8月下旬以来の再開となったWTCR世界ツーリングカー・カップ第5戦が、アジア・ラウンドのキャンセルにより10月9~10日にチェコ共和国のアウトドローモ・モストでの開催と代わり、レース1ではネストール・ジロラミ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)が、続くレース2ではノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)がそれぞれ今季初優勝を達成。
しかし、この週末にスペインとの“長距離旅行”の強行軍を強いられながら、予選ポールポジションを獲得していたミケル・アズコナ(クプラ・レオン・コンペティションTCR/ゼングー・モータースポーツ・サービスKFT)が、日曜夕刻のミケリスとの神経戦の末に2位表彰台を獲得し、ランキングでも総合3位にジャンプアップして一躍タイトル戦線の主要候補に躍り出た。
WTCR第5戦チェコに地元実力者がワイルドカード参戦。ヤン・マグヌッセンも世界戦昇格に興味
第4戦アドリア・レースウェイの工期遅れによる延期やアジア・フライアウェイ戦のキャンセルなど、シーズン後半戦カレンダーの大幅な改訂を実施したWTCRの決定により、この10月9~10日の週末はリージョン選手権最高峰、TCRヨーロッパ・シリーズの2021年最終戦とバッティングする事態となった。
結果、双方のシリーズに参戦するトム・コロネル(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ)とアズコナは、対策として急遽土曜のタイムスケジュールを“ブランク”としたWTCRの金曜プラクティス&クオリファイから週末をスタートし、セッション終了後にはバルセロナへと飛んで現地土曜の予選&レース1に出場。その結果次第で日曜にはチェコ共和国にトンボ帰りし、それぞれのチームとセッションに臨む“長距離通勤”を余儀なくされた。
その気合を反映してか、ミケリスはFP1から地元ワイルドカード枠参戦のペトル・フリン(クプラ・レオン・コンペティションTCR)に対し、わずか0.07秒差でトップタイムを奪うと、予選でもFP2最速だったミケリスを0.091秒差で降し、WTCRでのキャリア初ポールポジションを手にした。
「開幕戦ニュルからの2戦は、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)の影響で本当にひどい状態だったから、現時点でタイトルを争える状況にいるのは信じられないほど印象的だ」と、苦心の前半戦から振り返ったレース2ポールシッターのアズコナ。
「これがWTCRでの最初のポールポジションだし、とても幸せで心から誇りに思っている。前戦の週末より20kg軽いし、クルマはとても快適だ。明日を経て日曜にはこの機会を最大限に利用しないとね」そうコメントを残してチェコへと旅立ったアズコナ。
WTCRでは思わぬ休息日となった土曜を経て、日曜14時15分スタートの予選トップ10リバースグリッド採用レース1は、地元出身フリンと予選9番手ジロラミがフロントロウに並んでのグリーンシグナルに。
ここでクラッチ不調から混乱の引き金を作ったフリンに対し、ホンダのジロラミは僚友のエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)を引き連れて1-2体制を構築していく。
■シリーズタイトル『3冠』に向け勝負を続けるアズコナ
このスタート時のアクシデントでミケリスを筆頭にフリン、ナサニエル・ベルトン(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ)らが戦列を離れ、セーフティカー明けのリスタート後はホンダ艦隊に対し選手権首位の王者ヤン・エルラシェール(リンク&コー03 TCR/シアン・レーシング・リンク&コー)以下シアン軍団が迫ったものの、ポジション変動には至らず。ジロラミが今季9人目の勝者となり、コロネルに対する予選妨害からグリッド降格ペナルティを科されていたグエリエリが、混乱に乗じて9番手から2位を射止める躍進を果たした。
「ターン1は路面が汚れていたし、スタート前から『誰でも簡単にイン側から刺しに来れる』と本当に警戒していた。車体後方からヒットされたけど、リカバーの秘訣はその前からシフトダウンを終えていたことだった。アクセル全開でターン2で姿勢を取り戻すことに成功したよ」と勝者ジロラミ。
続いてミケリスを先頭に17時10分に始まったレース2は、またしてもオープニングラップで事故が発生する波乱の幕開けとなり、ターン1ではガブリエル・タルキーニ(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)や第4戦の勝者サンティアゴ・ウルティア(リンク&コー03 TCR/シアン・パフォーマンス・リンク&コー)らが絡んでコースオフ。これでセーフティカーが導入される。
その直前、リヤタイヤが「思ったより冷えていた」というアズコナを仕留め、首位に浮上していたミケリスがリスタートでもポジションを守ると、スペイン帰りの新たなヨーロッパ王者とテール・トゥ・ノーズの神経戦を繰り広げる。
終盤に向けなんとか優位を守り抜いたミケリスが「ミケル(・アズコナ)がミラーに写り続けるのは本当に快適でない。キャリアを通じて最もタフなレースのひとつだった」と語りつつ、15周を走破して2019年マレーシア戦以来のトップチェッカー。2位アズコナを挟み、約10秒後方の3位には再びのグエリエリが続き、連続表彰台を獲得する結果となった。
このリザルトにより、ランク首位のエルラシェールに対し25点差の3位に躍進したアズコナは、長旅の疲れも感じさせずに“ダブルタイトル”への意欲を語っている。
「バルセロナとの日帰り旅行で本当に大変な週末だったけど、結局は完璧な結果になった。レース2のスタートでは、リヤタイヤの状態が良くなくて最初の右コーナーでルーズになりポジションを失ったが、クルマはとても快適だったので限界を超えてプッシュすることに決めたんだ」とアズコナ。
「彼(ミケリス)は本当に速かったし、レースを心の底から本当に楽しんだよ。今週末に実現したことをとても誇りに思っている。次のフランス・ポーでもレースに集中し続けたいし、そこでもチャンスはあると思う。もちろん、タイトルのために戦い続けるつもりさ」
そのコメントどおり、続く週末10月15~17日の連続開催となるWTCR第6戦は、電動ツーリングカー選手権『PURE ETCR(ピュアETCR)』との併催を予定するポー-アルノーでの1戦となり、この週末でもアズコナは両カテゴリーとの“乗り分け”を予定。シリーズタイトル『3冠』の可能性に向け勝負を続けることになる。
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