これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、ベース車が改名されたあとも「マークII」のネーミングを継続して名乗り続けたワゴンモデル、ブリットを取り上げる。
こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】今こそマークIIよりも強い個性を主張していた高級FRツーリングワゴン[ブリット]が欲しい!!!
文/フォッケウルフ、写真/トヨタ
【画像ギャラリー】上質さとワゴンの使いやすさを両立していたマークIIブリットの写真をもっと見る!(5枚)
■オワコンだったセダンとは違う魅力で存在感をアピール
2000年代初頭、実用系車種の選択肢としてワゴンがまだ注目されていた頃に、マークIIブリットは誕生した。マークIIワゴン クオリスの後継モデルとして2002年1月に発売されたが、前身のモデルがFF駆動のカムリ グラシアをベースにしていたのに対し、マークIIブリットは、9代目マークII(セダン)のプラットフォームを用いており、駆動方式はFRへと回帰していた。
カクカクした4灯ヘッドライトを筆頭に、高級感のある独創的なフォルムでまとめられていたブリット
「後輪駆動」の「ツーリングワゴン」という、いかにもクルマ好きの琴線に触れる要素を持ち、ベース車からプレミアムな雰囲気を継承したブリッドは、「高級FRツーリングワゴン」というコンセプトを掲げ、シャープで流れのあるフォルムと、上質でゆとりの室内空間を備えたミドルサイズワゴンとして、当時“オワコン”になりつつあったマークIIシリーズの一翼を担う存在として期待された。
5人乗りのワゴンボディはセダンより全長が40mm長い4775mm、全幅は1760mmに設定されて堂々とした雰囲気を漂わせていた。エクステリアはコンサバすぎたマークIIに比べると、シャープで流れのある造形によって走りを予感させる仕上がりだった。
フロントまわりは、縦形独立4灯ヘッドランプと、翼断面形状の横バーやメッキバーで構成されるグリルによって格調とスポーティさを演出。縦方向の流れを強調するラインを配したボンネットも躍動感の表現に一役買っている。
そんなフロントのイメージを繋ぐサイドもスムーズな流れを意識した造形となっており、特に傾斜を強めた特徴的なクォーターピラーが力強さを印象付けていた。
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■広い荷室を便利に活用するためのアイディア装備が充実
車内は上品な仕上がりにこだわった作り込みがなされている。メタルメッシュ調の加飾を要所に施すことで高級かつスポーティな雰囲気を演出。ユーザーが触れる部分の質感にこだわりながら、優れた視認性や操作性を実現しているのも見逃せない。
また、スカッフプレートをメタル調とするとともに、アクセル、プレーキペダル、フットレストの表面にスリットバターンのアルミプレートを採用するなど、細部の作りにも抜かりない。こうした作りによって、室内は「高級FRツーリングワゴン」に相応しいものとなっていた。
張りのある面構成のバックドアに加え、シャープな造形のメッキガーニッシュとグリーンティント色のバックアップランプや、美しく光る縦形リヤコンビネーションランプによってプレミアムな印象をアピールしている
ワゴンボディなので荷室は十分に広いうえに、使い勝手を高める機能も充実している。5名乗車時でも475Lの容量が確保され、6対4の分割可倒式のリアシートを前方へ倒すことで、さらにワイドでフラットなスペースが出現する。
広い荷室を有効活用するための機能としては、270mmのスライド機構を有したトノカバー、折りたたみ式ラゲッジボックス、さらにフロア下には大容最のデッキアンダートレイが採用された。
バックドアの開口部はスクエアな形状で荷物がスムースに積み込めるよう配慮され、バックドアには、ハンドル内のスイッチを軽く押すことでロックを電気的に解除し、優れた操作性を実現した電気式アウトサイドハンドルを標準装備されている。実用性については申し分のない能力を実現していた。
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■卓越したパフォーマンスによって実用車の概念を覆す
スポーティな走りが味わえるのもブリットのセールスポイントだった。パワーユニットは2.5Lターボをはじめ、2.5L、2.0Lの自然吸気エンジンを用意する。いずれも車格に見合う動力性能を持ち味とするが、なかでも2.5Lターボは、低回転域から太いトルクをなめらかに発生させるエンジントルク制御を採用することで、パワフルかつスムーズな走りが味わえた。
売れ筋は2.5L直噴の1JZ-FSEエンジンとなる。直噴化によって超希薄燃焼を可能とし、さらにインジェクターによる燃料噴霧の高分散化、燃料噴霧形状とビストン頂面形状の最適化を追求することで超希薄燃焼領域を拡大。スーパーインテリジェント5速ATの効果も相まって、力強い走りとアクセルワークにリニアに応える優れたドライバビリティを実現しながらクラストップレベルの低燃費を達成していた。
足まわりの特性も“ワゴン=実用車”という概念を覆すものとなっていた。ヨー慣性モーメントを抑えられるFRプラットフォームの恩恵により、操舵に対する応答性が優れ、荒れた路面における収束性も抜群にいい。
特に圧ガスを封入した気液分離タイプを採用し減衰力追従性を高めた新開発リアショックアブソーバー効果は絶大で、状況を問わずハイレベルな操縦性と走行安定性、さらに快適な乗り心地を両立した。
ワゴンの場合、積載する荷物の量による走りへの影響が懸念されるが、ブリットにはセルフレベリング機能が設けられており、乗車人数や荷物積載の量にかかわらず安定した走りと、なめらかな乗り心地が味わえた。
インパネはマークIIに準ずる形だが、今見ても十分質感が高く、上品に仕上げられている
ワゴンでありながら、スポーティなパフォーマンスを持ち味としながら実用性についてもユーザーを満足させるという点では、セダンよりも売れ筋になる要素を持ち、ユーザーの満足度が高いクルマだったのは間違いない。
しかし、実用系車種としてミニバンが市場で急速に勢力を拡大していた状況では販売台数は振るわなかった。そもそもベースとなるセダンのマークIIは販売不振の影響を受け、2004年にモデルチェンジしたのを機に車名を「マークX」へと変更している。しかしブリットはそのまま販売を継続し、「マークII」のネーミングはブリットのみが引き継いだ。
2004年12月には意匠の小変更とテールランプのLED化を実施し、2006年5月にはブリットのスポーティイメージを牽引したターボエンジン搭載車が、排気ガス対策の影響で生産を終了。そして、2007年6月にはブリットそのものが販売を終了した。後継モデルは登場しなかったが、実用的なステーションワゴンでありながら、走りを心底楽しむことができた、なかなかの実力車だったといっていい。
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みんなのコメント
コノ筆者が作ったクルマが見たいもんだ。