積算1万2151km 最も有名なスポーツカーの1台
text:Mark Tisshaw(マーク・ティショー)
【画像】ポルシェ911 最新992型 カレラとターボS、GT3を比較 全109枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
世界で最も有名なスポーツカーの1台といえるポルシェ911。長期テストでは、ほぼ素の状態に近いカレラを検証してきた。
ポルシェ911は、よく知っているクルマのように乗りやすい。一方で1台だけで過ごしていると、素性の良さが見えなくなりがちだ。
楽しいことはわかっていても、どれだけ楽しいのか、毎日の短距離移動がどれだけ活き活きしたものになるのかは、比較しないと見えにくい。いかに精巧に設計・製造されているのかも、感じ取りにくい。慣れとはそいうものだと思う。
長期テストでは、最高のスポーツカーを普段使いするだけでなく、どの程度の内容が本当に必要なのかも確かめてきた。
ポルシェは、911のボディ・バリエーションの拡充に余念がない。同時に質素なモデルを選んでも、オプションの追加で結果的に金額が釣り上がることも珍しくない。長期テストのカレラでも、オプション金額は車両代の10%に届いている。
短くも素晴らしい911との暮らしだったが、このカレラの内容ほどもいらないかもしれない。走りに関係あるオプションは、1145ポンド(16万5000円)のカレラSホイールと1844ポンド(17万円)のスポーツエキゾーストくらい。
2つのオプションが装備されていなくても、幸せにポルシェ911と過ごせたと思う。残りのオプションは、見た目的な部分や快適機能に関わるもの。オーナーの好みに依存する部分だ。
強い印象を与える911のカタチ
最もシンプルな911を選んでも、よりパワフルでゴージャスな911と同じくらいの特別感があると思う。英国価格はそれでも8万2795ポンド(1192万円)もする。乗っていて、ほかのクルマに引け目を感じることもない。
たとえ運転しなくても、一度乗れば多くの人に確かな印象を残してくれる。特にそのきっかけとなっているのが、ボディのカタチ。911の見た目は、いつも911。当然のことのように。
911を運転する時間が長くなるほど、その印象は強いものになっていく。ボディもインテリアも、細部まで作り込みは素晴らしい。
立体的なエンブレムが飾られた、リアの造形豊かなプロポーション。きれいに整えられた面構成と、ブレーキランプのデザイン。こんなデザインのテールライトを持つクルマは、ほかに例がないと思う。
見た目で素の状態と違っていたのは、カレラSのホイール。フロントが20インチで、リアが21インチと大きい。かっこよく見えるし、乗り心地に大きな影響はないようだ。
逆にわずかなオプションが付いていたことで、本当に必要なオプションは何なのか、モデル展開も含めて考える刺激を与えてくれた。特に長期テスト車のボディカラー、アベンチュリン・グリーンは、予想以上のものだった。
グレーがかったダークグリーンが、これほど強い印象を与えてくれるとは思ってもみなかった。何より、控えめな主張が気に入った。周囲に溶け込み、不必要に視線を集めることもない。汚れが目立ちにくい点もうれしい。
クルマとの相互関係が生む丁度いい深み
AUTOCARの英国読者の中にも同じアベンチュリン・グリーンでカレラSを注文し、大正解だったと感じている1人がいる。911を知っている人だからこそできる、懸命な選択に思える。
運転するほどに、911の魅力を知ることができた。直接的な楽しさや心地よさには、丁度いい深みがある。その核にあるのが、クルマとの相互関係にあると思う。
スターターのスイッチを右に捻り、エンジンを始動する瞬間からクルマとの関係性が始まる。フラット6のノイズでも、始動直後は一番心に響くものだと思う。スポーツエグゾーストを付けていても、911の音響的な個性は以前より薄められているから。
カレラは周囲を威圧するようなクルマではない。ドライバーと一体になり、交差点を曲がるだけでも充足感を与えてくれる。
エントリーグレードの911ですら、最高出力は385psもある。2速か3速でアクセルを踏み倒すと、運転免許が存亡の危機に陥るほどのパワーだ。でも、50km/hから110km/hへ加速する高速道路の合流ですら楽しい。
郊外の開けた道へ出れば、感心するほどの落ち着きとインタラクティブ性で、911を深く味わえる。軽快な変速感と、気持ちよく吹け上がるフラット6。すべての操縦系の重み付けは理想的で、快適でありながら鋭く正確にノーズは向きを変える。
ステアリングホイールを握る手のひらと、シートへもたれる背中には、素晴らしいフィードバックが伝わってくる。唯一気になるとすれば、高速道路などで大きいロードノイズくらいだった。
驚くほど深遠な優れた能力
短い期間だったが、多くの体験をさせてくれた。びしょ濡れのカースルクーム・サーキットでは暴れ馬のようだったが、あの状況では驚くような結果ではないだろう。
シルバーストーン・サーキットでは最新のシボレー・コルベットC8に対峙した。ドリフトもしやすい、自由度の高さを改めて確認させてくれた。家族4人で短距離ドライブを楽しんだり、長距離を走り込んだ同僚もいた。
最後に改めて触れたい911のストロングポイントは、信頼性や耐久性と、総合的な実力の高さ。長期テストの間、いつでもどこでも運転できると感じさせてくれた。これから新しいオーナーのもとへ行っても、思い出深いドライブを重ねていくことだろう。
ポルシェ911はとても特別なクルマだ。その深遠なほど優れた能力には、ただただ驚かされるばかりだった。
セカンドオピニオン
わたしが最初に長期テストの911カレラに乗ったのは、ひどく濡れたカースルクーム・サーキット。四輪駆動の911ターボSで数周走った後、すぐに後輪駆動だと気付かされるほどの違いがあった。
周回速度はそれほど高くないものの、濡れた路面でも自由に扱いやすく、ウェット・サーキットでも楽しく運転できた。そんなエントリーグレードの911で、MTが選べないのが残念に思える。 Simon Davis(サイモン・デイビス)
テストデータ
気に入っているトコロ
快適な乗り心地:シャープな操縦性と快適な乗り心地という組み合わせは、小さなマクラーレンと呼びたくなる。
素晴らしい見た目:いつも同じ、とはいわないでほしい。992型のデザインは見事なほどで、長い911の歴史の中でも傑作の1つだと思う。
リアシート:多機能で便利。使い勝手の良いスポーツカーにしている、大切な要素。
気に入らないトコロ
ロードノイズ:高速道路を長距離走る場合は、ロードノイズを打ち消すためにラジオの音量を上げる必要があった。
メーターパネル:5眼メーターは少々情報過多。表示は切り替えられるが、ベストと思える組み合わせには出会えなかった。
走行距離
テスト開始時積算距離:9672km
テスト終了時積算距離:1万2151km
価格
モデル名:ポルシェ911カレラ(英国仕様)
新車価格:8万2795ポンド(1192万円)
現行価格:8万2795ポンド(1192万円)
テスト車の価格:9万891ポンド(1308万円)
オプション装備
スポーツエグゾースト:1844ポンド(26万5000円)
14ウェイ電動スポーツシート:1599ポンド(23万円)
フロント20インチ/リア21インチ・カレラSホイール:1145ポンド(16万5000円)
アベンチュリン・グリーン・メタリック塗装:876ポンド(12万6000円)
ダイナミックLEDヘッドライト:699ポンド(10万円)
パーキングアシスト/リアカメラ:464ポンド(6万6000円)
ツートン・レザーインテリア:422ポンド(6万円)
プライバシーガラス:387ポンド(5万5000円)
自動防眩ルームミラー:387ポンド(5万5000円)
ポルシェ・レストエンボス・ヘッドレスト:161ポンド(2万3000円)
ポルシェ・クレスト・ホイールセンター:114ポンド(1万6000円)
燃費&航続距離
カタログ燃費:9.3-9.7km/L
タンク容量:64L
平均燃費:8.6km/L
最高燃費:10.3km/L
最低燃費:4.3km/L
航続可能距離:548km
主要諸元
0-100km/h加速:4.2秒
最高速度:292km/h
エンジン:2981cc水平対向6気筒ターボチャージャー
最高出力:385ps/6500rpm
最大トルク:45.8kg-m/1950-5000rpm
トランスミッション:8速デュアルクラッチ・オートマティック
トランク容量:132L
ホイールサイズ:20インチx8.5J(フロント)/21インチx11.5J(リア)
タイヤ:245/35 ZR20(フロント)/305/30 ZR21(リア)
車両重量:1505kg
メンテナンス&ランニングコスト
リース価格:1053ポンド(15万1000円/1カ月)
CO2 排出量:233-245g/km
メンテナンスコスト:なし
その他コスト:なし
燃料コスト:338ポンド(4万8000円)
燃料含めたランニングコスト:338ポンド(4万8000円)
1マイル当りコスト:0.22ポンド(31円)
不具合:なし
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