現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > マラネロ初の市販モデル フェラーリ166 MM 25台のバルケッタ 1948年のゲームチェンジャー(2)

ここから本文です

マラネロ初の市販モデル フェラーリ166 MM 25台のバルケッタ 1948年のゲームチェンジャー(2)

掲載 2
マラネロ初の市販モデル フェラーリ166 MM 25台のバルケッタ 1948年のゲームチェンジャー(2)

軽量・高回転型V12ユニットで新時代を開拓

「4000rpmが上限のシフトアップはやめましょう。6000rpmまで回して大丈夫です」。フェラーリ166 MMのオーナー、クライヴ・ビーチャム氏が筆者を向いて声を上げる。

【画像】1948年のゲームチェンジャー シトロエン2CVとフェラーリ166 ルノ−4とディーノほか 全110枚

「回転数を使い切らないと、実際の能力は味わえませんから」。極めて希少なフェラーリ創成期のスポーツカーに対し、何とも寛大な発言といえるが、確かにクライヴの意見は正しい。しっかり回すことで、本来の動力性能が引き出される。

2.0L V型12気筒エンジンの豊かなパワーが、5速MTを介しリアタイヤへ伝わる。技術者のジョアッキーノ・コロンボ氏が生み出したレーシングユニットが、ドライなサウンドを高めていく。

2023年でも、この上なく素晴らしい体験だ。166 MMが登場した75年前は、相当なインパクトだったことは想像に難くない。

ライバルメーカーだったタルボ・ラーゴは、大排気量エンジンで戦後のモータースポーツを牽引した。だがフェラーリは、排気量が小ぶりな軽量・高回転型ユニットで新時代を切り拓いた。

その頃ステアリングホイールを握った、レーシングドライバーのクレメンテ・ビオンデッティ氏はミッレミリアで優勝し、ルイジ・キネッティ氏はル・マン24時間レースで優勝。フェラーリとして初めて一般に販売されたバルケッタは、驚異的な強さを証明した。

以来、V12エンジンがフェラーリの象徴になった。ステアリングやブレーキなど、シャシーのすべてが確実な走りを担保していた。優れたコーナリング性能は、現在のグッドウッド・サーキットでもつぶさに確かめることができる。

速さを表現する滑らかなスタイリング

美しいボディを創出したのは、カロッツエリア・トゥーリング社に所属していた、才能豊かなカルロ・フェリーチェ・アンデルローニ氏とフェデリコ・フォルメンティ氏。フェラーリの速さを、滑らかなスタイリングで見事に表現している。

シンプルな曲線を描くフォルムは均整が取れ、大きなタイヤがホイールアーチを満たし、力強い印象を与える。ボディサイドは柔らかくカーブし、上品さも漂わせる。

インテリアのトリム上部には、堅牢そうなステッチが張り巡らされている。ダリが描いたように魅惑的なティアドロップ型のテールライトが、リアエンドの個性を作る。ディティールのひとつひとつが、印象的な佇まいを形成している。

1948年のイタリア・トリノ・モーターショーで発表された166 MMは、フェラーリを知らしめる存在になった。心が奪われた裕福な自動車好きの1人には、27歳だったジャンニ・アニェッリ氏も含まれていた。

彼はイタリアの実業家で、財布の紐は緩かった。反して祖父は国を代表する自動車メーカー、フィアットの創業者で、新しいフェラーリのスポーツカーを購入したいという願いは認められなかった。

ところが気持ちを抑えきれず、変装してミラノのカロッツエリア・トゥーリング社を訪問。こっそり自身の166 MMをオーダーしたらしい。

身体の周りを空気が流れる忘れられない感覚

ジャンニは、デザインに対する審美眼を持っていた。シャシー番号0064Mのために注文されたボディは、25台作られたバルケッタで最も美しいディティールを持つといっていいだろう。

多くの顧客は、レース目的で走行性能を優先させた。しかし、彼はスタイリングの美しさに焦点を向けていた。

オリジナルからの変更点は、レザーストラップで固定されるエアインテークのないボンネットと、低いフロントガラス、水平方向のバーが強調されたフロントグリルなど。メタリック・グリーンとブルーのツートーン塗装も、0064M独自の特徴といえた。

そのフェラーリを、ジャンニがどの程度運転したのかは明らかではない。アニェッリ家では秘密にされており、本人が運転する写真も残っていないが、166 MMを深く気に入っていたことは間違いないようだ。

「ボディは軽く機敏。運転しやすく、ハイスピードでは身体の周りを空気が流れる、忘れられない感覚を与えてくれるんです」。と、後に彼は振り返っている。

「上半身はボディの外。マフラーにはサイレンサーがなかったので、サウンドも素晴らしかった。ブガッティを運転することも多かったですが、フェラーリはまったく違います。新世代のクルマといった感じでした」

ルーフやトノカバーが備わらないジャンニの166 MMは、トゥーリング社の美しいスタイリングを引き立てた。「天気の良い日にしか乗れませんでした」。とも認めている。ところが、そんな時間は長く続かなかった。

コンクール・デレガンスの招待状が殺到

フィアットのワゴンを運転中にトラックと衝突し、右足の切断へ迫られたジャンニは、166 MMを売却。その後、レーシングドライバーだったオリビエ・ジャンドビアン氏やジャン・ブラトン氏が所有し、サーキットで素晴らしい実力を発揮させた。

1952年から、ジャンニが手放した166 MMの販売とメンテナンスを請け負っていたのが、ガレージ・フランコルシャン社のジャック・スウォーターズ氏。自信も愛着を抱き、6度も販売しつつ、その都度別れを惜しんできた。

1967年、同僚がベルギー・アントワープのガレージに眠るシャシー番号0064Mを発見。ジャックが再び手入れを施すことは、必然といえた。

レストア作業は丁寧に、確実に進められ、ジャンニのツートーン・カラーは再生。その情報が知られると、世界各国からコンクール・デレガンスの招待状が殺到したという。ニューヨーク近代美術館での展示も打診された。

現オーナーのクライヴがこの166 MMを目にしたのは、イタリア・フィレンツェでの展示会。美しさに魅了され、ジャックに売って欲しいと願い出るも、断られ続けてきた。彼がこの世を去ると遺族の承諾が得られ、英国での暮らしが始まった。

特別な歴史を持つ稀代のドライバーズカー

クラシックカー・イベントでは、花形といえる注目を集める166 MMだが、トレーラーで丁重に運ばれるお飾りではない。彼が所有する3台のフェラーリと同様に、定期的にイタリアまでのグランドツアーを楽しんでいる。

特徴的な排気音を石壁へ響かせつつ、フェラーリの故郷では常に歓迎されるとか。2023年の年末には、アメリカで開かれるペブルビーチ・コンクール・デレガンスへ出展予定。クラシックカー・チャリティ・ラリーのコロラド・グランドにも出場するそうだ。

166 MMの魅力は、妖艶なスタイリングだけではない。ミッレ・ミリアやル・マン24時間レースでの優勝という特別な歴史を持つ、稀代のドライバーズカーだからこそ、人を惹きつけてやまないのだと思う。

フェラーリ166 MM(1948~1950年/欧州仕様)のスペック

英国価格:2000ポンド(新車時)/800万ポンド(約12億8800万円)以下(現在)
販売台数:46台(トゥーリング・バルケッタ:25台)
全長:−mm
全幅:−mm
全高:−mm
最高速度:209km/h
0-97km/h加速:8.3秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:650kg
パワートレイン:V型12気筒1995cc自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:142ps/7000rpm
最大トルク:16.1kg-m/5000rpm
ギアボックス:5速マニュアル

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

「ランクル」兄弟で最もモダンな“250”に試乗! オンロードでもオフロードでも隙がない万能モデルだ。【試乗レビュー】
「ランクル」兄弟で最もモダンな“250”に試乗! オンロードでもオフロードでも隙がない万能モデルだ。【試乗レビュー】
くるくら
「クルマの左寄せ」苦手な人が多い!? よく見えない「左側の車両感覚」をつかむ“カンタンな方法”がスゴい! JAFが推奨する“コツ”ってどんなもの?
「クルマの左寄せ」苦手な人が多い!? よく見えない「左側の車両感覚」をつかむ“カンタンな方法”がスゴい! JAFが推奨する“コツ”ってどんなもの?
くるまのニュース
全長2.5mで新車100万円級! トヨタの「斬新2シーターモデル」がスゴイ! めちゃお手頃サイズなのに「必要にして十分」の“おふたりさま向けマシン”とは
全長2.5mで新車100万円級! トヨタの「斬新2シーターモデル」がスゴイ! めちゃお手頃サイズなのに「必要にして十分」の“おふたりさま向けマシン”とは
くるまのニュース
アルピナの未来、26年「BMW傘下」でどう変わる? 高性能EV&Mモデルとの差別化を考える
アルピナの未来、26年「BMW傘下」でどう変わる? 高性能EV&Mモデルとの差別化を考える
Merkmal
高すぎるよぉ…! 価格が暴落したら買いたいスーパーカー3選
高すぎるよぉ…! 価格が暴落したら買いたいスーパーカー3選
ベストカーWeb
男性が乗って女性にモテるクルマTOP5は? ChatGPTに聞いて出た「ホントかよ!」な答えとは!!
男性が乗って女性にモテるクルマTOP5は? ChatGPTに聞いて出た「ホントかよ!」な答えとは!!
WEB CARTOP
悲喜交々のST-4。「複雑な気分」のENDLESS GR86と「逆に清々しい気持ち」で5連覇を逃した冨林勇佑
悲喜交々のST-4。「複雑な気分」のENDLESS GR86と「逆に清々しい気持ち」で5連覇を逃した冨林勇佑
AUTOSPORT web
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
レスポンス
「とりあえず増税ね」で50年!? 「世界一高い」自動車諸税&ガソリン税“見直し”正念場 “年収の壁”の向こうの璧
「とりあえず増税ね」で50年!? 「世界一高い」自動車諸税&ガソリン税“見直し”正念場 “年収の壁”の向こうの璧
乗りものニュース
あれぇぇ!? [ノートオーラNISMO]と[シビックRS]を比較してみると意外な結果
あれぇぇ!? [ノートオーラNISMO]と[シビックRS]を比較してみると意外な結果
ベストカーWeb
レゴ、F1全チームをテーマにした製品を2025年1月1日から販売開始。往年の名車ウイリアムズFW14Bなど“オトナ向け”製品も3月に発売
レゴ、F1全チームをテーマにした製品を2025年1月1日から販売開始。往年の名車ウイリアムズFW14Bなど“オトナ向け”製品も3月に発売
motorsport.com 日本版
ホンダが「凄い施設」を初公開! 夢の「全固体電池」実現に一歩前進!? パイロットラインを栃木で披露
ホンダが「凄い施設」を初公開! 夢の「全固体電池」実現に一歩前進!? パイロットラインを栃木で披露
くるまのニュース
ラリージャパン2024がついに走行開始。シェイクダウン1走目の最速はヌービル/WRC日本
ラリージャパン2024がついに走行開始。シェイクダウン1走目の最速はヌービル/WRC日本
AUTOSPORT web
MotoGPマシンデビューの小椋藍選手 初走行の印象は……【MotoGPバルセロナ公式テスト】
MotoGPマシンデビューの小椋藍選手 初走行の印象は……【MotoGPバルセロナ公式テスト】
バイクのニュース
ダイハツが新型「軽SUV」発表! 打倒「ジムニー!?」な“5ドア”モデル登場! タフすぎる「ゴツ顔×カクカクボディ」採用した“新型タフト”138万円から発売!
ダイハツが新型「軽SUV」発表! 打倒「ジムニー!?」な“5ドア”モデル登場! タフすぎる「ゴツ顔×カクカクボディ」採用した“新型タフト”138万円から発売!
くるまのニュース
ゼンリン、パナソニックのカーナビ「Strada」向け最新地図データ発売へ…12月2日
ゼンリン、パナソニックのカーナビ「Strada」向け最新地図データ発売へ…12月2日
レスポンス
下取り額爆上がり? アルヴェルのドアの速さまで変えられるトヨタの[KINTO FACTORY(キントファクトリー)]がすごい!
下取り額爆上がり? アルヴェルのドアの速さまで変えられるトヨタの[KINTO FACTORY(キントファクトリー)]がすごい!
ベストカーWeb
チャンピオン争いで明暗を分けた要因と変化がもたらす2025シーズンへの期待/MotoGPの御意見番に聞くソリダリティGP
チャンピオン争いで明暗を分けた要因と変化がもたらす2025シーズンへの期待/MotoGPの御意見番に聞くソリダリティGP
AUTOSPORT web

みんなのコメント

2件
  • 色がいいね
  • 166MMは多分十数億円なのだろが、私にとっては0円。
    288GTOやF40の方が遥かに魅力的だし、なんならF355や328の方がワクワクする。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

555.5599.6万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

97.8200.0万円

中古車を検索
166の車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

555.5599.6万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

97.8200.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村