毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
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しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はホンダ エリシオン(2004-2013)をご紹介します。
●【画像ギャラリー】先進・上質を目指したホンダの3列ミニバン!! エリシオン/エリシオン プレステージをギャラリーでチェック!!!
文:伊達軍曹/写真:HONDA
■ミニバンのさらなる価値の創出を目指して登場したエリシオン
「新世代プレミアム8シーター」とのキャッチフレーズを伴い、当時人気を博していた日産エルグランドや、その後ミニバン界の盟主となったトヨタ アルファードのライバルとして2004年に誕生。
しかし「ホンダが考えるミニバンの価値」と、多くのユーザーが考えるそれが噛み合わなかったせいか人気薄となり、1代限りで消えていったLサイズミニバン。
それが、ホンダ エリシオンです。
エリシオンは、2003年の第37回東京モーターショーに出展された「ASM」の市販版で、ミニバンブームの火付け役となった「オデッセイ」より大柄な8人乗りミニバンです。
全長×全幅×全高は4840mm×1830mm×1790mm。当時のオデッセイ(3代目)が4765mm×1800mm×1550(-1570)mmと、とくに全長の違いは目を引く
エクステリアデザインのモチーフは「大海原を疾走する大型クルーザー」とのことで、そのフォルムはLサイズミニバンとしてはワイド&ローなもの。
そして実際、全長4.8m強となるボディは底床・低重心な設計が自慢のひとつでした。
初期モデルに搭載されたエンジンは3L V6および2.4L直4のi-VTECで、インスパイア譲りの3L V6エンジンは走行状況に応じて3気筒を休止させる「可変シリンダーシステム」を備えています。なおトランスミッションは両エンジンとも5速ATが組み合わされました。
その後いくつかのグレードを追加していったエリシオンは、2006年12月にマイナーチェンジを実施。
従来モデルのヘッドランプやフロントフェイスなどを変更すると同時に、最上級グレード「エリシオン・プレステージ」を追加したのです。
2006年12月に発表された上級グレード「プレステージ」(発売は翌1月)。本文にもある通り、アッパーなフロントグリルがベースグレードとの突出した差異を作っている
エリシオン・プレステージは、当時人気だった日産エルグランドと肩を並べる最高出力300psの3.5L V6エンジンを搭載し、いわゆる押し出し感の強いヘッドライトとフロントグリルを採用したグレードです。またそのリアコンビネーションランプも、標準車より大型化されています。
その後も新グレードの投入や一部仕様変更を繰り返すことで、Lサイズミニバンの超売れ筋となったトヨタ ヴェルファイア&アルファードを追撃せんと試みたエリシオンでしたが、結論としてパッとしない販売状況が続いてしまいました。
そのためホンダは2013年10月、エリシオンの生産と販売を終了。
その後、2016年1月にはいちおう「2代目ホンダ エリシオン」が誕生したのですが、こちらは中国市場専用モデルであって、日本では発売されていません。
■走りや3列目への「気配り」が裏目に? エリシオンの敗因とは
なかなかの力作と思えたホンダ エリシオンの売れ行きがパッとせず、1代限りで消滅してしまった理由。
それは結局「ユーザーの嗜好を読み間違えた」ということに尽きるのでしょう。
Lサイズミニバンであっても「地に足のついた走り」でなければならない――との考えから、エリシオンは前述のとおり底床・低重心な設計となり、そのため、ライバルの全高が約1.9mであったのに対し、エリシオンのそれは約1.8mに抑えられました。
またエリシオンの3列目シートは左右に跳ね上げて格納する方式ではなく、座面だけを持ち上げて前に寄せる方式であったため、3列目を格納した際の荷室(特に奥行き)は、ライバルと比べるとどうしても狭くなります。
エリシオンの内装とシートを倒した例(下)。当時の資料からは、現在も3列シートの課題となっている「3列すべてのシートにゆとりと快適性をもたせる」ことへの労苦も垣間見える
しかしその分だけエリシオンの3列目シートはしっかり作られており、なかなか上質な座り心地を味わうことができたのです。
さらにフロントマスクも、「あまりにも押し出し感が強いデザインはいかがなものか……」と開発陣が考えたかどうかは知りませんが、結果として、同種のLサイズミニバンと比べれば格段に上品な顔立ちとなりました。
これらのこと、つまり「背をやや低くすることで走りを向上させ、荷室容量を多少犠牲にしてでも3列目の座り心地にこだわり、そして上品な顔立ちにする」というのは、ホンダとしては「良かれと思ってやったこと」です。
しかし、その思いは通じませんでした。
市場は、というかLサイズミニバンを好むユーザーの多くは、「そんなことよりも、押し出し感の有無のほうがはるかに重要である」と判断したのです。
そのためホンダはあわてて2006年12月に「押し出し感が強い系」であるエリシオン・プレステージを追加したわけですが、最初に付いた「エリシオン=威張りが利かないLサイズミニバン」というイメージを覆すことはできず、プレステージの販売もまた苦戦しました。
リア。日本では初代のみとなったが、生産終了から3年を経た2016年1月中国市場で2代目が発売。全長・全幅・全高は4940mm、1845mm、1710mmと、さらに大柄となっている。
というか、確かにエリシオン・プレステージは押し出し感を狙ったデザインになっていますが、今にして思えばやや中途半端だったようにも思えます。
もっとゴリゴリでベタベタなフロントマスクにしたならば、もしかしたら、もうちょっとは売れていたのかもしれません。
まぁこのあたりについては今さら言っても詮ないことで、とにかく、ホンダは読み間違えたわけです。残念ですが、「でもまぁ仕方ない」とするほかありません。だって、人は誰だってたまには失敗するのですから。
■ホンダ エリシオン 主要諸元
・全長×全幅×全高:4840mm×1830mm×1790mm
・ホイールベース:2900mm
・車重:1940kg
・エンジン:V型6気筒SOHC、2997cc
・最高出力:250ps/6000rpm
・最大トルク:31.5kgm/5000rpm
・燃費:9.8km/L(10・15モード)
・価格:451万5000円(2004年式VZ)
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みんなのコメント
色々見馴れたせいか、プレステージがカッコよく見える。