール力は削がれてしまった。サウンド・アクチュエーターを備えるが、従来モデルほどの純度や刺激は得られていない。
スポーツ・モードを選ぶとエグゾーストノートの荒々しさは増す。だが音色は単調で、高速道路を長時間走るような場合には、飽きてしまうだろう。
この続きは後編にてご紹介しよう。
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この顔は厳しそう