F1の第22戦ラスベガスGPは、理解するのが難しいレースになった。当初1ストップが主流になると見られていたが、結局ほとんどのマシンが2ストップを選択。そしてレース中には、基本的にはメルセデスが圧倒したものの、フェラーリがそれに追いつくシーンがあったり、そのフェラーリよりもレッドブルの方が速いシーンがあったり、また最後にはやっぱりフェラーリが速くてレッドブルを追い抜いていったり……浮き沈みの激しい展開であった。
こんな展開になったのはなぜなのだろうか? それはひとえに、タイヤの使い方にあったと言えるだろう。
■寒いとバカっ速! ラスベガスで完勝ワンツーのメルセデス、懸念のグレイニングも一切出ず「不思議だね」とウルフ代表
レース序盤、ポールポジションからスタートしたラッセルがポーンと飛び出し、一気に逃げ込みを図るかに見えた。しかしここにフェラーリのシャルル・ルクレールが急接近。4周目から5周目にかけて、ラッセルに並びかけていった。
しかしオーバーテイクに失敗すると、ルクレールのペースがガクリと落ちた。5周目を終えた時点では1.1秒遅れ、以後1.4秒、2.9秒、6.4秒と、あっという間に差をつけられてしまった。その間にはチームメイトのカルロス・サインツJr.やレッドブルのマックス・フェルスタッペンに立て続けに抜かれ、9周を走り切った段階でピットインすることになった。
ルクレールは、このスタート直後の戦いぶりを後悔。「最初のスティントは僕のせいだ。僕もひどいドライブだった」と無線で語るとともに、次のように語った。
「全てコントロールできるように感じていた。しかしその後、1周あたり3秒失うようになってしまった。これは本当に酷いことだったし、驚きだった」
「乱れた空気の中では、その代償を払うことになった。僕にとってはマネジメントが難しかったけど、ちょっとやりすぎた。最初のスティントでタイヤに負担をかけすぎてしまったんだ。だから、僕のせいだ」
そしてルクレールが早々にピットストップしたことが、2ストップが主流となる引き金を引いた。
ルクレールがピットストップした翌周、サインツJr.がこれに反応する形でピットイン。その翌周にはフェルスタッペンが、そしてラッセル、ハミルトンが、いずれも反応する形でピットインした。
各車が1回目のピットストップを終えた時点で、残りの周回数は40周前後。とても1セットのタイヤで走り切ることができる周回数ではなかった。
これについてピレリのモータースポーツ・ディレクターのマリオ・イゾラは、こういったレース展開について次のように説明する。
「数人のドライバーが、タイヤのマネジメントをあまり考えずにスタート直後からハードにプッシュすることを選択したという事実によるモノだった」
「その結果、彼らのうちの何人かは予想以上のグレイニングに苦しみ、最初のピットストップを予定より早く行なわざるを得なかった。それが連鎖反応を引き起こし、特にレースで最も競争力があるコンパウンドであるハードタイヤを2セット使うことができると分かっていたため、全員が2ストップに向かうようになった」
「しかしタイヤを慎重にマネジメントすれば、1ストップで走り切るのも可能だったはずだ」
2ストップになった理由はこれで分かった。では、スティントによって、特にレッドブルとフェラーリの相対的なパフォーマンスに違いが生じたのはなぜなのか?
■パフォーマンスに違いを生んだ、様々な要因
このグラフは、F1ラスベガスGP決勝レース中の上位のドライバーのパフォーマンス推移だ。第2スティント(グラフ上赤丸の部分)は、フェラーリ2台とフェルスタッペンのパフォーマンスはほぼ同一だ。
しかし第3スティント(グラフ上青丸の部分)では、フェルスタッペンがフェラーリ勢から大きく後れをとっている。また、第2スティントでは大いに苦戦したランド・ノリス(マクラーレン)が、フェラーリと同等かそれ以上のペースで走った。特に最終スティント終盤のフェルスタッペンはタイヤの性能劣化に見舞われ、大きくペースを落としているのが分かる(グラフ緑丸の部分)。
このように、各チームの勢力図がレース中に大きく変わった理由は、ひと言では説明できそうもない。
フェラーリのフレデリック・バスール代表は、タイヤが酷く消耗した後、レース後半に改善したことについて尋ねられた際、次のように語っている。
「それがフェラーリだからなのか、ドライバーによるものなのかは分からない。条件の組み合わせによるものだ」
「ドライバーの間で、マシンのセットアップだったり、コンパウンドをプッシュしすぎてしまったりした場合には、2番目と3番目のスティントを見れば分かるように、全員が同じコンパウンドにもかかわらず、パフォーマンスに違いが出る」
「マシンだけの問題ではなく、燃料搭載量やスティントの始め方にも関係しているということだ」
「最初の2~3周で少しプッシュしたドライバーは、少し保守的に走り始めたドライバーよりもグレイニングがずっと大きかった」
グレイニングとは、タイヤが十分に温まらず、適切なグリップ力を発揮できずに接地面が削れてしまう状態を指す。これを避けるためには、タイヤがしっかりと温まる前に無理にプッシュしないことが大切。そのため、最初の数周でプッシュしすぎないことが重要になってくるわけだ。
ただ今回のラスベガスGPは気温と路面温度が低く、タイヤを温めるのが難しかった。しかもタイヤが変形する高速コーナーもほぼないコース……タイヤを温めるためには、ゴムをしっかりと揉むように動かし、内部から発熱させねばならないとされるが、それができるコーナーがあまりないのだ。加えて長い直線があるため、タイヤが冷えてしまう。一説には、ラスベガス・ストリップの2kmにも及ぶストレートでは、35度も冷えてしまう状態だったらしい。そういう様々な条件により、タイヤの扱いが難しかったということであろう。
そんな中で”なぜか”メルセデスは、しっかりとタイヤを扱うことができ、グレイニングにもほぼ悩まされなかったという。その上、路面のバンプが少なかったために車高をギリギリまで下げることができ、力強いパフォーマンスを発揮することができたようだ。
そういう意味では、F1の難しさが詰め込まれたグランプリだったと言えよう。そしてこういうことが時には起こりうるというところが、F1の面白さと言えるかもしれない。
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